99 初依頼
初日なので調子に乗って今日は3話更新。
「その代わり、ひとつお願いがある」
「なんだい?」
「お店を開くなら、後衛用の装備も作って欲しい」
「ああ、そうか。お安い御用だ。俺もそれは気にしていたところだし。分かった。後衛用の装備も作ろう」
「そうしてもらえると助かる」
ミラはペコリと頭を下げる。
この街の武具店を見て回ったけど、前衛、中衛向きの装備は充実しているのに対し、後衛向きの装備品はあまりよろしいとは言えない状況だった。
後衛職はボス戦では大活躍だが、ダンジョン内での通常戦闘ではその実力を発揮しづらい。
特に狭い通路での戦闘では、誤射も怖く、中々後ろから攻撃出来なかったりする。
よほど連携の取れたパーティーじゃないと、下手したら後衛戦闘職は逆にパーティーの足を引っ張る存在になりかねない。
優秀な魔法使いや弓使いは軍に所属する。
開けた場所での大規模戦闘こそ、彼らの真価が発揮されるからだ。
だから、冒険者をしている魔法使いは、軍に所属するほどの力量がないか、自由な冒険者という立場を自ら選んだ者か、どちらかだ。
ミラはどっちだろうか?
「できるだけリクエストには答えるよ。ミラはどんな装備が欲しいんだい? せっかくだから、今ここで受注しちゃうよ」
チラシを取りに行った『鋼の盾』はカウンターに順番に並んでいる。
まだ時間は掛かりそうだ。
「それは助かる。まず欲しいのは杖。今使ってるのはガタがきていて……」
「ちょっと貸してもらえる?」
「ああ、どうぞ」
ミラが隣りに置いていた杖を俺に渡す。
俺はそれを眺め、【魔力解析】で分析する。
クレシェの木か。素材自体は悪くないのだが、使い込まれたせいで、ところどころ魔力漏れを起こす小さなヒビが入っているし、所々損傷が激しい箇所がある。
この痛み方は……。
「ミラは殴りマジ?」
「…………(コクリ)」
「どういうこと?」
ニーシャが説明を求めてきた。
「殴りマジシャン、略して殴りマジ。魔法職なのに前衛に出てガンガン殴りながら、合間を縫って魔法を使うタイプ」
「へー、そういうのがあるんだ」
「少数派だけどな」
俺も一人知り合いが殴りマジをやっている。
カーチャンの元パーティーメンバーのモリーさんだ。
ちなみにエルフのモリーさんは俺の戦闘に関する俺の師匠の一人だったりする。
だから、殴りマジの存在を知っていたのだ。
それに、言ってみれば俺も殴りマジと言えなくはない。
俺は物理攻撃が主体で、合間に魔法を挟む物理寄りな殴りマジだ。
一方、モリーさんは、魔法がメインで相手の隙を突くために物理攻撃するという魔法寄りの殴りマジだ。
ミラは物理重視ではないだろう。
そうだったら、金属製のパーツを含んだ杖を使っているはずだからだ。
「ミラは軽装装備だし、回避型の殴りマジか。物理よりも魔法重視の」
「すごい。装備を一目見ただけでそこまで分かるんだ」
ミラが感嘆の表情を浮かべている。
「確かに、大分痛んでいるな。買い替えどきだ」
「…………(コクリ)」
「これの後継ってことで良いんだな?」
「…………(コクリ)」
「魔石は使いまわしでいいのか?」
「…………(コクリ)」
「これと同じはめ込み式でいいのか?」
「…………(コクリ)」
「希望の素材は? できれば金属製の方がいいんじゃないか? 例えば、ミスリルとか」
「それは、金属製の方がいいけど…………」
金属製の杖にすれば、もっと積極的に物理攻撃を仕掛けるとともでき、選択肢が増えることになる。
俺としては是非とも金属製をオススしたいところだ。
悩んでいるようなので、ニーシャに尋ねる。
「総ミスリルだといくら?」
「それだと50万ゴルだね」
値段を尋ねると、すぐに答えが返ってきた。
「そこまでは予算が厳しいかも…………」
値段を聞いて、ミラはうーんと考え込む。
「じゃあ、木製で要所をミスリルで覆う形か。希望する素材と形状、予算を教えてもらえるか?」
「できればエルダー・トレント。ムリなら、クレシェでもいい。形はこの杖と同じようなの。予算は25万ゴル」
「なるほど。もうひとつ聞きたいのだが、ミラはこの杖で攻撃する際、頭部で敵を殴ってるよな?」
「…………(コクリ)」
「やっぱりそうか。それでヒビが入っているんだな。それだったら、殴る代わりに先端で突くのはどうだ?」
「でも、それだと折れやすくない?」
「先端をミスリルで補強すれば平気だ」
「わかった、それで良い」
「頭部と先端。どちらでも攻撃できて便利だぞ」
「…………(コクリ)」
「よしじゃあ、こんなもんでどうだろう、ニーシャ」
「うーん、エルダー・トレント製で先端と頭部にミスリルを使うなら、ギリギリ30万ゴルね」
「予算オーバーか……」
「ちょっと、リーダーに聞いてくる」
オーマン達、先発組がミラとともに戻ってきた。
ミラはうつむいている。
フードで隠されているが、落胆ぶりが伝わってくる。
予算の都合がつかなかったんだろう。
「おい、アル。なんだよこのチラシ。セレス様の加護付きじゃねえか」
「ええ、大切するとご利益あるよ」
「確か、ステータスアップの効果もあるんだよな」
「ああ、折りたたんで胸元にでも入れておけば、ステータスアップするよ」
「初めて会った時から、不思議なヤツだと思ったけど、ほんと読めないヤツだ」
お手上げといったポーズをとって、オーマンはおどける。
「今から開店が待ち遠しいぜ。その日は大勢で訪れるから覚悟しておけよ」
「ああ、大歓迎だよ」
「それで、ミラから話は訊いたんだ、今は20階層クリア組の装備を優先したいんだ。だから、ミラに予算を割くことは出来ないんだ。申し訳ない」
オーマンがペコリと頭を下げてくる。
ミラは装備からいって、20階層代半ばを攻略しているのだろう。
ここは後進の為に涙を飲んでもらうかたちなのだろう。
「いえいえ。そういう事情なら」
俺はショボンとしているミラに向かって話しかける。
「どうする? 延期する?」
「お金はなんとかかき集める。だから……お願いします」
「分かった、素材はストックしてるし、今夜作っておくよ。引取りの時間なんだけど、どうしようか?」
「今夜作っちゃうの?」
「ああ、一晩あれば十分だ」
「スゴい……。明日の朝でも良い?」
「ニーシャはどう?」
「朝7時から9時くらいなら店にいるわ」
「わかった、それまでにお金集めて、取りに行く」
「場所はチラシに載っているから」
「うん、ありがとう。よろしくお願いします」
ミラがペコリと頷き、杖を渡してきた。
魔石をリサイクルするためだ。
「それにしても、よく初対面の俺に大切な武器を任せることにしたな」
「リーダーから話は聞いていたし、一目見てピンときた。この人なら任せられるって。だからお願いした」
「そうか、そう言ってもらえると嬉しいよ。是非とも満足させる杖を作ってみせるから、楽しみにしててな」
「うんっ!」
ミラが初めて笑顔を見せてくれた。
可愛らしい笑顔で、こっちもやる気が出てくる。
是非とも、彼女が喜ぶような一品を仕上げてやろう。
こうしてチラシを預け、予想外の初依頼を受け、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
俺たちが帰る頃も、カウンターには長蛇の列ができていた。
『鋼の盾』のメンバー以外にも、騒ぎを聞きつけた冒険者たちが並び始めたのだ。
この調子だと、開店も上手くいきそうだな。
二人で笑いながら、俺とニーシャは家を目指した。




