これが天使か
いまだ痛む頭を押さえつつ、女の子の方へ向き直る。
そうだ、まだこの子がやばい子だと決まったわけではない!
多少服装がこの時代にふさわしくなくても、内面はしっかりしている子かもしれないし‥‥
けどあのでかい鎌がなー。
あれは100%触れちゃいけない類のものなんだろうけど、あれを無視しながら会話をするなんて、一般人の俺にはハードルが高すぎる‥‥
そんなことを考えながら無言で鎌を見ていると、女の子は俺が鎌を見ているのに気づいたのか、慌てたように鎌を体の後ろに隠そうとしている。
「違うんです!これはその‥‥コスプレ。そう、コスプレなんです!!」
「そ、そうなんですね‥‥」
顔を真っ赤にして必死に言い訳をする少女‥‥
廊下の窓から差し込む月明かりは、そんな少女の周りを照らし出している。
その儚くも美しい姿はまるで……
「天使様がご降臨なさった‥‥」
「‥‥‥へ?」
俺のつぶやきに、少女は言葉の意味が分からなそうに自分の周りをきょろきょろと見渡す。
「‥‥‥ヤバ、尊い」
「‥‥?」
少女はわからないですと言いたげに小首をかしげている。
‥‥いや可愛すぎない!?
急いで鎌を隠そうとしてるのも、その鎌が大きすぎて全然隠れてないのも、俺のつぶやきの意味がよくわかんなくてあたりを見渡すのも、結局わかんなくて小首をかしげているのも、その全てが可愛すぎるんだが!?
今まで尊いの意味が分かんなくて、なんとなく尊いって言葉使ってる人を嫌っていたけど、尊いって意識せずに自然に出る言葉だったんだな。
でもこの少女には一番合う言葉だと思えてしまう‥‥
ていうか月明かりもいい演出になってるし、彼女こそが本物の天使で間違いないだろ。
やっぱりあの最初に見たコスプレ少女は天使のふりをした悪魔だったんだな。
本物の天使と比べると、やっぱ纏っているオーラが違うな‥‥
神様、今日は人生で一番の厄日だったけど、とうとう私にも救いの光を当ててくださるのですね!
ひとまずこの感謝をしっかりと伝えなくては!
俺は少女の方を向き、頭を下げる。
「き、急にどうしたんですか!?」
「君の主様に感謝の思いを伝えているんです‥‥」
「‥‥?」
慌てる少女をよそに、俺はさらに深々と頭を下げるのであった。