赤いのはトマトスープ(純度100%)です
壊れた玄関の前で呆然としていた俺は、誰もいないはずのリビングから物音がしたことで意識を戻す。
おかしい、今この家には俺しかいないはずだ。
そしてこの壊された玄関。
昨夜の夢を思い出す。
ま、まさか……あのコスプレ悪魔がいるのか……?
恐る恐るリビングの扉に手をかける。
すると、中からジューっと何かを焼く音が聞こえた。
なるほど、この音的に母さんが帰ってきて朝食を作ってくれてるんだな?
母さんったら、家に入るときは玄関を壊しちゃいけないじゃないか。
若干汗ばんでる手で扉を開け、文句を言いながらリビングに入る。
「母さん、帰ってくるなら連絡くらい……」
「ふぁ、ふぁっふぉふぉふぃふぁんふぁふぁ!」
「あ、お、お邪魔してます、光輝さん……台所、お、お借りしてます。」
そこにはエプロン姿のクロさんと、クロさんが作ったであろう料理をバクバクと食べている白き悪魔がいた。
スーーー-ハーー-ー。
大きく深呼吸しながら、冷静に、冷静に二人に質問をする。
「おい、なんでお前らが俺の家にいるんだ?」
「ふぁっふぇ、ふぉふぁふぇふぉふぁふぁふぃふぉんふぁふぁ」
「そこ!口の中が無くなってから喋りなさい!」
お前が喋るたびに口の中に入ってるものが飛んでくるんだよ。
あと大半何言ってるかわからないし。
俺は肩を上下に揺らしながら怒っていると、クロさんが代わりに答えてくれた。
「え、えと、細かいことは後で説明するんですけど……と、とりあえず光輝さんが魂魔に取り憑かれちゃって……とりあえず、光輝さんの家にお運びしました……」
「魂魔?取り憑かれた?お願いだからもう少しわかりやすく……」
「おかわりー!」
……こいつ、一発殴ってもいいかな?いいよな?
怒りで震えている俺を見向きもせず、ルンルンと鼻歌を歌いながらクロさんからおかわりを貰った食欲魔人は、同じく鼻歌を歌いながら元いた位置に戻る。
とりあえずこいつは後でお仕置きをしよう。
「え、えっと、説明すると長くなるので……とりあえず朝ごはんでもいかがですか?」
「あ、じゃあお願いします……」
とりあえずクロさんからお米の入った器を受け取り、食欲魔人の隣……
「ふぉっふぃふぃんふぁ!」
はやめて左斜め前の席に座る。
「すいません、勝手に台所をつかわせていただいてます…」
「いえ、お気になさらず!むしろクロさんに使ってもらえってキッチンんも喜んでますよ!」
「何ですか、キッチンが喜ぶって」
クロさんは少し照れたように笑う。
あぁ、やっぱり尊いな…
「なんだよキッチンが喜ぶって。そんなわけないだろ、馬鹿じゃないの?」
おいそこ、そんなことわかってるんだよ。
これはクロさんの罪悪感を少しでも紛らわせるためについた冗談なんだよ。
「お、おまたせしました、光輝さんの分のおかずです!」
「あぁ、ありがとう……え?」
とりあえず、コスプレの悪魔の悪態を無視しつつ、クロさんの持ってきた料理を見る。
いやぁクロさんは何を作ってくれたのかな!
目玉焼き、ベーコンエッグ、もしかして意外と和食の焼き魚と…か……
クロさんが持ってきたおかずを見て、驚愕する。
「あ、あの……お口に合わなかったら、残していただいてもかまいませんから……」
「……いや、クロさんの作ってくれたものなんで、ありがたくいただきますよ!」
もう一度おかずの盛られたお皿を見る。
お皿の中央にはテニスボールのような真っ黒い球体がのっており、その周りには真っ赤な液体が球体を半分ほど浸していた。
ぱっと見、血の池にポツンと浮かぶ孤島のようにも見える。
……いや、これ食べれるの?