表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/34

叔父一家がやって来た

「ああ、シャーリー。なんという悲劇でしょう」

「安心しておくれ。これからは私たちが後見人として、きみのご両親の代わりになるよ」


 おおげさな身振り手振りをつけて言ったのは、お父様の弟の、サイモン・レイランドと、その妻ブリジット。


 つまり私の叔父様と、叔母様だ。


 彼らは亡くなったお爺様から、別の土地を領地にいただき、そこに屋敷を建てて暮らしていた。

 

 サイモン叔父様は背が高いところ以外、お父様とはあまり似ておらず、神経質そうな顔つきをしている。


 ブリジット叔母様は金髪で、高い鼻の目立つ、綺麗な顔立ちをしていた。

 そしてその唇は、真っ赤に塗られている。


「これからは、私も一緒にいますわ。同い年だし、仲良くしましょうね」


 そう言って傍にきたのは、ブリジットにびっくりするくらいよく似た、娘のオリバーだ。


 喪服のドレスはもちろん真っ黒だが、スカートは大きく広がり、首にも袖にもフリルとレースがたくさんついている。


「ねえ。仲良くしましょうね、って言ったのよ。聞こえないの? あんたはもう、みなしごになったんだから、私のお父様とお母様が引き取るのよ。可哀想だと思って言ってあげてるんだから、なんとか返事をしなさいよ」


 耳元で言うオリバーは、人々から見えない位置で、私の腕をぎゅっとつねった。

 私はその腕を振り払う。


「んにゃあ!」


 怒りをひそめて一声鳴くと、オリバーも人々も、ぎょっとして私を見た。


 私は彼らをキッと睨みつけてから、ひしっと腕の中のハティを抱きしめた。


♦♦♦


「この部屋は、私が貰うわ。いいでしょ、お母様。シャーリーったら、すっかりおかしくなっちゃって、ニャーニャー言ってばかりだもの。部屋なんかどこだって気にしないに決まってるわ」


 お葬式が済むと、叔父一家は早速、私の生まれ育った屋敷に引っ越してくるべく、荷物を運びこんだ。


 同時に、私が子供のころから仕えてくれていた、召し使いたちもやめさせてしまった。

 そのかわり、自分たちが新たに雇った従者を、屋敷に住まわせる準備をしている。


 さすがに叔父一家も葬儀の日は、遠慮がちに、客用の部屋に寝泊まりしていた。

 だが葬儀が終わって客たちが帰っていくと、室内を検分するため、楽しそうに屋敷中を歩き回り始める。


 そこでまず娘のオリバーが、私の部屋を気に入って、欲しいと言い出したのだ。


「待ちなさい、オリバー。いくらでも他に、部屋はあるじゃないか」


 私の部屋を覗き込みながら、叔父のサイモンは、そう言ってたしなめる。

 けれど私と同じ、八歳のオリバーは、地団太を踏んで言い張った。

 

「いや! 絶対に、ここがいいの! だってこの部屋が、一番窓からの景色が、いいみたいなんですもの。それに、前の家の私の部屋より、家具もみんな可愛いって、ずっと思っていたの」


 オリバーとは、今はもう亡くなったおばあ様のお誕生日会などで、これまでに何度か会ったことがある。

 年は同じだけれど、一緒に仲良く遊んだことは、一度もなかった。

 

 なにかというと、「私の家のほうが、私のドレスのほうが、私の持ち物のほうが、もっとすごいんですのよ」というのが口癖で、いつもツンとすましていたからだ。


 一言で言ってしまうと意地悪な子で、私のお人形をわざと壊したり、ドレスを汚されたこともある。

 しかし叔母のブリジットは、そんな娘を溺愛していた。


「ええそうね、オリバーの言うとおりだわ。あなた、いいでしょう。この部屋は日当たりもいいようですし、広さも調度も、オリバーにぴったりですもの」


 この図々しい提案に、さすがに叔父のサイモンは少しうろたえたようだった。


「だ、だが、わざわざシャーリーが使っている部屋でなくとも」

「気にする必要があるとは、思えませんわ」


 まだ喪服のまま、ハティを抱いて部屋の隅で立ち竦んでいる私を、叔母のブリジットはちらりと見た。


「こちらに来たときから葬儀が終わるまで、シャーリーが発した言葉は、ニャアだけですもの」


 ブリジットはつかつかと歩いてきて、私の腕をぐいと引っ張った。


「ふーっ!」

「シャーッ!」


 私がハティと一緒に、うなって毛を逆立てると、ほほほ、うふふ、と叔母とその娘は笑う。

 

「ほら、これだもの。人間扱いする必要なんてないでしょう?」

「お母様の言うとおりよ。このベッドも、ドレスも、猫には勿体ないわ」

「それにその子猫。屋敷の中をうろうろされたら、臭くてかなわないわ。毛も抜けて、あちこち汚すでしょうし」


(ハティは臭くなんかないわ! ちゃんとブラシをかければ、毛だってそんなに散らばらないのに)


 私は思ったが、お父様との約束を守り、口には出さなかった。


 しかしなあ、とまだ気が進まない様子のサイモンだったが、結局は、妻と娘の意見に折れた。


 そして私が、拒絶の言葉を口にしないのをいいことに、さっさとその部屋を娘用にと改装し始め、私は裏庭近くの、召し使い用の小部屋に追いやられたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ