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84 飲んだ翌朝

 昨晩はニーシャを彼女の部屋まで背負い、ベッドに寝かせつけ、俺もそのまま【清潔クリーン】の魔法で身体を綺麗にし、アルコールが残ったまま自室で眠りについた。


 今日は早く目が覚めた。

 二日酔いも全くない。

 むしろ、よりスッキリと目覚められたようだ。

 さすがは竜の泪。悪酔いもないようだ。


 まだ朝食まで時間がある。

 俺は鍛冶をすることにした。

 昨日のリンドワースさんとの会話に触発されたのだ。

 武器を打ちたい。

 それも、お客さんが喜んでくれる武器を。


 なにを作るかは昨晩ベッドの中で考えた。

 ファンドーラ武具店のラインナップと現在の自分のスキルを考えて、なにを作るのかを決めたのだ。


 俺が作るのは総ミスリル製の武器だ。

 やはり、俺の強みは、リンドワースさんも指摘したように魔力量と魔力操作だ。

 今あるミスリルナイフのように、十分な魔ならしをする。

 そして、今回はそれに魔法付与も加える。


 武器に魔法付与をするべきかどうかは、場合による。

 一度付与した魔法効果は後から変更できないのだ。

 俺のように、付与魔法が使える人間にとっては、その場に応じて臨機応変に魔法付与できるほうが便利だ。


 だから、俺は今まで作ったミスリルナイフには魔法付与は一切していない。

 同じ理由で、パーティーメンバーに付与魔法の使い手がいるなら、魔法付与されてない武器の方が好ましいだろう。


 一方、味方に付与魔法使いがいないのならば、予め魔法付与された武器の方が良いだろう。

 しかし、魔法付与された武具はその分魔力の通りが少なくなるというデメリットもある。

 せっかく、魔力を流して強化できる魔武具なのに、それが減少するというのは大きなデメリットだ。

 それに魔法付与された武具は割高になる。


 冒険者たちは両者のメリット・デメリットを比較して自分の武器を選ぶ。

 ファンドーラ武具店に置かれているのはすべて、付与魔法ゼロの武具ばかりだった。

 その後に回った2号店で魔法付与された武具は扱われていた。

 そこにはリンドワースさん作のものも置かれていたが、同じクラスの武具でも、リンドワースさんのは5割増しの値段だった。


 その後、他の武具店も回ったけど、新品の規格品を扱う店はほぼ皆無で、ほとんどが中古屋かオリジナル武具を受注生産する店だった。

 新品の規格品では、ファンドーラ武具店に勝ち目がないのだろう。


 でも、俺は、あえて、新品の規格品で勝負する。

 総ミスリルの魔法付与武器を売り出すのだ。


 これなら、向こうより高品質な武具を割安な価格で提供できるからだ。

 なにせミスリル・インゴットは昨日の狩りで92個入手できたのだ。

 ナイフなら92本。直剣なら23本。

 それに【虚空庫インベントリ】には、まだまだ膨大な数のインゴットが眠っている。


 採掘された天然のミスリルと違い、ダンジョンのモンスタードロップは不純物のない100パーセント純ミスリルだ。精錬する手間もない。


 俺はリビングに書き置きを残す。

 『下で鍛冶してるので、起きたら声をかけて』


 俺は階段を降り、仕事場へ向かう。

 1階の俺の仕事場コーナーにつくと、まずはニーシャを起こさないように遮音結界を張る。

 これで槌でカンカンやっても、音漏れしない。


 そして、炉に火を起こす。


「あっ」


 今日俺が来ているのは只の布の服だ。

 『旅人の服(国宝級)』であれば、耐熱機能が付与されているからいいのだが、この服だと汗だくになってしまう。

 俺は【虚空庫インベントリ】から『耐火リング』を取り出し、指に嵌める。

 赤い魔石が嵌められた指輪だ。

 これで暑さ対策は大丈夫だ。


 久しぶりの鍛冶だ。

 まずは慣れているミスリル・ナイフだな。

 俺は【虚空庫インベントリ】からミスリル・インゴットを取り出し、炉にくべる。


 インゴットがあたたまる間に【身体強化エンハンス・ボディ】で身体強化し、【虚空庫インベントリ】から鉄槌とやっとこを取り出し、準備を整える。


 それから、頃合いを見計らって赤熱したインゴットを取り出し、鉄床に乗せる。


 まずは魔ならしだ。

 魔力を込めて金属を叩き、魔力を金属全体になじませる作業だ。

 魔武具づくりでもっとも重要な工程だ。


 インゴットが冷めないうちに、鉄槌ごしに魔力を込め、魔力がインゴットに広がるイメージを意識しながら、鉄槌を振り下ろす。


 満遍なく、均等に。

 強すぎず、弱すぎず。

 速すぎず、遅すぎず。


 俺は無心になって、槌を振るう。

 俺の魔力がインゴットに馴染むように。

 魔力を通じて自分とインゴットが一体化するように。


 満遍なくインゴットを叩き続け倍の大きさになるまで続ける。

 適当な大きさになったら、それをまた炉にくべ、半分に折り返す。


 これで1回だ。

 これを何回も繰り返す。

 繰り返す度にインゴットにムラなく魔力が浸透していく。


 俺が初めてやった時は、師匠に1万回やらされた。

 だけど、慣れた今なら、数回で済む。


 前回やった時は数カ月前だ。その時は7回で終えることが出来た。


 あれから、ポーションを死ぬほど作ったし、経験値稼ぎもやった。

 多少、成長しているだろうか?


 ――成長の成果はあったようだ。

 5回繰り返す頃には、十分均等に魔力が浸透していた。


 やっぱり、成長してるんだな。

 こうやって、成長が目に見える形で現れるのは嬉しい。


 魔ならしが済んだので、次は槌を叩いてナイフの形状に打ち出していく。

 手元にリンドワースさん作のナイフを置き、それを参考に打ち出していく。


 カンカンカンとリズミカルに槌を振るう。

 出来上がりの形をイメージして、躊躇うことなく槌を振り下ろす。

 しばらく叩き続け、いい形に仕上がった。


 うん。やっぱり成長しているな。

 俺が今まで作ったどれよりも良い品が出来上がった。


 付与なしの場合は、これでほぼ完成だ。


 しかし今回は魔法付与を行う。

 付与するのは【切味上昇キーン・エッジ】だけだ。


 そのうち炎属性など、特化した付与も試していきたいが、まずは基本的なこれでいいだろう。

 冒険者たちの声を聞きながら、どんな需要があるのか知ってからにしよう。


 魔法付与するには、先端の尖ったミスリル棒で魔回路を刻みこんでいくのだ。

 魔回路は魔法陣と似ている魔力の通り道だ。

 違いは形状。

 魔法陣は円形や多角形の中に幾何学的な模様や魔文字を書き込んでいくのに対し、魔回路は一筆書きで書かれる模様だ。


 魔法陣は起動に時間がかかるが、大掛かりな魔法が使える上に、一度起動させたら解除させるか、貯蔵されている魔力がなくなるまで効果が発揮される。

 たとえば、防御壁などを発動させるには、魔回路よりも魔法陣の方が適している。


 一方の魔回路は、起動が速い。魔力を流しこめばすぐに起動する。その反面、あまり大規模な魔法は使えない。それに、魔力供給を止めた瞬間に効果がなくなる。


 武器に魔法を付与させる場合は、よっぽど大規模な魔法を付与させる場合以外は、魔回路を使用するのが一般的だ。


 俺は先の尖ったミスリル棒で【切味上昇キーン・エッジ】の魔回路を刻みこんでいく。


 ナイフが冷めないうちにやらないといけないが、【切味上昇キーン・エッジ】は簡単な回路なので、すぐに書き終わる。


 それが終わったら、まだ赤熱しているナイフをやっとこで掴み、水槽に入れる。

 ジュッという音とともに、ナイフが急冷却される。


 いわゆる「焼入れ」という工程だ。

 これを行うことで強靭さが増すのだ。


 水槽から冷まされたナイフを取り出す。


 最後にヤスリがけと砥石で研ぐ工程が残っているが、【切味上昇キーン・エッジ】が本当に付与できているのか確認してみる。

 ナイフに軽く魔力を込めると、魔力が回路を走り、刀身が黄色く光りを帯びる。

 【切味上昇キーン・エッジ】特有の黄色い光だ。


「よし、成功だ!」


 付与武器を作るのは久しぶりだったので、不安があったが、無事成功したようだ。


 後はヤスリをかけて、形を整え、砥石で研いで鋭さを増したら、それで完成だ。


 俺が椅子に座ってヤスリをかけていると、ニーシャが階段を降りてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 父ちゃんどこ?
[一言] もしも私がこの世界に居たのなら、アルが打った刀が欲しいです。(特に複数のエンチャント物)
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