20
「ロンさーん!この採った野菜、どこに置くっすかー?」
圭司の陽気な声が野菜畑に響いている。
ご飯をもらったあと、お人好し夫婦が質問してくるアレコレに圭司は誠実に答えた。質問に答えたうえで、自分の身の上話も語った。
現に今生きて動いているため、事故で死んでしまったという話だけは信じてもらえなかったが、家庭での話をした時は抱きしめられ、頭を撫でられた。
恥ずかしくて、くすぐったくて、心がポワポワして、凪と出会ったときに意図せず流した心地良い涙と似たようなモノが圭司の瞳を濡らしていた。
お人好しの夫婦、夫はケイロンさんと言うらしい。婦人はシーティルさんだそうだ。2人は一人息子が旅に出てしまって、「ちょっと寂しいの」と言った。
圭司は身の上話もそうだが、金もないし、ここがどこかもわからないし、行くところもないし、飯をいただいたのにどうお返しをしたらいいのかわからないと正直に夫婦に話していた。
「じゃあ、このお家に居なさいな!そして、畑を少し手伝ってちょうだい?朝晩の食事もちゃんと付けるわ!ね?いいでしょ?ロン、そうしましょ?いい案でしょ?」
「いいねぇ、ボクは大賛成だよ!ケイジ、キミはどうだい?」
圭司は願ってもない提案に可愛らしい笑顔で大きく頭を下げた。
「おれ!いっぱい頑張るっす!よろしくお願いしまっす!」
圭司は宣言した通りの働きを見せて、得体の知れない自分を受け入れてくれた夫婦に恩返しするんだと心に誓い、陽の明るいうちは農作業に打ち込んでいた。
日が沈み、さて寝ようかというタイミングで毎日毎日願うのは、恩人夫婦に対する感謝ではなく、凪のことだった。
「凪さん、もう一度会いたいよ。会って凪さんに謝ってお礼を言いたいんだ。凪さん…凪さん…」
凪を失って以降の圭司はもちろん今のこの瞬間も凪のことを忘れたことは一瞬たりともない。いつも圭司の心の片隅に鎮座している凪。
突然見知らぬ場所にわけもわからず来てしまった圭司は混乱するあまり、自らが心の中の凪の周囲に纏わせていた暗くて黒い、後悔や懺悔といった感情が霧散していたのだ。
空腹を感じたことも、自然に笑顔が出たことも、暗くて黒い感情が消えたことにより出てきた感情なのだろう。
だけど、凪を失ったことでポッカリと空いてしまった心の穴だけは塞がってはいないのだ。
寝る前に凪のことを思い、鼻の奥がツンと小さく痛み、しかし昼間には全力で農作業している体は、その疲れを癒すように圭司を夢の中へと誘っていく。




