叔父一家がやって来た
「ああ、シャーリー。なんという悲劇でしょう」
「安心しておくれ。これからは私たちが後見人として、きみのご両親の代わりになるよ」
おおげさな身振り手振りをつけて言ったのは、お父様の弟の、サイモン・レイランドと、その妻ブリジット。
つまり私の叔父様と、叔母様だ。
彼らは亡くなったお爺様から、別の土地を領地にいただき、そこに屋敷を建てて暮らしていた。
サイモン叔父様は背が高いところ以外、お父様とはあまり似ておらず、神経質そうな顔つきをしている。
ブリジット叔母様は金髪で、高い鼻の目立つ、綺麗な顔立ちをしていた。
そしてその唇は、真っ赤に塗られている。
「これからは、私も一緒にいますわ。同い年だし、仲良くしましょうね」
そう言って傍にきたのは、ブリジットにびっくりするくらいよく似た、娘のオリバーだ。
喪服のドレスはもちろん真っ黒だが、スカートは大きく広がり、首にも袖にもフリルとレースがたくさんついている。
「ねえ。仲良くしましょうね、って言ったのよ。聞こえないの? あんたはもう、みなしごになったんだから、私のお父様とお母様が引き取るのよ。可哀想だと思って言ってあげてるんだから、なんとか返事をしなさいよ」
耳元で言うオリバーは、人々から見えない位置で、私の腕をぎゅっとつねった。
私はその腕を振り払う。
「んにゃあ!」
怒りをひそめて一声鳴くと、オリバーも人々も、ぎょっとして私を見た。
私は彼らをキッと睨みつけてから、ひしっと腕の中のハティを抱きしめた。
♦♦♦
「この部屋は、私が貰うわ。いいでしょ、お母様。シャーリーったら、すっかりおかしくなっちゃって、ニャーニャー言ってばかりだもの。部屋なんかどこだって気にしないに決まってるわ」
お葬式が済むと、叔父一家は早速、私の生まれ育った屋敷に引っ越してくるべく、荷物を運びこんだ。
同時に、私が子供のころから仕えてくれていた、召し使いたちもやめさせてしまった。
そのかわり、自分たちが新たに雇った従者を、屋敷に住まわせる準備をしている。
さすがに叔父一家も葬儀の日は、遠慮がちに、客用の部屋に寝泊まりしていた。
だが葬儀が終わって客たちが帰っていくと、室内を検分するため、楽しそうに屋敷中を歩き回り始める。
そこでまず娘のオリバーが、私の部屋を気に入って、欲しいと言い出したのだ。
「待ちなさい、オリバー。いくらでも他に、部屋はあるじゃないか」
私の部屋を覗き込みながら、叔父のサイモンは、そう言ってたしなめる。
けれど私と同じ、八歳のオリバーは、地団太を踏んで言い張った。
「いや! 絶対に、ここがいいの! だってこの部屋が、一番窓からの景色が、いいみたいなんですもの。それに、前の家の私の部屋より、家具もみんな可愛いって、ずっと思っていたの」
オリバーとは、今はもう亡くなったおばあ様のお誕生日会などで、これまでに何度か会ったことがある。
年は同じだけれど、一緒に仲良く遊んだことは、一度もなかった。
なにかというと、「私の家のほうが、私のドレスのほうが、私の持ち物のほうが、もっとすごいんですのよ」というのが口癖で、いつもツンとすましていたからだ。
一言で言ってしまうと意地悪な子で、私のお人形をわざと壊したり、ドレスを汚されたこともある。
しかし叔母のブリジットは、そんな娘を溺愛していた。
「ええそうね、オリバーの言うとおりだわ。あなた、いいでしょう。この部屋は日当たりもいいようですし、広さも調度も、オリバーにぴったりですもの」
この図々しい提案に、さすがに叔父のサイモンは少しうろたえたようだった。
「だ、だが、わざわざシャーリーが使っている部屋でなくとも」
「気にする必要があるとは、思えませんわ」
まだ喪服のまま、ハティを抱いて部屋の隅で立ち竦んでいる私を、叔母のブリジットはちらりと見た。
「こちらに来たときから葬儀が終わるまで、シャーリーが発した言葉は、ニャアだけですもの」
ブリジットはつかつかと歩いてきて、私の腕をぐいと引っ張った。
「ふーっ!」
「シャーッ!」
私がハティと一緒に、うなって毛を逆立てると、ほほほ、うふふ、と叔母とその娘は笑う。
「ほら、これだもの。人間扱いする必要なんてないでしょう?」
「お母様の言うとおりよ。このベッドも、ドレスも、猫には勿体ないわ」
「それにその子猫。屋敷の中をうろうろされたら、臭くてかなわないわ。毛も抜けて、あちこち汚すでしょうし」
(ハティは臭くなんかないわ! ちゃんとブラシをかければ、毛だってそんなに散らばらないのに)
私は思ったが、お父様との約束を守り、口には出さなかった。
しかしなあ、とまだ気が進まない様子のサイモンだったが、結局は、妻と娘の意見に折れた。
そして私が、拒絶の言葉を口にしないのをいいことに、さっさとその部屋を娘用にと改装し始め、私は裏庭近くの、召し使い用の小部屋に追いやられたのだった。