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人体は死ぬ直前と直後とでは重さが違うらしくて、その減った重さ分が魂の質量と言われているのだけど、幽霊っていうのはその僅かな質量分で身体を構成したから、分子が足りなくて透明に見えるんじゃないかな?

≪殺すぞ、お前≫


 殺すぞ、なんて、正直何度でも聞いたことのある台詞だと思う。

 特に、口の悪い同年代や、柄の悪い先輩方から、たくさん。

 だけど、実感を以っての『殺すぞ』は、どうやら生まれて初めてらしい。


 ここまで真に迫っての凄惨な殺意なら、納得というものである。


 だって、ビジュアルからして説得力が違う。

 

 目ん玉いっぱいあるんだぜ?

 鎧みたいな見た目だぜ?


 わかりやすいことこのうえなかった。


 いやしかし、こういった手合いに取るべき行動というのは、いつの時代も不変のことだ。


「逃げるぞ! 」

「うん! 」


 俺たちは、地を蹴り駆け出した。


 無論背後からは、この世ならざる恐怖が迫り掛かっている。

 コンクリートで舗装された道を、わざわざ砕きながら豪快に。

 

 恐怖は、加速する、減り続ける体力と反比例して。

 動悸は悪化するし、眩暈は止めど無く。


 このままでは、きっとジリ貧だ。

 何か考える必要がある。


 だが、アレ相手に、小細工を弄してどうにかなるとは思えない。


「ねえ、どうするの? 」

「それを、今考えている」


 並走する少女の質問に、つい、声を荒立ててしまう。

 だけど少女は、特に意に介した様子もなく、それどころか少し関心したような顔をしていた。

 

 なんというか、逐一大袈裟な奴だ。


 いや、それよりもだ。

 対策を考えねば。


 確か最初、少女が出現させた門から、何故かあいつが登場していた。


 つまり、奴には門を開く権限はなく、少女が門を開きでもしない限り、異界とこの世界間の移動に干渉はできないという事だ。


 予想に過ぎないし、もっと言えば、希望的観測に過ぎない。

 

 がしかし、この特性を活かし、何かしらの作戦は立てられるんじゃないだろうか。


 というか横に当事者いるじゃねえか。

 事実確認はしておくか。

 

「いいと思うよ、通用するんじゃないかな」


 との事だ。

 よし、じゃあこれで行こう


「おい、あの異界の門的なやつは、ここに移動させる事ってできるか? 」

「え? アレは一度出現させた場所からは動かないように出来てるんだ」

「んな不便な・・・」

「多分、これで逃げる人達の足跡を消させないためだと思う。かなり便利なアイテムだから制約は必要なんだろうね」


 そうか、そんな理由が。

 

 ん?


 ()()


「道具を使ってやってたのか? 」

「え? そうだけど・・・? 」


 そう言いながら、二つあるその道具を見せてきた。

 恐らく、片方は予備だろう。


 ていうか道具って!


 不思議な力でやってたんじゃないんかい! 

 曖昧謎パワーでなんとかしてくれよ!


 いや、その謎パワーを組み込んだ道具なんだろうが。


 ・・・。


 でも、そうか、ならこんな制約があるのも、納得の範囲内だ。

 道具なら、いくらでも設定できるもんな


「奴は、その制約を知っているのか? 」

「多分、知らないんじゃないかな? これって結構貴重な物だったみたいだから、迂闊に触れなかったと思うし」


 なるほどな。

 

 と、いうか、

 なんでそんな道具持ってたのに、こいつずっと異界の建物から逃げられなかったんだ?

 余裕で脱走可能じゃねぇか。


「ああ、それ逃げる時に何とかして手に入れたものだから」

 

 ということらしい。


 ていうか以心伝心が過ぎるだろ。

 何心読んでくれてんだ。

 駄文しか書いてないだろうに。


 まあ、いい。


 作戦は思いついた。


「おい、「ハァッ! 」二・・・ッれて「ハァッ! 」・・・あの門まで・・「ハァッ! 」走る・ぞッ・・「ハァッ! 」」

「お、落ち着いて! 」


 理知的に作戦を伝えるつもりが、合いの手みたいになってしまった。


「・・・おい、かなり前にだが、枝分かれしてる道があるだろ、あれどっち通っても最終的に門があった道に収束するから、2手に分かれてあの門まで走るぞ」

「え! 危ないよ!? 」


 その言葉は、至極もっともな物だった。


 確かに、正直片方は生き残れ無いのかもしれない。

 危ないどころじゃ無い話だ。

 だけど仕方がないんだ。

 それ以外、選択肢もないだろうし。 

 やるしかない。


「だけど全滅は無い、リスク分散は必要だ」

「で、でも! 」


 その少女は、思いやりの分だけ食い下がった、心も美しいってやつですか。

 ああ、畜生。


 本当に。


 本当に。


 本当に━━━━腹が立つ。


 いいんだよ、そういう美しさは。

 勝手に貫いてくれ。

 

 俺は、俺の道を征く。

 

「いいから! 俺はお前と死ぬなんてまっぴらごめんだ、いい加減にしろこの糞女ッ!! 」 

「━━━━━━━ッ! 」


 哀れな善人に、トドメを刺すようこう言った。

 これ以上なく、高らかに。


「死ぬなら! ━━━━━一人で勝手に死にやがれ!! 」


 ━俺を、助けると思ってな。


 薄っぺらな道理を吠えて、横の少女を睥睨した。


 道徳とか、倫理とか、知ったことじゃ無い。

 焼き払っちまえそんなもん。


 だってそうだろう? 死ぬのが好きなやつなんているわけがない。


 だったら、俺は正しく間違えた筈だ。


「ごめん・・・わかった」


 少女は項垂れて、二分の一の生を選び、残りの分の死を受け入れた。

 

 その姿は、あまりにも不憫で、可愛そうで、哀れだった。


「虐待してる奴の気持ちがわかった気がするよ」


 ━大嫌いだぜ、カリィナ。


 口端に笑みを浮かべ、隣の善人に嗤いかけた。

 残忍に、それと同時に、友人と面白い物を共有するかの如く。


 少女はもう、喋らなかった。


 枝分かれする道はもはや目前に迫り、コンクリを破壊する足跡は悠々と死を強いてくる。


 俺は少女とアイコンタクトを取り、別れるタイミングを合わせる事にした。


「いまだ! 」


 そして俺たちは━━━━━━━━道を、違えた。













━エイミー・カリィナ視点


 私は、大馬鹿者だ。


 大好きな彼とデートができて、浮かれ過ぎていた。

 それこそ危機が迫っても、切り替えられないくらいには。


 彼とは、もっと、心が通じていると思っていたのだ。

 そりゃあ、最初こそデートは断られたけど、最終的には付き合ってくれたのだから。

 

 嬉しかった。

 

 人生の中で、こんな事があっていいのかってぐらいには。


 多分顔に出てたけど、彼は何かよくわからないことを語るのに必死になってたから、きっと見られてないと思う。


 しかもしばらくして落ち着いてからじゃないと、彼の言い分に突っ込む事ができなかったぐらいだ。


 その後すぐにアイツに追われることになったけど、その前までにしたデートの予定の決めあいっこは、一字一句漏らさず覚えてるくらいには、本当に、嬉しかった。


 予想だけれど、彼の考えてた事だってきっと当てられる。


 

『「なんか色々いってるけど、要するにただの非モテだよね」


 声に出てたのか。

 恥ずかしい。

 畜生、さっきまで落ち込んでたくせに生意気だぞ。


 割合、最低な独白だった。


「お前今正しい事を言ったな? ロジハラで訴えるぞ」

「何その理不尽なハラスメント」』


 彼のことだから、きっとここで解説か何かしたんだろうな、知らないことだから流石に予想できないけど


『「まあそんな事はいい。

 デートとか言ってたけど、どこに行くんだ? 」

「あっ」

「あっ、て、何も考えずに言ったのか? 」


 ━えへへ。


 少女は照れ臭そうに、頭の裏を掻いた。


「じゃあ、予定はこれから決めるのか」

「そうなるね、ごめん」

「いやいいけどさ」


 学校をサボりながらのデート。


 一度すると決めてしまえば、この背徳的な行為は、少しだけ俺を高揚させた。

 正直他人がしているのを見たら、俺はきっと殺人者になることも厭わないが、こうして当事者ともなると、いささか彼らを責めづらい。


 正直ちょっと楽しいのだ。

 いっても、まだ予定すら立ててないが。


「行きたいところとかないのか? 」

「君の隣」

「あらやだ少女マンガ」


 惚れそうだった。

 なんか心の少女が疼いたのがわかるし。


「というか落とすってそういう方面なのか? 」

「いや気まぐれ」


 そらそうだ。


 でもどうしてだろう、ちょっと残念だった自分がいるのは。


「うーん・・・本当にどうしようかなー」

「なんか今日は、デートの予定を決めるデートになりそうだな」

「じゃあデートの予定を決めるデートで何しようか? 」

「デートの予定を決めるデートの予定を決めるデート始める気か? 」


 ゲシュタルト崩壊だった。


「じゃあ、私の家来る? 」

「はっ、いくらなんでも一足飛びすぎ・・・」


 ん?コイツって確か、異界の民だよな。


「いやお前、家ってもしかして・・・・」


 言い終わる頃には、それは眼前を塞いでいた。


 空間が歪ひずみ、風圧は顔を掠め、周囲を巻き込んでの登場だ。


「さあ、行こう? 」


 それは、異界の門だった。』

 

 とか、こんな感じなんだと思う。


 この時は、好きな人の考えることくらいなら、わかるって自負があった。


 この時は、だけど。

 今はもう、わからない。


 思い上がっていたんだ。

 少しばかり受け入れられたからって、調子に乗って。


 よく考えれば当たり前のことだったんだ。

 デートを断られた時も言われたけど、やっぱり私は、得体の知れない恐怖みたいな物なんだろう。


 私なりに頑張ってみたのだけど、やっぱり何か、空回りしてたんだ。


「馬鹿だな、私は」












 涙が、溢れた。

 

 ひたひたと、地面を濡らして。


 いや、()()()()の頬を濡らして。


 その手には、わたしが二つ持っていた内の一つの道具が握られていた。


「馬鹿だな、私は。

 ちょっと考えれば、わかったことだろうに」

 

 ━━━━彼が私を、助けようとしていた事くらい」


 わたしは、号哭する。

 天をも裂くように、酷く、惨く。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!! 」

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