13
凪がいなくなってからたぶん10日ほど経った。
日付や時間の感覚が朧げでよく覚えていない圭司は、酷い有り様をしている。寝ることも食べることもほとんど出来ず、心身共にボロボロの状態だ。
何度か警察署に呼び出され、あの日のことを繰り返し話していた。凪を刺した蛇山中のクソ野郎は勾留されていて、逮捕されるそうだ。未成年だから、家庭裁判所にでも送られるのだろうか。
圭司はクソ野郎の今後なんてどうでもいいと思っていた。奴が死刑になろうが、凪はもう帰ってきてはくれないのだから。
今日も警察に呼び出され、ボロボロの状態でフラフラしながら警察署までの道のりを何とか歩いていた。
ふと、ある交差点で立ち止り、凪と出会った時のことを思い出していた。じわりと胸の奥が痛んでくる。
ランドセルを揺らして、見知らぬ少年が圭司の横を走り抜けたと思ったら、信号が赤になったばかりの交差点をそのまま走り抜けようとしていて、その先に青信号だからと速度を落とさず交差点に差し掛かろうとしている車が目に入った。
頭で考えるより早く体が動いていた。凪が圭司にしてくれたように器用な助け方は出来なかった。ランドセルを掴み、自分と位置を入れ替えるように後方へ投げ飛ばし、その反動で自分は車の前に躍り出る。
車に轢かれる瞬間はまるでスローモーションのように感じるとどこかで聞いたことがある。遠のいていく意識の中、本当にスローモーションのようだったなと思い、暖かい自分の血の海に浮かびながらゆっくりと瞼を閉じていった。
瞼を閉じきる一瞬前に、乱暴に投げ飛ばしてしまった少年は助かったのだろうかと気になった。目を開けることは叶わなかったが、少年らしき泣き声が聞こえてきたので、怪我をさせてしまったかもしれないが、助けられたのだろうと。少しは凪さんに近付けたかなと緩く微笑んだ。
ごめんなさい、凪さん…
凪さんに2度も救ってもらった命…
大事に出来なくて…
緩く微笑んだまま、凪への懺悔の言葉を心に紡ぎながら、圭司は意識を手放した。
気が付くと圭司は野菜畑の中にいた。