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この気持ちは……

東堂君行き倒れ事件から数日。

校内では相変わらず本を読んでいる東堂君の姿は見かけるが、あの日以来話はしていない。

これといって話すことも無いし、話しかけられても迷惑だろうと思ったから私からは話しかけないようにしている。


そんなある日──


「琴美~~!!今日暇!?暇よね!?合コンの人数合わせお願い!!」


「ヤダ」


5時限目の授業が終わり、教科書を片付けている時にりっちゃんが教室に駆け込んで来た。

私の席に来るなり合コンの参加を強要してきた。

まあ、これが初めてのことでは無いから慣れてるんたけど、こうも食い気味に来られるとちょっとたじろぐ。


「お願い!!今日の面子は何と、弁護士の卵よ!!絶対成功させたいのよ~」


弁護士だろうが、医者だろうが私には関係の無い事。

だけど、確かにいつもよりもりっちゃんは必死なのが分かる。


(これは、本当に狙いにいってるな)


りっちゃんには幸せになって欲しいとは思っている。


「はぁ~。分かった……今回だけなら……」


そう言うと「ありがとう!!」と抱きついてきた。

まったく現金なヤツだ。と思いながらもりっちゃんが嬉しそうなのはこちらも嬉しい。


「じゃあ、また迎えに来るね!!」


元気に手を振り私の元を去っていった。


(仕方ない、支度するか……)


リュックに教科書を詰め、せっせと帰り支度をしているとポンッと肩を叩かれた。


「わっ!!」


驚き、後ろを振り向くと「す、すみません!!」と謝る東堂君が立っていた。

この人は相変わらずだなと思いながら見ていると「あの、ちょっと、いいですか……?」と教室から連れ出され、連れてかれた場所は屋上。


何故こんな所に?と思っていると、何故か東堂君は真剣な顔でこちらを見てきた。


「すみません。こんな所に……」


「いや、別にいいんだけど。何の用?」


理由を聞くが「あの……えっと……」とはっきりしない。

早くしないとりっちゃんが迎えに来ちゃうと思った私は「用がなければ戻るよ?」と伝えると、東堂君は俯きながら私の肩を掴んだ。


(ん?)


意外な行動に驚いていると、東堂君は口を開いた。


「……ですか?」


「何?」


「……合コン……行くんですか?」


最初の言葉は小さすぎて聞こえなかったが、二度目の言葉ははっきり聞こえた。

まさかりっちゃんとの会話を聞かれていたとは思いもしなかった。


「それ、東堂君に関係ある?」


けれど、私が合コンに行こうが行かまいが東堂君には関係の無い事。

それよりも早く戻らなければと、気が急いで少しキツい言い方になってしまった。

東堂君は私の言葉を聞くと何故かショックを受けたような顔をした。

私は先程の言葉を後悔したが、言ってしまったものは仕方ない。


(もう、話しかけてくれなくなるかもしれないな……)


そう思うと少し寂しかったが、東堂君を助ける前の関係に戻るだけ。

助ける前は、ただの同級生。目を合わせることもなければ、会話を交えることも無い。


(そう、元に戻るだけ……)


俯いているとフワッと暖かい温もりに包まれた。

一瞬何が起こったのか分からなかった。

けど、どうやら私は東堂君に抱きしめられているらしい……


「とう……どうくん?」


「す、すみません!!急にこんな……」


自分から抱きして来たのに、謝ってくるとこを見て「いつもの東堂君だ」と安心した。

でも、この状況は何だ?


「すみません……」


耳元で東堂君の声が、息がかかってる……

東堂君の匂いがする……東堂君の……心臓の音が聞こえる……


東堂君の腕の中でジッとしていると、ギュッと力が込められた。


「……君を……合コンに行かせたくない……」


(えっ?)


消え入りそうな声で言われた。


(それって……どういう……?)


「す、すみません!!僕みたいな奴が図々しいでよね!!彼氏でもない人間に言われても気持ち悪いですよね!!すみません!!忘れてください!!」


戸惑っている私を自分の腕の中から解放するなり、早口で言ってきた。

東堂君の顔は真っ赤だった。

でも、私は彼の意図が聞きたい。


「……何で私を合コンに行かせたくないの?」


そっと東堂君の頬に触れながら問いかけると、ビクッと肩が震えたが今にも泣きそうな顔になりながらゆっくり話してくれた。


「……ぼ、僕は、こんな性格だし……友達もいないし……女の子も苦手だし……」


話しながらどんどん顔が下を向いていく。

けど次の瞬間、バッと顔を上げ真剣な顔をしながら私の目をちゃんと見て言った。


「けど、上野さんは苦手じゃない。……初めてなんだ……こんな気持ち……」


徐々に泣きそうになる東堂君を見つめると胸が締め付けらるようだった。

こんなに臆病なのに、私を合コンに行かせたくない一心で……


(これ、ヤバいな……)


「……上野さん……?」


私は恋はしない……そう決めていた。

それなのに……


(なんだ、この気持ちは!?)


心臓がバクバクしてる。

目の前の東堂君の顔がちゃんと見れない。

今、私の顔は真っ赤なんだろうと自分でも分かるほど顔が熱い。

この気持ちの正体に気づいている自分もいるが、それを認めない自分もいる。


「すみません……上野さんを困らせるつもりじゃなかったんです……でも、きっと、僕、上野さんの事が──」


東堂君が申し訳なさそうにしながら謝る姿に胸が傷んだ。

こんな事言わせているのは私のせい。そう思ったら言葉よりも先に体が動いていた。


話す東堂君の唇を奪っていた。


「……私もね。こんな気持ちになるの初めてなの……」


唇を離すと、東堂君は真っ赤になり口を抑えた。


「この気持ちが何なのか分からない……教えてくれる?」


「いや、えっと、えぇ~~!?」


慌てている東堂君の姿が可愛くって思わず笑みがこぼれた。

「からかわないで下さい!!」と怒っているが、何も怖くない。


「さてと、りっちゃんが待ってると思うし戻ろうか?」


「えっ!?」


そう言うと、真っ赤な顔が真っ青に変化した。

まだ私が合コンに行くと思っているらしい。


「ふふっ。行かないよ、合コン。早く戻って断らないと代役見つからないでしょ?」



◇◇◇



その後、教室に戻ると既にりっちゃんが待っていたので、先程の一連の流れを説明し合コンには行けないと伝えると、りっちゃんは残念なりながらも快く承知してくれた。

そして、私と東堂君をニヤニヤしながら見て一言「お幸せに」と言って、私の代役を探しに教室を出て行った。


残された私と東堂君は互いに顔を見合わせ「ふふっ」と微笑み合った。

そして東堂君の前髪を上げ、目を見ながら「これで安心?」と問いかけると、一瞬で東堂君の顔が真っ赤に変わった。

また謝るのか?と思っていた。


「はい。ありがとうございます」


照れながらも可愛らしく微笑みながらお礼を言われた。

その顔を見たら「はぁぁ~~」と溜息が出た。


(何て顔するんだ……)


「すみません!!やっぱり行きたかったですよね!?今からでも……」


溜息なんて吐いたもんだから東堂君が勘違いして、りっちゃんを連れ戻に行こうとしたが、それを慌てて止めた。


「違う!!違うの!!だから……ここに、いて?」


気付いたらこんな事を口走っていた。

その言葉に目を丸くして驚いている東堂君。

まさか自分が他人に甘えることがあるなんてと、本人が一番驚いている。

そんな私を東堂君が優しく抱きしてくれた。


(あぁ~、東堂君の匂いだ)


東堂君に抱きしめられると何故か安心する。ずっとこうしていたいと思ってしまう。


「……上野さん……僕、こういう感情は初めてなので、どうしたらいいのか分からないんですけど……嫌じゃないですか?」


不安そうに聞いてくる東堂君に「大丈夫」と一言伝える。


「……さっきも言ったけど、私も初めてなの。どれが正解なのか分からない。分からなければ二人で正解を見つければいいんじゃないの?」


二人なら見つけられそうだと思った。

東堂君はゆっくり頷き、私を抱きしめている腕に力を込めた。


私は恋はしない……そう決めていたけど……

この気持ちは恋なのか?それとも友情?分からない。


ねぇ、東堂君、教えてくれる?

最後まで読んで頂き有難うございました。

この後の展開をR18で書こう悩み中です……

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