87 鑑定眼3
「それで肝心の遺物鑑定はどうだったんだ?」
「レベルアップして、名前とレア度だけじゃなくて、効果や使用法も分かったわ」
「そうなのか。やったな」
「まだ、品質や作成法なんかは分からないけどね」
「それでも、十分だよ。ニーシャに貸してる魔銃はどんな鑑定結果になるんだ?」
「こんな感じね」
ニーシャが紙にさらさらと書きつけ、渡してくる。
――――――――――――――――――
名前:魔銃パラベラム(改)
等級:良級
効果・使用法:
引き金を引くことによって、単発の魔弾を発射する。
威力は込められた魔弾に依存する。
最大装填数は12発。
有効射程距離は100メートル。
ただし、魔弾の性能によって増減する。
――――――――――――――――――
「へえ、こりゃ便利だな」
「ええ、そうね」
名前の後に(改)と書いてあるのは、この銃が改造品だからである。
本来は魔弾を装填するのでなく、『カートリッジ』と呼ばれる遺物専用のエネルギー源を用いるのだ。
この一品は改造によって、『カートリッジ』を使用せずに魔力消費だけで使用できるようになっている。
俺のような魔力補填要員がいるパーティーでは重宝するだろう。
改造者が誰なのか、俺は知らない。
カーチャンから貰った時点でこうなっていた。
「ちなみにコイツはどう?」
俺は【虚空庫】から聖剣ルヴィンを取り出す。
ブラッディ・ナイト狩りで活躍した聖剣だ。
「聖剣ルヴィン。神話級ね。それ以上は分からないわ」
「そうか、神話級だと効果や使用法は分からないのか」
「ええ、残念だけど」
「それでも、神話級までレア度が分かるんなら、全部のレア度が分かるってことだな」
「ええ、そうね。私も気づいていたけど、アルもすぐに分かったのね」
神話級の上は神級だけ。
もし、神級の遺物を鑑定できるならそれでよし。
神級の遺物を鑑定できなくても、その場合は、そのアイテムが神話級より上の階級だということが分かる。なので、名前がわからなくても、神級のアイテムだと自動的に分かるのだ。
「じゃあ、次は期待のアレだな」
「ええ、楽しみね」
「鑑定よろしく頼む」
ニーシャは【共有虚空庫】から、ダンジョンの13階層と27階層の隠し部屋で入手した遺物を取り出す。
見た目では区別が付かない。
同じアイテムなのか、違うのか、ニーシャの鑑定が気になる。
「鑑定できたわ。やっぱり両方とも同じものよ」
――――――――――――――――――
名前:シャープネス・オイル(大瓶)
等級:特級
効果・使用法:
容量1,000cc。未使用。
刃物に【切味上昇】を付与し、切れ味を上昇させる。
刃物を鍛造する際に、素材に混ぜて練り込むことによって効果を発揮する。
卑金属・魔金属問わずに使用可能。
使用量は高級な金属ほど多く必要になる。
例えば、ミスリル製の場合ナイフで5cc。長剣で20cc程度。
鋼鉄製ならその10分の1が必要になる。
――――――――――――――――――
「これ凄いじゃないか!」
思わず俺は喝采の声を上げる。
俺は今朝、一本のミスリルナイフを作り上げた。
そのさいに、【切味上昇】を付与した。
そのことで、切れ味は増したのだが、その分魔力強化出来る限界値が下がってしまう。
魔法付与と魔力強化はトレードオフなのだ。
しかし、このシャープネス・オイルを用いるなら話は別だ。
魔力強化の効果を最大限まで発揮させつつ、【切味上昇】の効果を持たせることが出来るんだ。
しかも、ひと瓶でミスリルナイフなら200本。長剣でも50本は使える。
しかも、卑金属である鋼鉄などだと、その10倍は作れることになる。
「まさに今のアルにピッタリのアイテムね」
「ああ、やっぱりあの説は本当なのかもな」
「あの説?」
「ダンジョンの宝箱には開けた人の望むものが入っているっていう説」
本当かどうか分からないが、冒険者の間でまことしやかに流れている噂だ。
「へー、そんな説があるんだ」
「斧使いがいないパーティーが斧をゲットしてもしょうがないだろ?」
「ええそうね」
「そういう事態は起こらないって話だ」
じっさい、俺も宝箱から役に立たないものが出たという経験はない。
「でも、それだったら、宝箱を開けた私が欲しいものが入ってるんじゃない?」
たしかに、シャープネス・オイルはニーシャにはあまり必要としないものだった。
俺にとっては垂涎ものだけど。
「まあ、噂程度の話しだし、たまたまかもよ」
「そうね」
「でも、ニーシャが本当に俺のことを思ってくれてるからかもしれないけどね」
「……そうかもね」
照れくさそうに顔を赤らめたニーシャが続ける。
「たしかに私の夢はこの商会を大きくすること。でも、最近はアルがどこまでやってくれるのか見てみたいっていう気持ちも強くなったわ。だから、アル向けの遺物が出たのかもね」
「そうかもな」
俺は嬉しかった。
ニーシャがそこまで俺に期待してくれてるなんて。
これからも頑張っていこうという気にさせられた。
ともあれ、入手した遺物は十分なアタリだった。
それにニーシャの【鑑定眼】についても判明した。
ずいぶんと話し込んでしまったな。
今日の予定を再確認だ。
「出発は午後3時でいいんだな?」
「ええ、そうしましょう」
今日は午後3時頃に王都に行く予定だ。
本来なら馬車で3日の距離だが、【転移】があるので、俺たちは日帰りだ。
「ニーシャはそれまでなにしている?」
「私はお店を回ってくるわ。せっかく遺物鑑定が出来るようになったんだから、掘り出し物を探してくるわ」
長時間会話していたが、まだ9時前だ。
午前中いっぱいは有効に使いたい。
なにせ、開店まで3週間ちょいしか時間がないのだ。
俺が出来ることを目一杯全力でやっていこう。
そのためには1秒も無駄に出来ない。
それくらいの気持ちでやっていこう。
「そうか、俺もちょっとダンジョンに潜ったりしてくる。15時前には戻るけど。ニーシャもそれでいい?」
「ええ、構わないわ」
「じゃあ、そうしよう。そうだ、昨日の服は?」
ニーシャには安全のため国宝級の『旅人の服』を与えていた。
昨日は酔いつぶれてしまったので、現在も着替えずにいる。今日はダンジョンに潜らないので、普通の服に着替えてもらおうかと思うのだが……。
「あの服なら、後で部屋で着替えて【共有虚空庫】に入れておくわ。でも、使うならちゃんと【清潔】してからにしてね」
「ああ、分かっているよ」
念を押されたけど、元々そのつもりだ。
午前中、俺とニーシャは分かれて行動することになった。
ニーシャは店巡り。
俺はまずはダンジョンに潜る。
念の為、自室で『旅人の服』に着替える。
ニーシャに言われた通り、着る前に【清潔】をかける。
やはり、着心地はバツグンだ。
早速、今朝作ったばかりのミスリルナイフを腰に差し、ダンジョンへ向かった――。




