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拾いました……

「……えっと……東堂くん?」


私は目の前に倒れている人間に見覚えがある。

東堂柊一。話したことは無いけど、同じ専門学校だから顔見知りではある。

いつも下を向いて歩いてて、誰かと話している姿は見たことが無い。その代わり今の様に本を読む姿をよく目にしていた。


その彼が、私の目の前に倒れている……


◇◇◇


私、上野琴美は夢であるアニメクリエーターになるべく専門学校に通う20歳。これと言った特技もなく、唯一の趣味は漫画集め。漫画さえあれば何もいらないと思っている人間なので、当然彼氏無し。周りはキャンパスライフを存分に楽しんでいるが、私からしたらそんな事に現を抜かしている暇があれば、一刻も早くクリエーターの道に進みたいと思っている。それに、恋愛は漫画の中だけで充分。現実(リアル)は漫画のようにいかない。嫉妬や妬み、わがままや暴言。漫画のように綺麗ではない。それに一番の理由は自分の時間が無くなること。


(私は一生綺麗な身体のまま、独りで生きていく……)


そんなこんなで今日も今日とて、親友八重原織都(りつ)こと、りっちゃんと一緒に中庭でランチ中。

りっちゃんは社交的で可愛く、皆から慕われている。それに比べ私は根暗で愛想も良くない。何故りっちゃんが私に構っているのか謎でしかない。


そんな彼女の最近の話題はもっぱら


「あぁ~、素敵な恋がしたい!!」


これだ。


どうやら一年付き合った彼に浮気された挙句振られたらしい。

やっぱり現実(リアル)はろくなもんじゃない。


「……りっちゃんも懲りないね。浮気されたのにまだ恋したいの?」


「いい事琴美!!女は恋をして綺麗になるの!!要はサプリメントみたいなものなの!!常に恋をしてないとダメなの!!」


お弁当の卵焼きを食べつつ返事をすると、物凄い勢いで答えが返ってきた。


「そ、そうなの?」


りっちゃんの言葉を聞いても、私は恋をしたいとは思わない。恋をして傷つくのはいつも女の方。

私は自分を犠牲にしてまで恋をしたいとは到底思えない。


「琴美も一度恋をすれば分かるわよ」


そう言いながらりっちゃんは私のお弁当箱の中から唐揚げをつまみ上げそのまま口の中へ。


「……私の唐揚げ……」


りっちゃんの口の中に消えていった唐揚げを見ていたら、スッとりっちゃんが立ち上がり「よしっ!!決めた!!」と何やら決意した模様。


「ちょっと合コンのセッティングしてくる!!新しい恋は自らの手で探さないとね!!」


それだけ言うと、私の返事も聞かずに「じゃあね!!」と颯爽に去っていった。


「……え?私、唐揚げ食べられただけ……?」


しばらく呆気に取られていたが、次の授業のチャイムで我に返り素早くお弁当を片付け、教室へと急いだ。


◇◇◇


「今日は厄日だ……」


結局授業には遅刻し罰として教室の掃除をさせられ、そのせいでバイトに遅刻し更に店長にドヤされ、早く帰りたいが為に公園を横切っていたら倒れている人発見。

そして、冒頭に戻る。


「このままにはしとけないし……救急車?いや、警察か?」


携帯を手に悩んでいると、足首を掴まれた。


「きゃーーーーーー!!!!」


突然の事に驚き、悲鳴が響きわった。


「……す、すみません」


消え入りそうな声が足元から聞こえたので、下を恐る恐る見ると、東堂君が顔を上げこちらを見ていた。


「えっと、あの、大丈夫……ですか?」


しゃがみこみ顔をよく見ると、その顔は紛れもなく東堂君だった。

怪我をしているようには見えないけど顔色は悪い。

調子が悪いなら救急車を呼ばなきゃと携帯を鳴らそうとしたら「ま、待ってください」と止められた。


「あ、あの、す、すみません。お、お腹が……」


グ~~~~~………


静まり返った暗闇に鳴り響く空腹の音……


「ぷっ……あははははは!!!!」


このご時世に空腹で倒れるとか……ありえないと考えたら笑いが込み上げてきた。

爆笑する私に、顔を真っ赤にして俯く東堂君。


「あは……はぁ……はぁ……ごめん。まさか行き倒れに遭遇する時が来るとは思っても見なかったもので……ふふっ」


「い、いいんです。悪いのは僕なので……」


今にも泣きそうな東堂君をそのままにしてもおけず、仕方なく公園を抜けた所にある私のアパートまで連れてきた。

顔見知りとは言え、初めて話した人を家に招くのは軽率だっただろうか?


(でも、ほっとけなかった)


「散らかっているけど、どうぞ」


家に招き入れると、すぐに冷蔵庫の中を確認した。

卵と、ハム、それに半分だけの人参と一個だけのピーマン……ろくなものがないな……

考えても仕方ないので、この材料でできるモノは……

炒飯一択。


急いで作り、東堂君の元へ運んでいくとリビングの床にちょこんと正座で座っていた。

その姿が不覚にも可愛いと思ってしまった。


「味の保障は出来ないけど、空腹は満たされるはずだから」とインスタントのスープと共に差し出すと、ハフハフしながら食べてくれた。

私はその姿を黙って見ていた。


(そんな急いで食べないでも、取らないのに)


カランッ……


一粒残さず完食でした。


私は空いた皿を片付けようと立ち上がろうとした時、その腕を掴まれた。


「……何?足りなかった?」


「あ、いえ、あ、あの、ありがとうございました。お、美味しかった……です」


初めて明るい場所で東堂君の顔を見た。

と言うか、東堂君はいつも下を向いているからまともに顔を見たことある人が居ないのかもしれない。

そっと目にかかている前髪を退かしてみた。


(こうして見ると、綺麗な顔してるんだな)


「あ、あの……!!」


「あぁ、ごめん。東堂君、前髪あげれば?結構モテると思うよ?」


パッと手を退け、東堂君に伝えた。

まあ、このオドオドした性格を治さなきゃ長続きはしないだろうけど。


「──ぼ、僕、女の人が苦手で……」


「ん?」


私は生物学的には女の部類に入るのだが?

それとも何か?とても女には見えなかったか?あん?


「あっ!!ち、違うんです!!上野さんは大丈夫……いや、ちゃんと女性として見てますけど……いや、あの、す、すみません!!」


何でだろう……私が虐めている様に見える。

この人、色々と残念男子だな。と思いつつ、空いた皿を手にキッチンへ。

すると、東堂がやって来て「僕が洗います!!」と言い出した。

いや、ここは私の家だし、東堂君は一応招かれた?お客様だから座っててと言っても皿を離さない。


(何だこの人、割と頑固だな)


と思ったら……


パリンッ!!!


割れた。

互いに皿を離さなかったから、変な圧力がかかったのだろう。見事に真っ二つ。


「~~~っ!!!す、すみません!!!弁償します!!」


東堂君は真っ青になり、土下座で謝ってくる。


「そんな事はどうでもいいよ。──怪我してない?」


「見せて」と手をとると、先程まで真っ青だった顔は真っ赤に変化した。


(ふふっ、リトマス紙みたいで面白い)


「あぁ、ちょっと切れてるね。待って、絆創膏あるから」


「い、いいです!!大丈夫です!!こんなの唾付けとけば治ります!!」


そういうなり、切れた部分を舐めて見せた。

それじゃバイ菌が入るからと、絆創膏を無理やり貼ってやった。


「ごめんね。こんな柄物しかなかった」


貼った後に指に巻いた絆創膏を見せると、そこには可愛らしいクマさんのイラストが入った絆創膏が貼ってある。

東堂君はちょっと困った素振りを見せたけど「大丈夫です」と微笑んでくれた。

初めて見せたその笑顔は不覚にもカッコイイと思ってしまった……


私は食後のお茶を出しながら、東堂君にどうしてあんな所で行き倒れになっていたのかを聞いた。

どうやら今日のお昼を忘れただけではなく、財布も忘れたらしく何も飲み食い出来ず、急いで家に帰ろうと思っていた帰り際にタイミング悪く、映像担当の先生に捕まり帰りが遅くなり、家に着く前に力尽きたらしかった。


(映像の先生か……それは不運)


あの先生は生徒相手に延々と愚痴を話してストレスを発散すると言うパワハラ教師だ。


「あの、上野さんには、本当にお世話になりました。このお礼は必ずさせてもらいます」


深々と頭を下げながら言う東堂君。

まあ、お礼目当てでした事でないから「遠慮するよ」と伝えても、東堂君は頑なに譲らない。


(あぁ、この人頑固だった)


このままでは一向に進みそうもないので、渋々承諾した。

そしたら、嬉しそうに満面の笑みを向けてきた。

その笑顔はズルい……

顔を見ないよにフイと顔を逸らし手を口元に添え、何とか平常を装った。


そして帰ると言う東堂君を見送ると、一人になった部屋を見渡した。

さっきまで東堂君の座っていた場所に触れると、まだ暖かった。


初めて話をした東堂君は思っていた印象とは違っていた。

学校では常に一人でいるから人付き合いが苦手な人なんだとは思っていた。

私も人付き合いが得意な方でないから、何となく同じタイプの人間なのだと勝手に親近感をもっていた。


(あんな風に笑うのか……)


私に向けられた笑顔を思い出し、かぁぁと顔が熱くなった。


(いやいや、笑顔を見たぐらいで何だって話しよ)


らしくもない。

私は恋はしない。恋をしたところでいい事なんて何も無い。


(はぁ~、寝よ)



最後まで読んで頂き有難うございます。

この話は二話完結です。


残り一話も読んでいただけたら幸いです。

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