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8 王都

 長い行列に並び、大きな城門をくぐった頃には、すっかり昼すぎになっていた。

 王都の住人や冒険者であれば出入りは身分証を提示するだけの簡単なものらしいのだが、俺のようなヨソからやってきた者には簡単な審査があるのだ。

 それ専用の魔道具もあるので、「どこから来た?」、「なにしに来た?」など二言、三言を交わして、不審でなければ、規定の入都料を支払って入都の許可が下りる。

 だから、一人あたりの時間はそれほどでもないのだが、行列をなすほどの大人数なので、それなりの時間がかかってしまった。


 俺が着ている服は体温調節機能付きだからなんの問題もなかったけど、炎天下の中を並ばされた他の人たちは滝のような汗を流していた。

 耐え切れず「早くしろ」と騒ぎ立てた髭面の傭兵崩れみたいな男がいたけど、ソッコー飛んできた二人の衛兵に連行されていったな。


「普通に入るのがこんなに大変だとは思ってなかったぞ……」


 王都には以前、幾度かカーチャンと一緒に来たことが何度かあった。でも、そのときは王宮や冒険者ギルドなど、目的地に直接転移してきたから、こんな面倒な手続きが待っているとは知らなかった。

 早めに身分証を作んないとな。でも、勇者の息子だってバレずに作れるんだろうか?


 てっきり気軽に出入りできるもんだと思っていたから、街中でなにかあったら、王都の外に出て野宿すればいいやと、お気楽に考えていた。

 こんなに面倒なら、考えなおさないとな。

 よく考えたら、俺は再入都するお金も持ってない。


 そう。俺は現在一文無しだ。


 出立の際に持ってきたお金は、王都に入る際に必要な入都料だけだ。

 入都料が必要なことはセレスさんが教えてくれた。

 カーチャンは入都料の存在すら知らなかったからな……。

 勇者になる前は普通の町娘やってたんだから、それくらい知っておけよ、って思ったけど、街の住人だと身分証ですんじゃうから、逆に覚えてないもんなのかもしれないな。


 セレスさんには入都料の他にも、王都への入り方や街で過ごす際に必要な常識をいろいろと教えてもらった。

 おかげでさっきの髭面みたいなハメにならずに済んだので、早速感謝している。


 それ以外にも、貨幣の種類や単位についても教わった。

 これまでお金を使う機会がほとんどない生活を送ってきたから、貨幣にはいまいち馴染みがない。

 カーチャンは「お小遣いよ」って白金貨を渡すくらいだし、金貨より下の貨幣があるってことも、今回セレスさんから教わるまで知らなかったくらいだ。

 銀貨とか銅貨とか、いろいろあるんだな。


 これからは、ひとりで生きていく以上お金のやり取りも自分でやらなければならないんだよな。ちゃんと覚えて、慣れていかないとな。

 とりあえず、お金の単位が『ゴル』だってことと、金貨1枚で1万ゴルだってことは覚えた。

 でも、物の値段とかまったく知らないから、そこら辺もこれから勉強だな。


 うーん。モノを作るのは楽しいけど、売ったり買ったりとか面倒くさそうだな。

 いっそのこと、必要なものは全部自前で取ってくる方が楽かもな。

 まあ、試しに売り買いやってみて、大変そうだったらそうしよう。

 お金で買えるってことは、誰でも入手できるってことだから、大したものはなさそうだしな。

 カーチャンに頼まないと手に入らないような素材が、売りに出てるとも思えないし……。


 なんか先のことを考えていると、いろいろと億劫になってきて、さっさとどっかにこもって、ポーション作りに没頭したくなってきた。


 だけど、そのために必要な場所を確保するのにも、お金が必要なんだよな。

 まあ、ぶっちゃけ初級ポーションなんて道端でもどこでも作れる。

 だけど、そんなことをしたら目立つのは避けられない。

 ここはカーチャンの知り合いがいっぱいいる王都だ。

 目立つことは避けたいので、まずは拠点確保だ。


 とりあえず、ダイコーン草を適当に売りさばいて、当面必要な金額を確保することにしよう。

 ホントは素材を売ってお金を得るって行為はしたくないけど、俺の買い物経験も兼ねるし、まあ、最初くらいはいいだろう。


 そんな感じで、資金作りのため街を歩いてみることにした――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 何度か来たことがあるとはいえ、カーチャンのお供でついて来ただけだったから、この広い王都にアテはあまりない。

 その数少ないアテの中から、場所を覚えている商会を目指すことにした。

 薬草を売れるトコロで思いついたのは、商会か冒険者ギルドくらいだったからだ。

 ギルドは身バレが怖いから即却下。

 目指すのは商会だ。


 とはいえ、その商会を直接訪ねるつもりはない。

 その商会はカーチャンのお気に入りだったので、王都に来る度に顔を出していた。おかげで、俺の顔はバッチリと割れている。そんな場所にはおいそれと顔を出すわけにはいかない。

 記憶によれば、その商会のある地域一帯には、いくつかの商会が立ち並んでいたはず。俺の目当てはそれだ。


 俺の記憶はちゃんと機能していたようだ。とくに道に迷うくこともなくすんなりと目的の場所にたどり着くことができた。


 早速、いくつかの商会を訪ねてみたが、どこもかしこも門前払いだった。

 カーチャンと一緒に商会に行ったときは、従業員総出でのお出迎えのVIP待遇だったから、予想外の扱いに戸惑った。

 でも、ちょっと邪険に追い払われたくらいで騒ぎ立てるのもなんなので、言われるがままに引き下がっておいた。


 4、5軒でそんな扱いを受け、俺は軽く凹んでいた。

 さて、どうしたものか。あまり気が進まないけど、カーチャン御用達の商会に顔を出すしかないのか……、と考えてながら歩いていたところで、ある商会が目にとまった――。


 ぱっと見は他所と変わりがないように思えるが、なんとなく好ましい雰囲気が感じられる外観をした建物だった。

 近隣の商会と同じような造りをしており、通りに面した正面にメインエントランスがあり、その側面には多頭立ての馬車も出入りできるような広い荷物搬入口があった。

 搬入口にはちょうど1台の馬車が停まっていて、数人の男たちが荷物の積み下ろしをしている。

 どこの商会でも見られる光景であったが、俺の目についたのはそのかたわらでホウキを手に掃き掃除をしている少女だった。


 力仕事に従事している男たちが纏っている頑丈そうな生地の服ではなく、細い糸で織り込まれた柔らかそうな生地の服を着ている。


 異世界勇者が持ち込んだセーラー服というヤツだ。俺も何着か作ったことがある。カーチャンが喜んで着ていた。

 彼女の華奢な身体つきを覆う黒い長袖の上着に、同じ色の短めのスカート。胸元の大きめなリボンは対比的な純白をしている。

 なかなか良い素材が使われているし、仕立てもしっかりとしたものだ。作り手の丁寧な仕事ぶりが伝わってくる。

 俺自身は服飾の分野は、他の分野に比べてそれほど修練を積んでいない。そんな俺よりも明らかに格上な職人の手によるものだ。


 そして、もうひとつ俺の興味を惹いた点がある。

 それは、ほっそりとした彼女の両脚を覆う、膝上まである黒いソックスだ。

 この長いソックスと短いスカートに挟まれた狭い領域だけが、彼女の下半身をあらわにしている。

 その白さは満ちた月のように透き通っており、胸元のリボンと相まって、黒い背景に絶妙なコントラスを与えている。


 ――俺は強い衝撃を受けた。

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