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腹黒いもうとはラブコメ選択肢に恋い希う  作者: 紅月白夜
第三章 ラブコメ妖精と選択肢タイム
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第三章 ラブコメ妖精と選択肢タイム 3

「あれ……おにいちゃんもう帰ってたんだね。……ふわーあっ」


「せりな、俺さっき一応お前に声かけたけどな」


「……そうだったんだー。……せりな、ゲームに夢中で気づかなかったよー……」


でしょうね。


さっきバンバン画面の中で人を撃ち殺してましたもんね。


「それで……? ……おにーちゃん今日のごはんなぁーに?」


妹が、ゲームのキリの良いところで手を止め、リザルト画面を表示させたままソファーから立ち上がって言う。


「そうだなぁー、せりな、なに食べたい?」


本日土曜の昼食は、どうせヒマだしせりなの好きなものを作ってあげてもいいかもな。とはいえ、せりな自身は珍しく昼に起きた様子で、三時間ほど前に目を覚ましたとのこと。こいつの生活リズム本当に大丈夫かと、やっぱりお兄ちゃん心配になっちゃうよ。


「……お寿司とステーキとしゃぶしゃぶとハンバーグかな……」


「好物全部盛り!? せりな、頼むから一つに絞ってくれ」


「……FPSと対戦格闘ゲームとレースゲームとパーティーゲームかな……」


「好きなゲームは聞いてないから。ほれっ、襟が曲がってるぞ?」


「ふえーっ? おにいちゃん、パーティーゲームしようよ。昨日買った……超波瀾万丈人生ゲームがあるんだ……」


「なにその思いっきり楽しくなさそうな人生ゲーム。お兄ちゃん人生安らかに過ごしたい派なんだ」


「……余生だね」


「まだ生きるつもりだからね! 人生これから系男子だからね、俺」


「……寄生だね」


「それはせりなのことかな!? 毎日学校へも行かずゲームばっかでお兄ちゃんせりなの人生が心配で心配で……」


「……後生だね」


「もう死んだ後のことまで考えてるの!? お兄ちゃん妹にはまだまだ幸せになってほしいと願ってるよ! 妹のこと大好き系男子だよ、俺」


「……それじゃあ一緒にゲームしよっ?」


「昼飯はどうするんだ?」


「冷凍のピラフがある……よ」


「お前いつもそればっか食ってんじゃねえか! ……まあ、せりながそれでいいなら良いけどさ。そんじゃ、夜に俺がハンバーグ作ってやる! せりなが好きな、チーズハンバーグだ!」


「チーズは……ぜったい載せるだけじゃなくて中に入れてね……?」


「謎のこだわりがあるんですね。……わかったよ、夕食はチーズインハンバーグだ!」


「……やったあ」


そんなこんなで、俺は妹と冷凍のピラフをレンジでチンして温めたあと、二人で談笑しながら食事を摂った。


地元の郵便局で働く綾さんは友達と一泊二日の旅行へ出掛けてしまっているし、せりなに話を聞くかぎり、ヴィヴィカも水泳部の朝練に行ったまま帰って来ていないらしい。つまり、今日はせりなと二人、一家団らん、血のつながった兄妹同士で兄妹団らんといった感じで過ごすことができるというわけだ。


と、そんなふうに思っていると俺の頭のすぐ近くに滞空しているAI妖精がマイク越しに告げてきた。


「それじゃあ、ヴィヴィカさんが帰ってくるまですぅの出番はナシですね……。がっくりです」


すぅはあからさまに落ち込んで見せ、妖精ならではの特技をお披露目できるのはもう少ししてから、という事実にがっかりしていた。


「まあそんなに落ち込むなよ。ヴィヴィカももう少ししたら帰ってくるはずだって」


「……おにいちゃん、せりなに……なにかゆった?」


「い……いやっ、何も言ってないぞ!」


「そ……そっか……。ふぅーん……」


せりなはゲームのコントローラーを手に持ちながらソファーに座り、FPSからパーティーゲームの準備をするため、手を動かしていた。


実に驚くべきことに、せりなには妖精の姿が見えていない様子だった。すぅが自身のステルス機能を起動させたのか、妖精対応コンタクトレンズを装着した俺にだけ機械人形の姿が視えている。


また、俺が片耳に付けているイヤホンマイクにもステルス機能が備わっているようで、視界の端に視えているそれの輪郭だけが縁取りされ、物質自体は透明色として俺の瞳に映っている。


これがフェアリーテイル研究所が一〇〇〇万円の予算を資して造り上げた代物ということなのだろうか。今のところ、それによって俺に利があったわけじゃないから何とも言えないが、おそらくすごい機能なのだろう。


「……おにいちゃん、こっち来て。……はい、コントローラー」


「サンキュ。せりなと一緒にゲームするのも久し振りだな」


「そうだね。……おにいちゃん反射神経ないから対戦ゲームは……よわよわだけど、このゲームならだいじょうぶ」


「お気づかい感謝いたしますよ」


俺は若干皮肉ぎみにそう言うと、せりなの隣に腰かけた。


逆にせりながゲーム強すぎるんだよ。アクションゲームでも対戦ゲームでもめっちゃ強いし、あらゆるゲームのトップランカー、レート最上位の妹にただ平凡なクソザコお兄ちゃんが敵うわけないだろ?


せりなの言うとおり俺には反射神経も運動神経もない……いや、自己評価で平均的なはずだが、特技、というほどでもない。そう考えるとほんと、俺はすごい妹を持ったよ。


「おにいちゃん……すわるばしょ、ちがう……。ソファーのまんなか……きて」


「真ん中? いったいどうして」


「いーから……」


「はいはい」


「……ふへへっ」


せりなは俺がテレビの正面、ソファーの真ん中に座ると、どうしてか俺のふとももの間に割り込んできた。


「なるほど。そうやって俺の視界を奪う作戦か」


「ち……ちがう……。おにいちゃんに……くっつくさくせん」


「なんだそれ」


思わず笑ってしまうようなことを言ってくる妹だ。俺はコントローラーを両手に持っているから半ばせりなのことを抱きしめるかのような格好で、ゲーム画面を見つめることになった。


俺の胸がぴたりっとせりなの背中にくっついている状態だし、妹の黄緑色のロングヘアーに隠れて視界が遮られるため、前方にある小さなどちらかの肩にあごを載せてプレイしている。……へんなかっこだ。


「おにいちゃん、サイコロふって……」


「おうよ。まかせとけ」


俺はパーティーゲームが始まるとともにコントローラーのボタンを押し、すごろく状になっているマップを移動した。至近距離にいるせりなの髪からは女の子の香りがして、それがシャンプーとリンスの匂いと混じって俺の頭をくらくらとさせていく。


「なるほど。こういう作戦か」


「……なにゆってるの? ……あっ、わたしのばん」


人生ゲームというだけあって、ゲーム内容は至ってシンプルだ。ニートが序盤で職を得て結婚し、大金持ちになったり貧乏になったりしながらゴールを目指す。せりながサイコロを振ると、職業選択マスに止まった。


「さすがの妹も、ゲームの中では就職するんだなー」


「……らしいね。おにいちゃん、学校の先生とナース……どっちがいいとおもう?」


「うーん。なやむなー」


妹が言っているのは、ゲーム内の職業のことだ。どうやらどっちかを選択しなければならないらしい。と、そこで、ステルス機能を使ってカメレオンモードになっているすぅが鼻息を荒くして言ってくる。


「ぜったい先生ですよね!? 年上の女性から色々なことを優しく教えてもらえるなんて、最っ高じゃないですか!」


「すぅってたしか……AIだよね?」


どうしてAIが女性の好み説いてんの!? 俺はすぅに備わった人工知能に疑問を覚えながら、せりなの意見に耳を傾ける。


「わたし、おにいちゃんが好きなほうを……えらぶね? わたしはどっちでもいーよ?」


「そうかあ。うーん、ゲーム実況者って項目はないしなー」


秘密にしているわけではないんだが、実は妹は最近その腕前を活かして、ゲーム配信動画なるものを自身の実況付きで動画投稿サイトにアップしたりなんかしている。まだ始めて一か月ちょいしか経っていないが、ネット越しとはいえほぼ家から出ないせりなが他者とのコミュニティーを作っていることは、兄として素直に嬉しくなる。


「俺はやっぱナースかなあ」


「どうしてですか!」


俺はチアガール姿のAIの言葉がイヤホンを通じて流れてくるも、無視した。


「ナースはいいぞお。弱ってる時に優しく看護してくれることはもちろん、俺のために献身的に尽くしてくれるだなんて最高じゃないか。あー、ナース姿の妹にお注射されたい」


「せりなは注射きらい。でもおにいちゃんのことはすき。……だから、せりなもナースにする……」


「あーッ!?」


妖精の言葉が聞こえていないせりなは、何のためらいもなく「ナース」の職業を選択し、就職祝い金の三万円をゲットした。


「はたらくだけで三万円もらえるとか……人生ってチョロいね……」


「このゲームの開発者もニートにだけは言われたくなかったと思うよ」


そうして妹との楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気づけばゲームも終盤に差し掛かっていた。


「……おにいちゃんとの子ども、たくさん……できちゃったね……。せりな、うれしいようなたいへんなような……そんな、気分だよ」


「そうだな。気づいたらいっぱい家族できてたな。子だくさんだっ!」


今もなお、せりなと密着した状態は変わらない。ちっちゃな妹は大好きなゲームにのめり込んだまま、久々の協力プレイを心から楽しんでいる様子だ。妹との休日って、いいもんだな。


「たーだいまー」


そこに、もう一人の妹が部活から帰ってきた。口調はせりなに対して向けたものなのか、おだやかだ。


けれど玄関からリビングへ歩いて来て兄の姿を認めるや否や、俺とばっちりと目が合ったヴィヴィカはあからさまに不機嫌な表情となる。


「……あー、おねえちゃんおかえりー……。せりなねー、おにいちゃんとの赤ちゃんできちゃった……っ」


「「は?」」


せりなの何気ない一言に、時間が停止する俺とヴィヴィカ。


俺はすぐにゲーム内のことだとわかったものの、たったいま家に帰ってきたばかりのヴィヴィカの耳には、さぞやショッキングな事象として聞こえていたことだろう。


ヴィヴィカは手にしたプールバッグを、すとん……、とリビングの床に落としたのち、大きな玉汗をかきながら言葉を発する。


「あ……あ、アンタ……、もしかして実の妹に手を出したんじゃないでしょうね……?」


その顔は般若のごとき様相をしている。ころころと八面相のように表情が変わるヴィヴィカだが、その顔は明らかに俺への「怒り」をあらわしている。英語で言うと、アンガー。いや……、明らかに今どうでもいい情報だった。


「ち、ちがうちがう! ゲ……ゲームの話だって! 今せりなと人生ゲームしててさ、その中で二人の子どもが出来ちゃったってだけ!」


「そ……そう。それなら良かったわ。……か、勘違いして悪かったわね」


「お、おう……」


――なんだこの会話。


どうして俺がヴィヴィカに言い訳まがいのことをしているわけ? これじゃあまるで浮気がバレた夫みたいじゃないか。


「おにいちゃんとせりなの子どもの名前……なににしよっか……?」


「せりなぁあああ、おねがいだから少しだまってぇええええ!」


「ほえ?」


せりなの天然さんにも程がある。この会話、一歩間違えれば俺とヴィヴィカの関係が全部崩壊する危険があるんだぞっ! 頼むから口を閉じてぇえええええ!


「……ふぅーん。ずいぶん楽しそうにゲームしてたみたいね。まあ? だからって私が嫉妬してるわけじゃないけど?」


――なーんでヴィヴィカはいつも不機嫌そうなんだ?


あれか?


あれなのか?


俺の顔がそんなに気に入らないのか?


ブサイクなものを見ると反射的に気分が悪くなるとかいうあれなのか? だとしたら本当にすまん。それは俺のせいじゃない。


半分俺たちを残して異世界転生しやがった親父のせいだ。


うん、今ごろ異世界でハーレム築いて俺ツエーしているあいつのせいだ。


俺は何も悪くない。


「それよりいつまで妹の顔見つめてるわけ? キモオタ兄貴にじろじろ見られてるだけで不快になるからやめてくれる? 私、プール入ったからお風呂入ってくるけど、ぜったい覗いたりしちゃだめなんだからねっ! ……わかった!?」


「言われなくてもそんなことしねえよ。ヴィヴィカの裸なんて見たくねーし」


「はあッ!?」


嘘です本当は見たいですお兄ちゃん嘘吐きました!


「なんで私の裸に興味ないのよっ! 私の兄なら覗くくらいしなさいよッ!」


えーと……俺はなーんで怒られてるのかな? 見るなって言ったり見ろって言ったり、どーしてこいつの主張には一貫性というものがないんだろう? 自分のキャラクターを大事にしようよ。キャラがブレブレだから。あと物言いが理不尽すぎるから。


「いや意味わからんだろ。どこの世界に兄に向けて自分のお風呂覗けとか言う妹がいるわけ? ヴィヴィカ、部活で少し疲れてるんじゃないのか?」


俺がそう言うと、意外にもヴィヴィカは素直に兄の言葉に首肯した。


「それもそうね。……ど、どうして私、こんな変なこと言っちゃったんだろう……。と、とにかくお風呂覗いちゃだめなんだから! ばいばい!」


「なんだアイツ。けっきょく何が言いたかったんだ」


「おねえちゃんらしいねえ……」


せりなはせりなで何か納得してるみたいだし、お兄ちゃん女の子の気持ちがよくわからないよ。ヴィヴィカは自分の言葉どおりバスルームへと行ってしまうし、ゲームの中のせりなと俺は、また一人新しい子どもが産まれて出産祝い金五万円を手にしている。


「はーあっ……」


やっぱり人生はゲームのようにはいかねえよ。


俺は波瀾万丈ながら着々とハッピーエンドに近づいてゆくゲーム内の主人公を眺めて、ひとり溜め息を吐いた。

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