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傷心

 俺は今、北を目指して旅をしている。

 傷心の旅だ。


 俺は愚かにも気づかなかった。

 気づくのが遅すぎた。


 何がって?




 ライラとリックがくっついてやがった。




 そのあと迷わず俺は旅に出た。

 他人の女を嘗め回すのは紳士として失格だし、そんな趣味は毛頭無い。


 当てもなく飛び出したからその日の食事もままならないまま野を翔けた。その辺の獣を狩っては食いつないでいたが、2・3日もすれば町が見えてきた。


 そうアマル村から一番近いエルンの町である。

 旅に出て北を目指せば、エルンの町に着くのは当然の帰結だった。


 とりあえず、門を潜って町に入る為の審査の列に並んだ。


「次の方、こちらへ」


 順番が来て呼ばれたので門番達が座っている簡易のテーブルの前に行く。


「ほお、アマル村から来たのかい。盗賊団に襲われたって災難だったな。だがすまないが逃亡者の確認の為にも身分確認はきっちりさせてもらうぞ。身分証はあるか」


「あぁ、これだ」


 そう言って俺は冒険者ならだれもが持つ認識票を渡した。


「Dランクの冒険者ね。確かに確認したぜ」


 もうしばらく更新してないDランクの認識票を受け取り、町の中に入った。


 ◆


「さすが町、目移りするな」


 あちらをみてもこちらをみても女性ばかり。

 おまけに人族だけでなく、獣人族までいる始末。

 ここは天国か。


 人族もいいが、獣人族はわりと肌の露出が多い服を身にまとっているものが多く。頭から生えた耳と感情に合わせて左右に揺れる尻尾がチャームポイントだ。


 なお耳が生えた野郎も普通の野郎も俺の視界には入っていない。


 ひとまず気を取り直して、エルンの町の冒険者ギルドに向かう事にした。


 バタンと戸を開けると、アマル村よりも数倍大きな冒険者ギルドだった。受付も一つだけじゃなく、3つありそれぞれ受付嬢が並んで立っている。


(ひとまず一番空いている列に並ぶか)


 なにか町に来てからは待つばかりだが、これが村と町の違いというものだ。

 村ではすぐに応対してくれていたが、単に買い物客や冒険者が少ないだけだった。


 そろそろ順番かと見えてきた受付嬢は垂れた犬耳と眼鏡が印象的なおっとりした犬獣人の女性だった。


「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか」


「しばらくやっかいになるからこの町の冒険者として登録してもらいたい」


「かしこまりました。おやお客様、Cランクの昇給ポイントに達しております。昇級試験はいかがなさいますか?」


 昇級試験と言われ、少し戸惑う。

 冒険者ランクはFから始まりE、Dとランクが上がり最上位にはA・S級とまであがる。

 Cランクといえば中堅の真ん中、一端の冒険者としても認められるし、特には指導する立場にもなれるランクだ。


 逆に俺はそんな立場は面倒だと思い断る事にした。


「昇級はいい。登録だけお願いしたい」


「左様でございますか、了解致しました。では登録手続きをすすめさせていただきます」


 犬耳の受付嬢はお辞儀をして手続きに没頭し始めた。

 待っている間俺は犬獣人族は皆胸が豊満なんだろうかとどうでもいいことを考えていたとき、入り口のほうから騒がしくなる。


「みろよあれ! Cランクパーティの『千剣の風』だ。すげーな!」


「アマル村の盗賊団を壊滅させてきたってよ!!」


「きゃー、素敵! もうすぐこの町初のBランクパーティになるんだって」


 おい、おかしいのではないか。

 最後のセリフいったやつちょっと出てこい。


 だがそいつだけでなく周りも口々に賛同していて、割って入る余地がない。いったいどういうことだろうか。


「おまたせしました。エルン町付きの冒険者に登録させて頂きました。」


「あぁありがとう。ところで確認したいんだが」


「はいなんでしょうか」


「アマル村の盗賊団の件だ」


 調べてもらうと思っていた通りだったので安堵する。

 盗賊団はアマル村の門番並びに居合わせた冒険者で対峙。

 そこにいる『千剣の風』が応援に駆け付けたパーティということらしかった。


「あら、調べたところお客様にアマル村から褒章金が出ていますね。金貨10枚になります。こちらをどうぞ」


「ん? あぁありがとう」


 盗賊の頭目はリックがやったし、他の分の褒章だろうか。

 貰える分には不満はないし、懐も丁度さみしかったので遠慮なく頂いた。


 そして、千剣の風についてはギルドにおかしな情報も無かったので

 それ以上意識することもなく横を通り抜けギルドを出た。


 それから俺は宿を探してルナンの町を歩いた。

 ギルドでおすすめの宿を聞いておけば良かったと少し後悔したが、また戻って列に並ぶのは億劫なので、歩いて探す事にする。


 町なのでいくつか宿屋があるが一番良い宿屋はどこだろうか。

 この場合の一番は、高いという意味じゃない。もちろん看板娘が一番かわいい宿屋のことだ。


 だが何件かまわっているうちに気づいた事がある。一部を除いてどの看板娘も可愛いないしは美人であるということだ。


 ううむ、どの宿屋も捨てがたい。


 そんな風に道の往来で腕組みをしていたら、ふとズボンの裾を引っ張られた気がした。


 見てみると、小さな狐獣人の女の子がいた。


「なんだ」


「ひっ、……や、宿をさがしてるの?」


「そうだ」


「! じゃ、じゃあうちの宿屋に来てもらえませんか?」


 そんなことを言う。

 どうやら俺が宿屋を巡ってあーでもないこーでもないと悩んでいたのを見ていたらしい。


 そして声を掛けてきたわけか。


 だがしかし、俺は幼女の趣味は無いし、紳士とはそういう意味でもない。それにもう粗方宿の目星はついた。


「済まない。宿はもうきまったんだ」


「き、きてくれたらおねーちゃんがいっぱいサービスするよ!」


「なにっ」


 おねーちゃんがサービスだと。

 いっぱいとはいったいどんなサービスをしてくれるのだろうか。

 それにこの子は妹で実際にはおねーちゃんとやらが宿をきりもりしてるのだろう。


「気が変わった。案内してくれ」


「ほんと? やったー」


 俺はすっかりその気になり狐耳の少女の手に引かれるままひょいひょいとついていった。


 決してサービスが何か気になったわけではない。


 ◆


「1名様ごらいてーん!」


 連れて行かれた宿屋は『金色の調べ』と言う名前にはそぐわぬ一言で言ってしまえばボロイ宿屋であった。


 他に客もいなさそうだし、今にも潰れるんじゃないかと思ってしまったほどだ。


 しかし中から出てきた宿屋の看板娘を見てすべては杞憂に終わった


「いらっしゃいませ、1名様でしょうか」


 金色の稲穂色の耳に同じ瞳の色、涼し気な目元には泣きボクロがチャームポイントのスレンダーな美少女がそこに立っていた。


「一週間、いや一ヵ月で頼む」


 俺は迷わず有り金をテーブルの上にすべて置いた。

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