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腹黒いもうとはラブコメ選択肢に恋い希う  作者: 紅月白夜
第六章 御前ヶ崎悠真は妹に恋してる
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第六章 御前ヶ崎悠真は妹に恋してる 4

やがて色々あった食事会が終わりを告げると、俺とヴィヴィカはさも何事もなかったかのように普通の兄妹として振る舞っていた。


実際は、血のつながらない兄と妹だけど。


それとまた、兄が妹に恋をしているという奇妙な状況だけれども。


それでも俺は、今日ヴィヴィカにある想いを伝えるために、ここにいる。


そう、あともう少しでその時間がやってくる……。


「パレード……」


俺のもう一人の妹せりながランド内にて何かを見つけ、俺の服の裾を引っ張りながら、もう片方の手で遠くのほうへ指を差していた。


「おお、パレードが始まるのか!」


「異世界ランド」の北側エリアにはかなり大きな水場があり、そのほぼ円形の湖には、何隻もの船が巡航しているのだった。


「ゆうくんゆうくん、早くしないと場所埋まっちゃうよ!」


「ああそうだな! よしっ、行くぞ二人とも!」


「ちょ、ええっ!」


「……れっつごー……」


俺はここでも琴子に導かれるように湖のほとりへと移動していき、妹二人と場所取りに専念した。


「じゃじゃーん! レジャーシート! 琴子ちゃんは準備も良いし可愛い! まさに完璧なのだっ!」


「可愛いは余計だろ」


「ひっどーい! でもそんなゆうくんも琴子は好きだよ?」


「俺は嫌いだ。琴子なんて」


「がびーんっ! もしかして今あたし、また振られたの……?」


「ああ、振った振った。それよりそのビニールシート敷くの手伝うぞ?」


「おー、助かるぜー!」


俺は琴子と協力して湖の周囲の原っぱへと、ビニールシートを敷くことにする。


「ほらっ、座っていいぞ、二人とも」


「あ……ありがと」


「わーい……特等席だ」


パレードはたった今始まったばかりのようで、なんとか場所も確保することができた。俺たちは四人でビニールシートの上に座りながら、「異世界ランド」のキャラクターたちが活劇風に踊り回るパレードを観賞した。


船上のみならずランド内にもキャラクターが登場し、色々な場所でにぎやかな音楽とともに一体となって周囲を巡るさまは、見ているだけで楽しくなってくること請け合いだ。


ここにはエルフやドワーフ、獣人やオリジナルキャラクター「ティーリエ」に加え、多種多様なモンスターまでもがあちこちにいるため、実に飽きることがない。


またこれは遊びの一つなんだが、ランド内にいるキャラクターたち全員に会いスタンプラリーをしながら「モンスター図鑑」を完成させると、出口近くにあるおみやげ屋さんで記念品をもらえると言う。


今日は無理かもしれないが、今度また来る機会があればやってみることにしよう。


「私たち、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」


「あれ? さっきもヴィヴィカ行ってなかったか?」


「うるさいわねっ! さっきのはその……。ともかく、せりなも行きたいって言うから付いて行くだけ! 変な詮索しないこと!」


「はーい。じゃー、気をつけてなー」


「う、うん。ほらっ、行くわよせりな」


「パレード楽しかったね……おねえちゃん」


「そ、そうね」


パレードの昼の部が無事に幕を閉じると、ヴィヴィカとせりながトイレへ行ってしまったので俺たち幼馴染みチームはビニールシートの上で雑談に興じることにした。


「ゆうくん、パレードもけっこう派手で楽しかったね!」


「そうだな。特に七色のドラゴンが出てくるシーンは、もう一回と言わず何度でも見たいくらいだ」


「そうだねそうだねー。ところでゆうくん、あたしと付き合わない?」


「いきなりだな」


「いきなりなのです! で、どうなのさ?」


「どうって言われても答えは今までどおりだ。俺はお前とは付き合えない。他を当たるんだな」


「むーっ! ゆうくんのいけずー! そろそろ琴子の魅力に落ちてくれてもあたしは全然構わないんだぜ? それに、ゆうくんの他になんて考えられないよっ!」


……ぅぐ。


ほんとこいつは男をダメにする台詞をいとも簡単に吐きやがる。


気を張っていないと、あやうく琴子のアプローチに心を許してしまいそうになる。


「それはそうとー、ゆうくん、あのとき渡したチケットはまだ持っててくれてるの?」


「ああ、あのビッチ券か」


「そんな略し方しないでくれない!? あの券にはあたしの純情な乙女心がこれでもかと込められているんだよ!」


俺は琴子の主張を軽く受け流して、自分の財布の中から例のブツを取り出した。


「あー! お財布に入れて大事に持っていてくれたんだねー! 琴子よろこびー!」


「はいはい、よろこんでろよろこんでろ。これはただ、純情なビッチ心が込められたこの券を捨てちまうのはさすがに悪いかなって思っただけで……」


「またまたぁー。そう言って本当は女子高生の胸を揉みたかっただけなんじゃないのー?」


「ま……まあそれは、否定はしない、かな……」


「おーっ!? ツンデレからデレを抜いたゆうくんにしては珍しく素直な反応!? こ……これはワンチャンいけるか……?」


「そこは脳内台詞に留めておくところでは……? あと琴子、さりげなく腕に抱き着くのはやめろ」


「へっへーん! 琴子ちゃんのましゅまろおっぱいに幼馴染みがオチる日も近いぜー? 琴子ちゃんあきらめないもんっ!」


「ははは……。琴子のそういうとこ、本当に尊敬するよ」


「ゆうくん……?」


琴子はいつもの俺の毒舌に慣れ切っているせいか、素直な俺の様子に疑問を抱いている風だった。


琴子は俺に押しつけた両胸をわずかに離しては、俺の悩みを聞いてくれる。


「俺、今日ヴィヴィカに告白しようと思うんだ」


俺に好意を抱いてくれている琴子には残酷極まりない台詞だけれど、ヴィヴィカとの出会いから始まり、今までの馴れ初めまで知っている彼女に隠し事をしたままっていうのも、それはそれで違うかなと思い、正直に心の内を明かした。


対する琴子の反応は、


「そっかー。がんばってね、ゆうくん」


というものだった。


「あれ? 応援してくれるのか、琴子?」


「……うん。だってはじめから知ってたし。ゆうくんが大のシスコンであること、琴子はずっと気づいてたし。だからいつかはそんな気がしてた。琴子はヴィヴィカちゃんとの恋を応援するよ、ゆうくん」


「琴子…………」


あれ?


琴子ってもしかして、天使なのか?


ビッチの皮をかぶった女神なのか?


ふつう好きな人からこんなことを言われたら悲しいはずなのに、琴子はそれでも我慢して、俺の話を聞いてくれていた。


「ごめん、琴子。でも俺は、お前が俺に気持ちを伝えてくれたように、俺もヴィヴィカへの気持ちを正直にぶつけたいんだ! だから、どうかわかってくれ」


琴子はまるで俺の恋人みたいに寄り添うと、泣きそうな目になりながらも、上目づかいで俺の瞳を見つめる。


「……もう何度目の失恋かな。でもね、ゆうくん。たとえあたしはゆうくんがヴィヴィカちゃんと付き合うことになっても、あたしはゆうくんのことが大好きだよ」


「なんか、ごめん……」


「ううん、いいの。だってあたしはたとえゆうくんがヴィヴィカちゃんと結婚しても、ゆうくんのことが大好きだもん」


「いや、それはちょっと、いやっていうか……」


「ううん、いいの。だってあたしはたとえゆうくんがヴィヴィカちゃんとの子どもを儲けても、ゆうくんのことが大好きだから」


「いやいや、それは完全にアウトだから! 浮気とか不倫とかそういう話以前に恐いから! ヤンデレみたいだから!」


「ゆうくん、だぁーいすき!」


「こわい! ヤンデレ琴子爆誕!?」


「ゆうくん、だぁーいすき!」


「やめて! 俺の腕をがっちりロックして甘い言葉を耳元でささやくのはやめて!」


「ゆうくん、だぁーいすき! ……ずっといっしょにいようね?」


「ビッチで純情な上にヤンデレ開花!? 琴子、少し属性増やしすぎでは!?」


「琴子をヤンデレにさせないでね……?」


「ははは……。これはどうしたらいいんでしょうか……?」


俺はさも恋人のごとく腕に纏わりついてくる琴子に畏れをいだきつつも、それでも幼馴染みの執念深さ……よく言えばあきらめの悪さを見習って、これからの行動のために役立てることにした。


「そういうわけで、俺はヴィヴィカに告白する。だから……見守っててくれ」


「うん! あたしがゆうくんが振られるところ、近くで見守っていてあげるね」


「はは……まあそうなる可能性のほうが高いわけだが……」


それでも、俺は当たって砕ける覚悟をしていた。


もし一度ダメならもう一度やり直せばいい。


もう二度ダメでも俺は何度でも失恋をやり直すことができるのだから……。


隣で俺の恋人を装い笑う琴子にとって、今の言葉がもしかして、最後の抵抗なのかもしれなかった。

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