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「おらぁぁぁあ!!…ッこれで!おしまいだッッ!」
得意技である回し蹴りを叩き込み、倒れていく蛇山中の番長を見下ろしながら、肩で息をする凪。
周囲には呻きながら地面に臥している蛇山中の面々と、ボロボロになりながらも勝利を喜んでいる鷲河中の仲間たちがいる。
今日の喧嘩も鷲河中の勝ちである。
定期的に衝突する鷲河中と蛇山中のヤンキー少年たちは、一般の他者を巻き込む事なく、両校のほぼ中間地点にあるいつもの河川敷で喧嘩していた。
「凪さーん!今日もまじキレッキレの蹴りっすね!まじでさすがっす!」
圭司が鼻血を手で拭いながら、人懐っこい笑みを浮かべて凪に駆け寄ってきた。凪は小さく深呼吸してから、やや吊り目の三白眼を圭司に向けて、右手をあげる。
『ぱぁん!!』
凪と圭司による、勝利のハイタッチ。敗戦し、お互いに肩を貸し合いながらとぼとぼとその場から離れていく蛇山中の奴らを尻目に、鷲河中の仲間たちはニコニコと勝利を讃えあっていた。
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「いや〜、まじ今日の凪さんのキメの回し蹴り!まじかっこよかったっすよ!まじシビれるっす!」
さっきから何度同じセリフを聞いたかわからない凪は、呆れながらも興奮冷めやらぬ様子の圭司の頭に手を乗せ、話かける。
「圭司、鼻血はもう止まったんか?けっこう血、出てただろ。」
「よゆーっすよ!おれ、昔から怪我とかすぐ治るタチなんっすよ!」
「そうか。まぁでも油断すんなよ。家に帰ったら冷やしとけ。」
「了解っす!」
その後、他愛もない話をしながら、鷲河中の仲間たちはそれぞれ家に帰っていく。最後に圭司と別れ、凪は誰も待つ者がいない家へと向かって歩いていった。