襲撃
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盗賊の討伐依頼は募集数が多いらしく、混成パーティでの依頼募集だった。改めて依頼を見ると募集パーティ数が複数なので敵が少なくないのがわかる。
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【臨時クエスト】
<盗賊団の討伐または捕縛>
近頃、近隣の町で出没する盗賊団を東の廃砦で目撃
ついては混成パーティでこれを討伐または捕縛せよ
募集パーティ数:3~
依頼ランク:D~C
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参加パーティは4つでそれぞれ『鉄の歯車』、『銀の円環』、『緋色の同盟』、最後に『千剣の風』と俺だ。
単独でしかも下位ランクのDランクで受けた俺は必然的に、希望した『千剣の風』に組み込まれる。他のパーティのランクはDランク二つにCランクの『銀の円環』だ。4パーティ総勢18名で盗賊団の討伐に挑む事になった。
道中は徒歩による移動となり、『千剣の風』からは俺、それと『銀の円環』からノイクと呼ばれるシーフが斥候を務める。
なお、シーフと言うのはあくまで職業であって盗賊とは別だ。
お互いに索敵スキルを使って前方を警戒し、残ったメンツがその他を警戒する。
盗賊団に先に発見される事が無いわけでは無いし、道中モンスターと遭遇するのは珍しくもないのでこの編成となった。
俺は<ホークアイ>で周辺の様子を伺い、シーフのノイクが<探知>のスキルで付近に異変がないか警戒する。
すると同時に反応を見つけた。シルバーウルフが数匹前方の林に隠れていた。
お手並み拝見とばかりに、俺達は潜むシルバーウルフにスキルを放った。俺の弓矢スキル<偏差射ち>、ノイクの投擲スキル<ワイヤーダーツ>が炸裂し、いっきにシルバーウルフを仕留めた。
後方でピュイと口笛を吹く音が聞こえたので、俺達は黙って拳を突き合わせた。
◆
やがて目的の廃砦へと近づいてきた。
ここからは一層の警戒が必要だ。
『千剣の風』のノネットと『緋色の同盟』のマキシのウィザード二人が<サーチ>や<ディテクト>の魔法を使って敵の詳細を暴く。
それだけで敵が現在砦に何人いる事や周囲に罠が張り巡らせている事などがわかった。
ノネットが俺にどうだと言わんばかりの勝ち誇った笑み浮かべ、無い胸を突き上げたがとりあえず無視しておいた。別にノネットに興味が無いわけでは無いが好戦的な態度を取られてまで見るものでもないと思いスルーする事にした。
マキシは寡黙な禿頭の男で特に気にしていない様子だ。<ディテクト>で看破した罠を調べるのに集中している。
敵の大まかな情報がわかった所で一旦作成会議をする事になった。
「敵の数はどうだい、ノネット。それからマキシは罠の情報をこの地図に大まかに示してくれないか。あとはホクトとノイクにもう1度偵察にいってもらいたい」
その場を仕切るのは現在最もBランクに近いと言われている『千剣の風』のリーダー、ライオットだが、他のパーティに異存は無いようだ。
ノネットによると敵はちょうど30人。そしてマキシが示す罠の位置はこちらから向かって正面と左右、あとは後方の一部部分にあるらしい。
ずいぶんと手の込んだ罠の仕掛けようだ。
敵に何かしらのスキル持ちもいるのかもしれない。
ここで改めて盗賊とはどういった連中かを思い出すが、ほとんどは職にあぶれ、冒険者にもなれなかった素行の悪い者たちだ。
つまりスキルを持っていたとしても良くて1つとか2つ。
親玉の頭領にもなるともっといろいろ出来るのかもしれないが
とりあえずはこの認識で間違いないだろう。
そしてその中にウィザードがいたら最も警戒しないといけない。
前回はそれで間に合わなかったのだし、ライラを危険に晒した。
ウィザードがいる事は滅多に無いがもしいたらこちらも無傷では済まないだろう。
「よし、それじゃあ正面と後方からに別れようか。正面は僕たち千剣の風が相手をするから、後方は他のパーティに任せよう。ノネット、ヘイガ―出来るかい?」
「あぁ」
「余裕よ」
「ちょっとまってくれ。いくらアンタらでも正面が薄すぎやしないか」
と『鉄の歯車』のリーダーマルコが問う。
これまでずっと意見に従い黙っていたが初めて反対の声が上がった。
「正面は大丈夫さ、僕らには今回助っ人のホクトもいることだしね。
それよりも盗賊団を絶対に逃がさないことだ。少数の敵だと見せかけておいて背後から侵入して敵が砦を降りる前に全員捕縛または討伐しておきたい」
「なるほど、アンタが足りるっていうならわかったよ。俺達は従う」
「あぁ俺達もだ」
「おいしいとこもらって悪いな」
問題なさそうなので作戦はこれで決まりだ。
正面から当たる事になった俺達はさっそく準備を始める。
後方から回り込むパーティの時間稼ぎも必要だ。
◆
時間はちょうど正午頃、盗賊達は昼食でも取ってくれているだろうか。いや淡い期待はしない方がいい。この時分安全な町でもない限り1日3食、食べるのはとても珍しい。俺達冒険者でも軽食がやっとであるのに、いつ討伐されるかわからない盗賊がそんなに贅沢してるとも考えにくい。
俺達は慎重に罠を避け、敵の物見に見つからない様に配置についた。そしてしばらくしたのちにライオットから合図が入る。突撃の合図だ。
準備していた俺達はわざと見つかるように堂々と勢い良く飛び出す。まずはノネットが一気に魔法を詠唱していく。そして隣で俺も弓で驚いた様子で慌てて応戦しようとする弓矢使いを狙い済ました。前方ではノネットを守るようにヘイガ―が立ち、イスマイルが援護魔法の詠唱している。
<ファイアーボルト>。
どかん、とかつてウィザードのアントニーが使った火炎弾とはくらべものにならない大きさのそれが砦に命中した。
俺もせっせと飛び道具を消すために屋上にいる弓矢使いを逆に射る。そしてイスマイルの補助魔法<タフネス>がかかったことで最後にライオットが突撃の合図を出した。
「敵襲! 敵襲だ!!」
敵の盗賊団の誰もが慌てた様子で反撃の準備を始めている。
罠があると安心していたことが逆に仇になっている様子だった。
「ノネット! しばらく敵をこちらに引き付ける。また派手なヤツで頼むよ」
「えぇ、わかったわ。ライオット」
ノネットの詠唱から再び轟音とともに暴風が迸る。
<トルネード>。
中級魔法でも上位に扱いが難しい風属性の魔法だ。
風の竜巻が砦を飲み込む様に派手に暴れ、道すがらの盗賊どもを宙へと薙ぎ払った。
「に、にげろ! こいつら凄腕の冒険者だ! 歯が立たねえ!!」
たまらず逃げ出す盗賊達を俺が見逃さずに一つ一つ串刺しにしていく。重点的に足を狙い動けない様に釘付けにしておく。
そしてようやく砦の背後からも戦闘の音が漏れてきた。
すべての悲鳴は盗賊団からあがりこちらの味方からは聞こえていない様子。
冒険者達のスキルや魔法で豪快な音が断続的に響き渡る。
状況はこちらの一方的な圧勝だ。あと数十分も立てば敵の頭領を仕留める事ができるだろう。
そんな時だった突然後方の激戦の中から声の通る男の声が響き渡る。
「総員撤退!」
すると、争いの渦中から5人の男たちが砦を半ば飛び降りる様にして出現した。あの高さから飛び降りて全員無事なのか。そう思ったがわずかに聞こえてきた<ウィンドエアー>という詠唱が聞こえた気がした。
しかし奴らが降りたのは砦の左右、右側。つまり自ら仕掛けた罠が多数ある地点であったからどのみち逃げられるはずもない。そう思った。
だが、予想に反して彼らはありえない事を口にする。
「全員<ディテクト>で罠を回避しろ! しんがりは私が勤める。決して捕まるな!!」
<ディテクト>それは看破の魔法。そしてそれが全員使えるということは5人全員がウィザードである証拠。
極めつけは俺が昨日みた山賊の格好をした5人組だった。




