3
いつもと同じ河川敷。
いつもと同じ鷲河中の仲間たち。
いつもと同じ蛇山中の奴ら。
いつもと同じ喧嘩。
凪はいつもと同じように頭を空っぽにしながら、いつもと同じように、喧嘩を楽しんですらいた。
そもそも毎日のように喧嘩が出来るのは、初めて鷲河中と蛇山中で喧嘩が勃発した時に理由がある。
蛇山中の奴らは各々、武器や道具を手にしていた。対して、凪の喧嘩に武器や道具を使わないという信念のもと、鷲河中の面々は丸腰であった。その時の喧嘩で鷲河中が苦しくも勝者となったのである。
有利な状況だったにもかかわらず、敗者となってしまった蛇山中。特にプライドが粉々に砕かれてしまった番長は、次こそは!と闘志を燃やす中、粉々になったプライドを取り戻すために、鷲河中に勝つまでは自分達も丸腰で挑むという決意を固めた。
お互いが丸腰同士の喧嘩になると多少の怪我はあるものの、重篤な怪我人が出ることもなく、まるで部活動のようにほぼ毎日喧嘩するようになったのだ。
いつもと同じ丸腰同士の喧嘩になるはずだった今日の喧嘩は、蛇山中に最近転校してきたという奴が関わったことにより、いつもと違う喧嘩になってしまった。
凪は蛇山中の番長と対峙しながらも、他の鷲河中の仲間たちがピンチに陥ると庇ったり、助けたり出来るように周囲を気にかけながら得意の蹴りで攻撃を仕掛けていた。
ふと、圭司に意識を向けた時、圭司の後ろに立つ見慣れない蛇山中の奴の手に、ギラリと光るナイフが見えた。今にも圭司に刺しかかりそうなソイツに向かって凪が走り出す。
「圭司ッ!!!!!」
凪は圭司とナイフの間に自らの体を滑り込ませると、腹部にまるで焼けるような激しい痛みを受け、崩れるように倒れていった。
辺りは一瞬静寂に包まれたが、直後圭司の悲痛な叫びにより騒然となった。
「凪さん!!凪さん!!!なんで!なんで!?
おい!お前!ふざけんなよ!なにしてんだよ!!」
凪の腹部から抜かれた、血塗れのナイフを手にガタガタと震えている奴は、元々ナイフなど使い慣れているはずもなく、圭司の叫びで自分のしたことをやっと理解したようで、顔を青白くさせながら後退り、ナイフを投げ捨て走って逃げ出した。
鷲河中の連中は凪の周りに集まり、蛇山中の連中は逃げた奴を追いかけて行った。鷲河中の1人が携帯で救急車を呼び出し、圭司は溢れ出る涙を止めることなく凪に縋り付き、ずっと凪の名前を叫んでいた。
そんな圭司を霞む目で見て、凪は声をかける。
「…くっ、圭司…圭司が、無事で…よかっ…」
「凪さん!!なんでおれなんか庇ってんすか!
いやだ!いやだよ!待ってよ、凪さん!!
命大事にしろって言ったの凪さんじゃないすか!
こんなの絶対おかしいよ!!なんで…」
圭司の言葉を白くなっていく意識の中でぼんやりと聞いていた凪はそれには返事をせずに、全身の力が抜けていくのを感じていた。
(あぁ、俺、死ぬんかな…)
どこか冷静に、どこか他人事のように、諦めにも似た感情で、その事実を受け止め、凪は静かに横たわっていた。




