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96 ポーション作成機

 ジェボンさんの店を後にした俺は、ファンドーラ商会を目指した。

 店に到着して最初に気づいたのは、セーラー服に長いソックスで『絶対領域』が今日も眩しいスティラさんだった。

 彼女は店先を箒で掃き掃除をしていたのだ。

 うさ耳のごとく2本ぴょんと飛び出たカチューシャが似合っていて、ものすごく可愛い。


「スティラさ〜ん」

「あら、アルさん。お待ちしておりましたよ」


 スティラさんはニッコリと笑顔を向けてくる。


「初めて会った時もそうでしたけど、わざわざスティラさんほどの立場の方がやるものなんですか?」

「掃除自体が私の趣味でもありますし、初見の方の観察にもなりますからね」

「ははあ、なるほど」


 初見の人間はスティラさんにチェックされるのか。

 確かに、入口前だと素の表情が見れるのかも。


「それに、今日はアルさんがいらっしゃる予定でしたから、ここでお待ちしていたんです」

「わざわざ、すみません」

「いえ、好きでやってることですので」


 そう言って、謙遜する姿も可愛い。

 スティラさんの一挙一動が可愛く見えてしまうのは、『絶対領域』のせいだろうか?

 恐ろしい…………。


「それじゃあ、場所を変えましょうか」

「ええ」


 案内されたのは広い作業場だった。

 片隅には大掛かりな機械があった。

 機械の周りには4人の人々が待機している。

 そのうちの一人の女性がこちらに向かってくる。


「この度、ポーション製造機制作班の班長に命じられたエチカと申します。何卒、よろしくお願いします」

「ノヴァエラ商会のアルです。そう固くならなくても結構ですよ」

「あなたが中級ポーションの開発法を発見したアル殿ですか?」

「ええ」

「ありがとうございます。おかげで魔出力の小さい私でも役に立つ仕事に巡り会えました。本当に感謝しています」


 土下座しかねない勢いでお礼を言われた。

 そうか、俺が発見した方法で救われるのは、なにも冒険者だけじゃないんだ。こういうエチカさん達みたいな低魔出力の人に新たな仕事を与えることになったんだ。

 そう考えると胸のうちからジーンとした思いがこみ上げてくる。


「まずはアル殿からお教え頂いた製法を元に、当商会が考案した製造ラインをご覧ください」


 エチカさんの案内の下、部屋の隅にある大掛かりな機械に向かう。


「アルさんからお教え頂いた製法は大きく4つのステップに分けられます」


1.ダイコーン草を揃え【空斬エアカッター】で根っこを切り落とす。

2.【空圧エアプレス】で魔素を抽出

3.【水球ウォーター・ボール】で魔素ボールを作る。

4.【飛翔フライ】で魔素ボールを血液の溜まったタライの上で転がし、毒素を抜く。そして、マナウォーターに溶かし込んで完成。


 俺が開発した方法は4つのステップになっている。

 複数の魔法を使うので難しいが、1つ1つのステップは簡単だ。

 まあ、最後の【飛翔フライ】での制御がちょっと難しいくらいだ。


「我々はこの4つのステップを分業することにしたのです」


 なるほど。


「そのうえで、最初のステップは【空斬エアカッター】を使うのではなく、刃物で切ることにしました」

「ふむふむ」


 俺が【空斬エアカッター】を使ったのは、単に手で切るのが面倒だからだ。

 どうしても【空斬エアカッター】を使わなきゃならない理由はない。


「後は順番に一人ずつ魔法を使って行きます。【飛翔フライ】だけ魔力操作に長けた者が担当すれば、残りの2つは多少の魔力操作でも十分です」

「ああ、そうだね」

「他にはマナウォーターを補給したりする補助員が入ればオーケーです。計5人で中級回復ポーションを作れます」

「よく、考えたね」


 俺の作成法は魔法を複数使いまわしていくスタイルだ。

 ただし、絶え間なく作り続けるにはとんでもない魔力量が必要となる。

 だけど、彼らは分業によって、その問題を解決したんだ。


「素晴らしい。実演してもらえるかな?」

「はい。是非、ご覧になって下さい」


 エチカさんが他の人たちに指示を出す。

 すると、大型機械のベルトコンベアーが動き出す。

 最初の一人が山積みのダイコーン草から10束を取り出し、根っこを揃えて切り落とす。

 それをベルトコンベアーに乗せると、隣の人のところまで運ばれる。

 2人目は【空圧エアプレス】で運ばれてきたダイコーン草からボウルに魔素を抽出する。

 そのボウルも隣に運ばれ、途中で三人目の【水球ウォーター・ボール】で球状になったまま、次の人へ運ばれる。

 最後に【飛翔フライ】で魔素ボールから毒素を取り除く。


「完璧ですね」

「ええ」


 とエチカさんが胸を張る。

 着痩せするタイプなのか、そういう姿勢をとられると、胸部が強調されて、目のやり場に困る。


「俺が考案したのは一人でも作れるタイプの装置です」


 部屋中央の大テーブルに【虚空庫インベントリ】から1メートル四方の金属板を乗せる。

 パレトについてから暇を見つけては作っていた装置だ。

 この板は必要な魔法が発動するための魔回路が刻まれている、薄いミスリルプレートだ。

 指定箇所に魔力を流すと、適切な魔法が起動しほぼ自動に仕上げてくれる。

 ただ、全自動といかないのは、最後の【飛翔フライ】のプロセスだけは、どうしても人力で操作しなければならないからだ。

 それだけ、このプロセスは丁寧な魔力操作を必要とする。

 逆にいえば、この魔力操作さえできれば、誰でも中級ポーションを作れることになる。


「これはまた、凄いものを作ってくれましたね」

「ええ、スゴいです」


 スティラさんが絶賛し、エチカさんも同意する。


「ファンドーラ商会のもスゴいですよ。人数が使えるなら、そちらの方が生産性は高いですし。逆に人がすくなくても出来るのがウチの強みですね」


 どちらも一長一短であることをアピールしておく。


「これで殴りこみがかけられます」

「殴りこみ?」

「ええ、1ヶ月後にある商業ギルドの品評会です」

「ほう」

「それにこの装置を持ち込もうと思ってます。アルさんのも一緒に出品しても大丈夫ですか?」

「ええ、もちろん。そういう話でしたからね」

「では、契約の話にしますので、場所を移動しましょう。皆様ご苦労様でした」

「待って下さい」


 エチカさんが俺の前に立つ。


「なんでしょう?」

「本当にありがとうございました。アルさんのおかげでミソッカス呼ばわりされている低出力魔法使いが胸を晴れるようになると思います。私たちを代表してお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました」


 握手を求め手を伸ばしてきたので、俺はそれに応じる。

 最近、手がごつい人ばかりと握手してきたので、エチカさんの柔らかさは新鮮だった。

 そして、エチカさんの瞳は潤んでいた。


 彼ら職員たちに別れを告げ、別室へ。

 前回と同じ部屋だ。


「特許料です。ご確認下さい」


 テーブルに積まれたのは、500枚の白金貨だった。


「5億ゴル!?」


 驚きのあまり、声を上げてしまった。


「アルさん、これは革命です」

「革命…………ですか?」

「ええ、今まではポーションは調合士が作り、調合ギルドが牛耳っていました。しかし、これからは違います」

「……………………」

「大手商会による大量生産の時代が来るのです。今まで不遇をかこっていた低出力の魔術師たちが活躍する時代になるのです」

「……………………」

「今はまだ、ポーションだけですが、これからは魔法を精密使用する生産方式が主流になっていくでしょう」

「……………………」

「そして、その先頭を行くのが、アルさんです。これからも当ファンドーラ商会と良い関係でいて頂きたい。その誠意を込めた5億ゴルです。なにとぞ、お納め下さいませ」

「スティラさんの決意、分かりました。ありがたく受け取らせてもらいましょう」


 がっちりと二人握手を交わす。

 スティラさんの手もやはり、柔らかかった。


「それで人材についてですが、魔術学院に問い合わせているところです」

「魔術学院?」

「ええ、在校生、卒業生含め、低魔出力がゆえにまともな職につけていない人たちの中で魔法操作が得意な者を見繕ってもらっている最中なのです」

「なるほど」

「これからの時代、魔術師は出力じゃなくて操作性が重要になってくるでしょう。そこを先んじて我が商会で人材の囲い込みを行うのです。ノヴァエラ商会も必要なのでは?」


 魔法操作に長けている助手。

 たしかに、いれば作業が楽になるのは間違いない。


「そうですね。うちでも欲しいですね」

「来週にその第一陣が到着予定です。めぼしい人がいたら、引き抜いてもらって結構ですよ」

「そこまでしてくれるんですか?」

「ええ、それだけノヴァエラ商会には期待してますので」

「わかりました。来週もお伺いさせていただきます」

「楽しみにお待ちしていますわ」

 まさキチです。


 お読みいただきありがとうございます。

 今回で第6章終了です。

 次章は新メンバーが登場します。

 お楽しみに。


 ブクマ・評価いただきありがとうございました。

 非常に励みにさせていただいております。

 まだでしたら、画面下部よりブクマ・評価して頂けますと、まさキチのやる気がブーストされますので、お手数とは思いますが、是非ともブクマ・評価よろしくお願いいたします。

 感想も頂けましたら、飛んで喜びます。


 それでは、今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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