86 鑑定眼2
「それで人物鑑定はいくつになったんだ? 昨日の午前中には人物鑑定ができるようになったって言ってたけど」
「人物鑑定も同じレベルBよ」
「それで、どこまで鑑定できるんだ?」
「対象の名前、性別、年齢、種族、レベル、スキル、適性よ」
「ほぼ完璧じゃないか。いや、それ以上か……」
ギルドなどにある鑑定水晶でも適性という項目は鑑定できないはずだ。
その点では、鑑定水晶を超える能力だ。スゴい。
「ちなみに、適性ってなにが分かるんだ?」
「それぞれのステータスやスキルの成長速度みたいよ。ちなみに私はこんな感じ」
ニーシャが紙切れを渡してくる。
――――――――――――――――――
名前:ニーシャ
種族:普人種
性別:女
年齢:――
レベル:65
HP :640
MP :25
攻撃力:D(E)
防御力:D(E)
魔力 :E(E)
素早さ:D(E)
賢さ :A(S)
器用さ:B(A)
スキル
【銃士】C(E)
【鑑定】B(S)
【商才】S(S)
【接客】B(S)
【計算】A(S)
固有スキル
【鑑定眼】S
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「これがニーシャのステータスか」
年齢のところが非表示になっているけど、そこは乙女の事情なんだろう。
つっ込まないでおいてあげるのが、紳士だろう。
「ええ、重要そうじゃない低スキルなんかは省いているけどね」
「レベル65か。頑張ったな。60を目標にしてたんだけど、軽く上回ったな」
「ええ、自分でも未だに信じられないわ」
「それにしても、見事に戦闘に向かないステータスだな。せっかく『賢さ』が高いのに、MPが少ないから魔法職としてもやっていけないな」
「ええそうね。まあ、冒険者をやる気もないから、構わないわ。それより、商売系のスキルが以前より急増していて嬉しいわ」
「そうだな。ニーシャの願い通りの育ち方しているな」
「ええ、【商才】と【接客】はまだ実感がわかないけれど、さっき試してみたら、【計算】は上がってるのが確認できたわ。難しい計算も簡単に出来るようになってたわ」
「よかったな。それでこのカッコの中のは?」
「それが適性よ」
「なるほど。本当に商人が天職なんだな」
「ええ、ここまで育ったのはアルのおかげよ。本当にありがとう」
「いえいえ。どういたしまして。ニーシャの成長は俺のためでもあるからな。頑張って俺が作ったものを売ってもらわないとね」
「うふふ」
「せっかくニーシャがステータスを晒してくれたんだ。俺も晒さないと不公平だよな」
俺は右手小指の指輪を外す。
青い魔石がきらめく『偽装の指輪』だ。
この指輪を嵌めて、俺はステータスを偽装していた。
俺が指輪を外したことで、ニーシャに俺の真のステータスが明らかになる。
「えっ、すごっ!?」
驚いたニーシャが紙に俺のステータスを書き出す。
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名前:アルベルト・クラウス
種族:普人種
性別:男
年齢:14
レベル:129
HP :1,583
MP :225,924
攻撃力:S(S)
防御力:S(S)
魔力 :S(S)
素早さ:S(S)
賢さ :S(S)
器用さ:S(S)
加護
セレスの信徒
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「なによコレ、すご過ぎじゃないのっ!?」
驚いて興奮気味のニーシャ。
書かれていた値は想定していた通りだ。
以前測定した時と変わりがない。
もしかして伸びていないかと期待したんだが……やっぱりダメだったようだ。
普通の人の感覚でいえばSランクという値は十分に高い値だろう。
しかし、勇者になるとか、そういう人間から逸脱する存在になるためにはSランクなんか、まだまだスタート地点だ。
俺の知っているスゴい人たちはSSやSSSがステータスに並んでる。
カーチャンなんかオールSSSだ。
でも、コレを見てひとつ安心した。
それは適性がオールSだということだ。
ということはこれから頑張っていけば、SSやSSSも十分狙えるんじゃないか?
そう思えたからだ。
このステータスを見て思う。
俺は勇者になるのを諦めたつもりでいたが、このステータスを見ると、少し心が揺らぐ。
やっぱり、勇者を目指すべきなのでは……。
いやいや、違う違う。
俺は頭を振って、その考えを振り払う。
俺は「物づくりでやっていく」って決心したじゃないか。
俺が勇者になろうとしてたのは、カーチャンを喜ばせるためだ。
だけど、俺はそれが本当に自分が歩みたい道ではないと気づいた。
物づくりこそ生きがいだって知ったのだ。
だから、もう迷わない。
高い戦闘能力は「素材集めに便利だな」くらいに捉えておこう。
俺は気分を切り替えた。
「なんで俺のにはスキルが載ってないんだ? 鑑定できなかったのか?」
「出来たわよっ!」
なぜか、キレ気味のニーシャさん。
「じゃあ、どうして?」
「アンタ、持ってるスキル多すぎなのよっ! 多すぎて書く気にならないわよっ! なんなの、一体。スキルコレクターでも目指してるの?」
「……なんかスマン」
戦闘系のスキルはカーチャンやら剣聖やら、戦闘系の師匠にひと通り覚えさせられたからだ。
生産系は俺が興味を持ったものはひと通り手を出したからだ。
ニーシャの言う通り、膨大な数のスキルが載ってるんだろう。
「なにか、気になるスキルがあるなら、値を教えるわよ」
「いや、結構だ。必要ない」
「それより、なんなのよ、この魔力の値は。20万超えってどういうことなのよっ!」
ニーシャの言う通り、俺の魔力量は桁外れだ。
普通、どんな大魔導師でも魔力量は数万止まりだ。
なぜ、俺はそれを遥かに上回るものを持っているのか。
「あー、それは生まれつきってのと環境のせい、後はトチ狂った修行のせい」
俺はニーシャに説明する。
そもそも、俺は乳幼児のころから、魔力量が1万を超えていた。
なぜなら、それはカーチャンの子として生まれたから。
体内で循環させるほど、魔力量は増えていく。
カーチャンの胎内にいる10ヶ月間、俺の身体はカーチャンの魔力を循環させられていたことになる。
カーチャンも魔力は高い。5万はある。
それだけの、高魔力を胎児の間に浴びせられたのと、生まれてからも高魔力濃度の母乳を飲み、俺の身体は膨大な魔力に晒され続けていたんだ。
次いで、俺が育った環境もその要因だ。
ダンジョンなどの魔素が高い場所にいると、魔力量はそれだけで増加する。
俺が育った場所は魔境中の魔境。
下界とは比べ物にならないほど、魔素の濃い環境で育ったのだ。
1日や2日滞在するくらいなら大した影響はないが、十数年も暮らせば、塵も積もれば山ってやつで、バカにならない。
あの場所で育ったことは俺の魔力量が多いことの一因だ。
そして、最後に。
魔力を限界まで消費し、空っぽにすると回復する際に魔力の最大量が増加する。
それをえげつないくらいやらされたんだ。
寝る前に空っぽにするのは当然で、「今日は10回やろうか?」とか、平気でやらされた。
空っぽになったら、カーチャンの魔力を注入される。それの繰り返しだ。
口で言うのは簡単だ。
しかし、魔力が枯渇した時の倦怠感はとても苦しいし、他人の魔力を注入されるのは背筋がゾワゾワする不快感といったら酷いものだ。
それを連日やらされるんだから、幼少の身としてはたまったもんじゃない。
という感じで、生まれと環境と修行が理由で人外れた魔力量を獲得したのだ――。
「――というわけだから、こんな数値になったわけだよ」
「大変だったのね……」
ニーシャに同情される。
「まあ、当時は嫌で嫌でしょうがなかったけど、おかげで出来ることが増えたから、今では感謝してるよ」
「そう、良かったわ」
人物鑑定から、俺の過去の魔力修行の話になったが、いよいよ次はお待ちかねの遺物鑑定だ。




