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腹黒いもうとはラブコメ選択肢に恋い希う  作者: 紅月白夜
第五章 三つ編みはえっちな行為です
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第五章 三つ編みはえっちな行為です 1

『第五章 三つ編みはえっちな行為です』


次の日開催された文化祭最終日もつつがなく幕を閉じると、振替休日にあたる月曜日、俺、ヴィヴィカ、せりなの三人は都内に位置する大型ショッピングモールへとやって来ていた。


なんでも、水泳部に所属するヴィヴィカの水着のサイズが合わなくなってしまったため、水着を新調したいとのことだ。


俺がヴィヴィカに「それ俺も行く必要あるかー?」と問うと「アンタは私のお財布なんだから付いて来なさいよね!」と返され、「いったいどこがキツくなったんだー?」と問うと「それを女の子に言わせるなんて、アンタ最低ね! 胸に決まってるでしょ、胸に!」と返された。


率直な意見を言わせてもらうと、あんまり服の上からではわからないが、ヴィヴィカのバストサイズが増えたようにはどうも思えん。


そうして俺がヴィヴィカの胸を凝視していることに気づかれ女の子からグーパンされるのも、もはやお約束である。


「ヴィヴィカ、着いたぞ」


ショッピングモールの一階にはスーパーとフードコートなどがあり、二階にはアパレルショップが立ち並び、三階には映画館とゲームセンターが設置され、連日人の到来を待っている。


俺たちは二階に位置するスポーツ用品店へとやって来ると、早速中へ入ることに。


「おにいちゃん……トイレ……」


「またかよ!」


俺は幼稚園児のお守りじゃねえんだぞ!


と、いっそのこと言ってやりたかったが、せりなのなんとも可愛らしくせがんでくる顔を見ていると、兄としてはどうしても同行せざるを得なかった。


五分後、ヴィヴィカと二人でせりながトイレから出て来るのを待ち、再度目的の店へ辿り着く。


「アンタ、こっちとこっちどっちが良いと思う?」


入店してしばらくしてヴィヴィカとせりな姉妹がきゃっきゃと和気藹々していたかと思えば、突然ヴィヴィカが俺にそんな質問を投げかけてきた。


妹が手にしているのは二つの水着――白のモノキニタイプと、黒のスカラップビキニだった。


パチンッ。


得てして、すぅの合図によってこの時もまた、選択肢を選ばなければならないようだ。


今度は難題だぞ?


今まで散々思い知ってきたことだが、女の子は何をキッカケにしてキレ出すかわかったもんじゃない。


アイツらはライオンかベンガルトラだ。いやもしかしたら、グリズリーかもしれない。


とはいえまあ、男子一人の手に負えないという意味ではどれであろうとそう大差はないが。


「さぁーて、本日もやって参りましたラブコメ選択肢タイム! ご主人サマ、準備の程はよろしいでしょうか!?」


「長い前置きはいいから、さっさと選択肢を提示してくれ」


「りょーかいしましたー! ご主人サマも積極的になってきてくれたようで、なーによりです!」


「積極的っていうか……」


ただこの空間がメンドくさくなってきただけっていうか……ね?


だってほとんどはどれを選んでも俺が責められるんだぜ?


今回だってそうに決まってる!


なぜならヴィヴィカはライオンでもクマでもなく、ホワイトタイガーと称するにふさわしい女の子だからな。


白くて美しい見た目をしているが、肉食獣なのは変わりない。


ちなみに動物シリーズで言やあ、せりなはナマケモノ、琴子はチンパンジーかな?


理由は……わかるよな?


『1、俺は断然モノキニタイプかな。フロントから見た清楚さ、バックから眺めたセクシーさ、そのうえ着痩せして見えるというトリニティ・エフェクト。まさに三位一体型水着の頂点!』


『2、スカラップビキニに決まってるだろ! 人魚姫を思わせるホタテ貝模様の立体アーチ、半円波形の縁飾りがエレガントでフェミニンでガーリー! まさに三位一体型水着の原点!』


『3、ヴィヴィカにはどっちも似合うと思うぞ? でも値段高すぎないか?』


正直服へのこだわりが強い服飾系高校に通う身としては、どちらも捨てがたい。


王道のトライアングルビキニや身体のラインを細く見せてくれるコルセット付きのビスチェなどもすばらしいが、ヴィヴィカが選んできた二つもそれぞれ同じ水着なのに個性があってグッドだ。


さすがヴィヴィカといったところ。


で……本来俺たちはヴィヴィカの競泳タイプの水着を買いに来たはずだったんだけど、いつの間に妹のプライベート水着を選ぶことになってんの?


もうちゃっちゃと目的の物を買って、家に帰ろーぜ?


俺は早く録画した土曜の深夜アニメ見なくちゃなんないんだから頼むよー。


と言っても、ヴィヴィカを筆頭にシスターズが素早く用事のみを済ませて帰ろうなどと言うとは到底思えない。


寄り道大好き、道草大好きのアニマルズだからな。


「俺は断然モノキニタイプかな。フロントから見た清楚さ、バックから眺めたセクシーさ、そのうえ着痩せして見えるというトリニティ・エフェクト。まさに三位一体型水着の頂点!」


俺は色々悩んだものの、とりあえず自分の意見をはっきりしておくことにした。


心のままに回答するなら3なのだが、優柔不断な男は嫌われるパターンってあるじゃん?


だからどっちかを選んでみたってわけ。


俺は本当はモノキニタイプもスカラップビキニも、どっちも良いと思うんだ。


「ふぅーん。アンタはこういうののほうが好きなのね。参考になったわ」


……あれ。


ヴィヴィカの機嫌が悪い?


てっきり俺にどちらかをはっきり選んでほしくて質問してきたんだと思ったが、どうやら違ったみたいだ。


もしくは、ヴィヴィカ本人としてはスカラップビキニのほうが好みだったものの、一応兄の意見も尋いてみた……ってことなのか?


いやあり得るな、それ。お兄ちゃん妹の気持ちを読むプロじゃね? ついに読心術まで覚えてしまったよ、お兄ちゃんは……。


「すぅ、頼むぜ」


「あいあいさー!」


パチンッ、という音がしてまた改めて選択をすることにした俺。


おそらくヴィヴィカの本命はホタテ貝模様のカットワークが鮮やかなスカラップビキニ!


そうだ、そうに違いない!


お兄ちゃんの魂を懸けるぜ!


「スカラップビキニに決まってるだろ! 人魚姫を思わせるホタテ貝模様の立体アーチ、半円波形の縁飾りがエレガントでフェミニンでガーリー! まさに三位一体型水着の原点!」


すると、たちまちにして明るくなっていく現実様相。


俺の選択した発言に、妹が返した答えとは……


「ふぅーん。アンタはこういうののほうが好きなのね。参考になったわ」


――というものだった。


あっれー? さっきとまったく同じじゃん。


「すぅ、とりあえずもう一回だ」


「はいはーい!」


お兄ちゃん2番に魂をベットしてヴィヴィカから芳しい答えを得られず撃沈。


魂のないお兄ちゃんになりました。


「はあっ? ってことは3番が正解!? ヴィヴィカは俺に自分の水着を選んでほしかったんじゃないの?」


「ちっちっちー。甘いですよ、ご主人サマ。女の子に正解はないのです。だって女の子自身が正解をわかってないんですから」


「そういうもんなのか?」


「そういうものなのです」


え、なにそれ。まさしく本能で動いてるってこと? 女の子はやっぱりアニマルズなの?


頭じゃなく本能のままにキレたり、感情のままに俺を罵倒するわけ? アニマルヴィヴィカちゃんなの?


「ヴィヴィカにはどっちも似合うと思うぞ? でも値段高すぎないか?」


くっそー、女の子の気持ちがマジでわからん。


ふつうどっちが良い? って訊いてきたら、どっちかを選ぶに決まってんだろ。


なんだよその引っかけ問題。


やる気あるわけ?


俺に正解選ばせる気あるわけ?


「ふぅーん。アンタはこういうののほうが好きなのね。参考になったわ」


「…………って、全部一緒やないかーい!」


謎の関西弁。


お兄ちゃんビックリしすぎて一瞬だけ関西人リスペクトしちゃったよ。


「はあ? なに一人で騒いでんのよ。別に私がどんな水着を好きだっていいじゃない。それとも? アンタには私に着てほしい水着があるとでも言うのかしら?」


「いや、特にそういうわけじゃねえけど、ヴィヴィカなら何でも似合うと思うぞ?」


「そ……そう。キモオタにしては気が利く答えね」


俺がふと、自分でも何気なくそんな甘ったるい台詞を言ってしまったことに気づくと、すぐさま後悔したのちヴィヴィカの反応を窺うのだった。


俺の発言にヴィヴィカも照れた様子で、ほのかに染まった頬はなんとも可愛らしい。


「ホワイトタイガーでも、顔を赤く染めるんだな」


「……は? なに言ってるわけ?」


なんかちょっとだけ良い雰囲気になっていたものの、俺はまた余計な一言を言ってしまったことで、ヴィヴィカの機嫌を損ねそうになっていた。


幸いなことに、俺の脳内において展開された「女の子はみな動物シリーズ」が彼女に知られることはなかったが、その鋭い目つきは、まさにネコ科を思わせるものがあった。


そこに、ある一つの水着を手にしたせりながやってくる。

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