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疑惑

「やあ、もしかして君はホクトであってるかな?」


 依頼リストを吟味していると後ろから声を掛けられた。

 金髪に多少伸びた髪をオールバックにしている男が声の主であろう。先日見た『千剣の風』のパーティのリーダーらしい男で間違いなかった。


「あぁ、そうだが何か用か?」


「いや実はね俺はライオットというんだが君に謝らなくてはならないと思って。ここではなんだしテーブルで話でもどうだい? おごるよ」


 謝るとは何か。理由が分からなかったがとりあえず悪い話じゃなさそうだったので示されたテーブルへと向かう事にする。


 そこには彼のパーティメンバーが既に座っていた。


「重剣士のヘイガ―、ウィザードのノネット、そしてプリーストのイスマイルだ」


「よろしく」


「よろしくね」


「よろしくお願いします」


「あぁ、よろしく頼む」


 口々に挨拶をし、友好を深める。

 ちなみにノネットは赤髪をサイドテールに結んだ女性だ。胸元が開いているがそこにはいわゆるちっぱいが収まっているだけだった。


 なお野郎共は割愛する。


「それで俺にいったい何を謝る必要があるんだ」


「そう、それだ。ギルドでの噂を聞いただろう。まるで俺達がやったみたいに広まってしまって済まない」


 よく聞いてみると例のアマル村へ盗賊団が襲撃した事件の立役者が千剣の風という風に世間の噂はなっているらしい事を謝罪したいらしい。

 幾人かには違うと伝えているらしいが先に広まってしまったのと、

 ある事を理由にそれが拍車をかけているというのもある。


「俺達は近々、Bランクの昇級試験を受けようと思うんだ」


「なるほど、それも追い風になっていたというわけか。

 試験前に箔付けしたと」


「あぁ、そうなる」


 なぜここまで噂が広まってしまったのかという点には実はまだもう一つある。それはこのエルンの町初のBランクパーティ誕生も一役買っているらしいからだった。


 しかし俺にとってはなんのことはない。

 別に誤解されようが得られたかもしれない名声はあれど、不利益はなかったので特に気にしていなかった。


「いいさ。ギルドにきちんと伝わってれば何も気にしてないさ」


「ありがとう。そういってもらえるとほっとするよ」


 話は以上なら俺はまた依頼リストの吟味に戻るとするか。

 コーヒーのお礼を言って席を立とうとしたところ、ライオットがまだあるといって俺を呼び止めた。


「実はこの機会に君にクエストに同行してほしいと思ってね」


「なんでまた俺なんだ」


「盗賊団を単独で半壊させた手腕を買ってだよ。うちに斥候系のパーティメンバーがいないというのもあるから、もしウマが合う様なら正式参加してほしいとも思ってる」


 少しづつ話が読めて来た。俺を勧誘したいのだろう。それでなくても本当の所はBランクへ昇級する前にあと一人斥候系のメンバーを模索しているというのは合っていそうだ。


「誘いには感謝するが、断る事にする」


「どうしてだい」


「俺はなぜかパーティに向かなくてな、それになによりDランク冒険者だ」


「それは功績が証明しているから問題ないさ。それに俺達がその初めてのパーティになるかもしれないだろう?」


「……ずいぶんと積極的だな。まぁわかった。考えておくことにする」


「ありがとう。良い返事を期待しておくよ」


 とりあえず話はここまでなので席を立つ。

 パーティが合わないというのは本当の話だ。

 寄せ集めの混合パーティならまだなんとかなるが、過去にパーティに加わるとなると致命的に歩調が合わなかったからずっと独りでやっている。


 背後で「なによ、考えるなんて贅沢じゃない!」という声が聞こえてきたが無視してその場を後にした。


 ◆


 再び掲示板の前に戻ろうと思ったがある事が思い浮かぶ。

 いまさらながら今の俺の能力で倒せる敵はどの辺りなのだろうか。

 これまでの経験からなんとなくわかるが、実際に調べてみてもいいと思った。


 ギルドにはそういった身体能力を可視化してくれるマジックアイテムも備えつけられているので、そちらのサービスが受けられる列に並ぶ事にした。


「いらっしゃいませ、ご用件はなんでしょうか」


「ステータスの確認をしたい」


「かしこまりました」


 こういった大きなギルドにのみだがステータスを確認出来るマジックアイテムが置かれているので、冒険者はそういうギルドを拠点にしたがる。俺は自由気ままな旅を好んでいたのでアマル村にしばらく滞在していたが、今はエルンの町に登録したので、郷にいっては郷に従えとステータスをチェックした。


「こちらになります」


 オーブ上のマジックアイテムにしばらく手をかざすとステータスが表示される。


 ―――――――――――

 名前 ホクト

 HP   D → C

 MP   E → D

 攻撃力 D → C+

 耐久力 E → D

 素早さ B → B+

 知力  D → C

 幸運  B+

 職業狩人

 ―――――――――――


 前回診てもらってから軒並み伸びたようだ。素早さが高いのは狩人特有の強みだ。逆にウィザードならFランク冒険者でもMPは本人の力量次第でBやはたまたA+と言ったランクになる。


 この分ならCランクの依頼も受けられるかもしれない。

 もちろんソロの俺だけではランク上の依頼は受けられないが、先程の『千剣の風』に臨時で入ったり、複数のパーティで挑む混成クエストなら受ける事が出来る。


 俺は受付嬢に礼を言って、今度こそ依頼リストに目を通す事にした。

 ◆


 再び掲示板に戻ると依頼リストが更新されていたようだ。

 一通り眺めてみるとやけに盗賊や山賊の被害が多い気がする。

 アマル村でも被害に合ったがどうやら南のサランの町でも被害に合っているようだ。出張依頼などが張られていた。


 しかし今日はエイナやクロナ達の為に何か狩りをして帰ろうと思っていたので、普通の討伐依頼を受ける事にする。


 サイレントバードのランクDの依頼を見繕い受付嬢の所へ持っていく。問題なく依頼を受けられたので、俺は狩りにでた。


 ◆


 サイレントバードはある意味でウィザード潰しと言われる。

 だが、ランクが低い為上がりたてや見聞きした事が無いものが引っかかる程度だ。サイレントバードは文字通り<サイレント>、魔法の詠唱をさせない魔法を使ってくる。だが、本人にさほど攻撃力が無い為ランクDのモンスターとなっているのだ。


 しかし今回俺が狙う理由は別にある。サイレントバードは栄養価が高く、女性にも優しい低カロリーの肉でジューシーで上手いのだ。

 今夜の夕食が少しでも豪華になればとサイレントバードをエルン東の森の中で探す事にした。


 背を屈めて<ホークアイ>のスキルを発動。ウィザードならきっと<サーチ>と言っただろう。<サーチ>が辺り一帯の反応を探す魔法なら<ホークアイ>は上空から俯瞰してみるスキルで辺り一帯のサイレントバードを探す。


 前方斜め右へ500メートルいったところにサイレントバードの巣を見つけた。気取られない様に近付き矢をつがえて一気に射る。それだけでサイレントバードは気づく間もなく矢の餌食となった。


 再び<ホークアイ>を使用する。

 余談だが、スキルは特定の行動を何度も行うことで獲得出来る事が多い。だがメジャーなスキルを除いてその習得方法は当然ながら秘匿されているため、ある意味ウィザードよりも覚えるのが困難な技術かもしれない。


 これも聞いた話だが、はるか東の島国で道場と言うものを開いてスキルを教えているらしいなどと眉唾の話もあった。




<ホークアイ>に引っかかった反応が二つ出た。

 一つはお目当てのサイレントバードだが、もう一つは人間らしかった。

 人族のみの5人で移動しているようだ。


 冒険者かとも思ったが俺はかぶりを振った。

 ホークアイで見える格好がまさに盗賊そのものだったからだ。


 見逃すか……、いや見逃すわけにはいかない。

 見つけたからにはアマル村の悲劇を再び繰り返すわけにはいかない。

 俺は彼らをつける事にした。


 ◆


<ハイディング>を使用して奴らに近付く。

<ハイディング>はウィザードに<ディテクト>の魔法を使用されない限り看破されることはない。


 いつかの様に木々に隠れ、彼らの様子を伺った。


「我々の作戦は気取られていないか」


「問題ありません。ウルム王国の冒険者は我々を盗賊だと思いこんでいます」


「よし、なら次の段階へ進むべきだな」


 おかしい。

 およそ盗賊がするような会話ではないし、あの凝り固まった喋り方も気になる。まるで訓練を受けた兵隊の様な……。


「時間だ。辺りを調べて問題無ければA地点に移動する」


「はっ」


 瞬間<サーチ>の魔法が唱えられる。俺はこれまで、とその場を駆け出す。

 <ディテクト>も唱えられたらまずいと思い一目散に逃げた。




 その後幸いにもヤツらに感づかれる事も、ましてや追ってくるような事もなかった。


 サイレントバードは無事捕まえられたが、何かきな臭いものを感じて居ても立っても居られずにはいられなかった。






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