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奇襲

「なんだって!?」


 持ち帰った情報を聞いた村の守り手達の第一声がそれだった。


「そんなっ、とても守り切れない。村に滞在中の冒険者もあんたやEランクしかいないんだぞ。私達村の門番や戦える者をいれても十数人。とてもじゃないが歯が立たない。おまけにウィザードなんて」


 門番のフリットがそう嘆く。

 集まった各々も皆口々に無理だと叫び悲嘆にくれた表情をしていた。

 そんな中、一人門番のリーダーであるエイワスが周りを落ち着かせて指示を出す。


「慌てるな、とにかく早く村人達を安全な場所に避難させるんだ」


 リーダーの指示に従い村人たちの説明に過半数が走っていった。

 ひとまずやるべきことが出来たとそちらに集中させたようだ。

 一石二鳥のうまいやり方だと思った。


 残った主要なメンバーはエイワス、リック、村長であるオラフと俺だけ。そのうちリーダーを補佐していたリックだけが諦めていない様子で作戦を提案する。


「諦めるにはまだ早いじゃないか。やつらの場所もおおよそ把握したのだしこちらから打って出て奇襲を仕掛ければいいじゃないか」


「いや無理だ、ウィザードがいる」


「…………」


 ウィザードの話になると皆一同に黙り込む。

 それだけ相手が脅威だからだ。

 奇襲を仕掛けたとしても数も違えばウィザードの多彩な魔法に翻弄させるのがオチだ。


 具体的な案も無くしばし沈黙が流れる中、俺は一応村の会議の末席に連なっていた。というのも冒険者は普段なら参加する必要は無いが今の様な有事の際には率先して協力する様ギルドから要請がある為である。


 依然村人達の中では決めきれないままでいる。


 だがしかしこの際俺には関係なかった。

 単独行動が得意な俺にしか出来ない事がある。


「ウィザードは俺が押さえる。なんなら奇襲も仕掛けるぞ」


「そんなことができるか! 冗談じゃない。あんたが抜ければ村の守りは一気に手薄になるも同然だ」


 村長であるオラフがヒステリックな声をあげた。

 どうやらこの村唯一でまともに戦える俺を縛り付けておきたいらしい。しかしそんな受け身で奴らを撃退できるとは到底思わない。


 おれは敢えて突き放す様に言った。


「俺は村とは関係無い冒険者だ。奴らには俺一人で奇襲を掛ける。文句があるのか」


「あるに……ひっ」


 一番反対していた村長をするどく睨みつけ、黙らせる。

 リックやエイワスには申し訳ないが一人でやらせてもらう。


 そして心の中で謝罪する。


 打ち漏らした盗賊は彼らに任せるしかないと。


 ◆


 奇襲にはいろいろとあるが決まって共通している事は相手が油断しているということだ。それには夜間の寝静まった後などは最適だ。

 しかし、相手もそれは分かりきっていることで就寝時には決まって交代で見張りを置いている。だからおれは今回連中が仕掛けるタイミングを狙う事にした。


 自分たちが襲いに行っているのに逆に仕掛けられるとは夢にも思わないという事だ。


 俺は残りの貴重な時間を使って盗賊団が襲いに来る直前まで、罠を張り巡らせていた。罠といっても手の込んだものは出来ない。


 通ると思われるルートに大量の草結びとばばあがおまけしてくれた糸でワイヤートラップをしかけただけだ。


 一人でも多く足を取られればそれだけ俺の矢が届く数が増える。

 そろそろ連中は動きだすだろう。俺は木の上で<ハイディング>と呟き、呼吸浅くして気配を消し、奴らを待った。


 ◆ side 盗賊団の頭領


「野郎ども、時間だ。ちんけな村だが根こそぎ奪うぞ!

 宝は奪い、女は奴隷に、野郎どもは全員皆殺しだ!!」


『オオオオオ!!』


 気合は十分だ。なんせ俺達は総勢21人に加えウィザードのアントニーまでいる豪華っぷりだ。


 隣国のケムニッツ帝国ではヘマをしかけたがこのウルム王国じゃあ敵なしだぜ。事前に下っ端連中に下見させたが、村にはまともな冒険者もいやしねぇ。この国で俺達ハンフリー盗賊団の再起を図るには打ってつけの得物ってわけだ。


「アントニー、問題ないか?」


「あぁお頭。<サーチ>にゃ何も引っかからないぜ。いるとすれば獣並みに気配を消すのがうまいやつとかな」


「ははは、んなやつがこんなところにいるか」


 ケムニッツ帝国には軍があり、それ相応の使い手がいたが、この国の兵隊どもはボンクラどもばかりで、冒険者ランクも低いようだ。

 おかげでここまで逃げて来れたんだ。まずいないだろう。


 いつものようにアントニーに先行く憂いを解消させたら、再び気合を入れて野郎どもに号令をかけた。


「いくぞ野郎どもぉ!殺し、犯し、奪いつくせ!!」


『オオオオオ!!!』


 愛馬に跨り、丘を一気に駆け下りた。


 ◆ side ホクト


 男たちの唸り声が聞こえる。

 俺はいよいよか、と身構え静かにしかけるタイミングを見計らった。

 奴らが俺の下を通る直前がベストのタイミング。

 時間にしておよそ3秒


(3、2、・・1!)


 ボフンッ!!


「うわなんだこりゃあ前がみえねぇ!」


 ドンピシャのタイミングで煙幕を投げる。

 続けざまに爆竹に火を付け投下した。


 バチバチッ!!


 ヒヒーン!!!


「おい大人しく、うわぁっ」


 運悪く2頭は鞍から落とす事が出来なかったが、最低限の1頭が暴れ男が落馬する。

 同時に草結びやワイヤートラップで煙幕で覚束なくなった足元を大量に刈り取った。


 俺は間髪入れずに弓に持ち替え立て続けに3射した。


「うぐ」「ぐあ」「あっ」


 一つ二つ三つ、これであと15人いやさらに多いのでまだまだか。

 どさくさに紛れているうちになるべく多くを仕留めたかったので息をする間も忘れて矢を放ち続けた。


 四つ、五つ、六つ。


 七つ、八つと射たところで敵の中にも異変が起きた。

 相手にも厄介なヤツらがいた。


「おい、アントニー!」


「おうよ、<ウィンド>」


 風の魔法で煙幕を一気に晴らされた。

 負けじと手持ちの煙幕をすべて投げ入れるが、その度に<ウィンド>を唱え無効化されてしまった。


(やはりだめか)


 苦し紛れに詠唱を唱えた直後のアントニーと呼ばれたウィザードに矢を放つ。


 カキンッ


「へへ、無駄だってんだよぉ、<シールド>の首飾りだぜ」


 案の定対物理防御の装備を備えていたか。

 やがて盗賊団連中は態勢を立て直しはじめてこちらを居場所を捜し始めた。


「そこか」


 誰かが叫んだ。それに合わせて俺のいるすぐ隣の木に弓矢が一斉に飛んできた。危なかった。敵に正確な位置はまだバレてないようだ。


(<ハイディング>)


 気配を消し、再び木々を移動し矢を放つ。


 九つ、十。


 しばらく盗賊団の弓矢隊と俺との攻防が続いた。

 だがしびれを切らした盗賊団の頭領はまたもやアントニーを呼びつける。


「アントニー!」


「わかってまさぁ、<ウィンドスラッシャー>!」


 鎌鼬のような突風が吹くと前方にある木々がすべて真っ二つに折れた。


「くそ」


 そのうちの一つに留まっていた俺は敢え無く落下する。

 無理な体制であったがなんとか身を翻して着地した。


「なんだたった一人じゃねえか」


 頭領が呟いた。正体がバレればここまでか。

 だが、予想に反してハンフリーはつまらなさそうに呟いて踵を返しはじめた。


「てめえをヤッたってせいぜい数銀貨だ。相手にしてられっか。

 アントニー、ここはまかせたぞ。俺は先に行く」


「へへ、俺の取り分も残してくださいよ」


 アントニーだけを残し、他のヤツらも見向きもせずに村へと走り去っていこうとした。苦し紛れに俺は思わず弓をつがえて放った。


 カキンッ


「<シールド>、やらせねえよ、にいちゃん」


 半ば予見していた通り、ウィザードが行く手を阻んだ。

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