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79 パレトのダンジョン2日目8

「食い過ぎていないか?」


 会話をしながらも、すごい勢いでミノステーキを平らげていくニーシャ。

 心配になった俺は思わず声をかけた。


「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと腹八分目で抑えておいたわ」

「10枚も食べてよく言うよ」

「だって、お腹空いてたんだもん」


 そういえば、レベルアップするとお腹が空くんだったな。

 レベルアップは身体性能を一段階上げるものだ。

 その分エネルギーも消費するんだろう。

 俺も午前中に久々のレベルアップをしたおかげで、いつもより多めに食べてしまった。

 ましてや、大量のレベルアップをしたニーシャの空腹感は尋常じゃないのだろう。


「ねえ、私って本当に強くなったの?」

「ああ、そのはずだ。今なら30階層クラスの敵とも渡り合えるぞ」

「身体は軽く感じるんだけど、いまいち実感がないのよね」

「じゃあ、ちょっと試してみよう」


 俺は【虚空庫インベントリ】から1メートルほどの大岩とオリハルコン製の棍棒を取り出す。


「この棍棒で思いっきり叩いてみて」

「うん。分かったわ。やってみる」


 少し疑っている様子もあるが、ニーシャは俺から棍棒を受け取った。


 岩の前に立ち、「えいやっ」の掛け声とともに、両手で持ち、振りかぶった棍棒を大岩に叩きつける――。


 ――その結果、大岩は真っ二つに割れる。


「うそッ!?!?」


 叩き割った本人が一番驚いている。


「だから言ったろ」

「……………………」


 ニーシャはぽかんと口を開けて、立ち尽くしている。


「レベルの値はだいたいダンジョンの適性階層に対応してるんだよ。だから、今のニーシャは35階層のモンスターと互角に戦える能力値を持っているんだよ。だから、動かない大岩くらいは簡単に叩き割る攻撃力を持ってる」

「…………自分でもビックリだわ」

「でも、油断しちゃダメだ。レベルはあくまで能力値を表すだけだ。その能力を活かすためには、それなりの実践を積まなきゃならない。身体の動かし方や戦い方――それを知らないと実力を発揮しきれない」

「そうね」

「今のニーシャだったら、20階層のモンスターにも勝てないと思うよ」

「うん。分かってるわ。それに私は冒険者じゃなくて、商人だからね。あえて戦闘をこなそうとは思わないよ」

「うん、それくらいの気持ちが安全でいいよ」


 それからしばらくして、食事が終わる。

 食後のお茶も済ませ、午後の狩りの再会だ。

 自分がすごい勢いで成長していることで、ニーシャはすっかりとやる気満々になっている。

 午後の戦果が楽しみだ――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 夕方。

 時計の針はちょうど午後6時を指したところ。


「よし、これでラストだ」

「うんっ!」


 いつまでも狩っていたい気分だけど、この後ファンドーラ武具店の鍛冶師であるリンドワースさんとお酒を飲む約束がある。

 ここら辺が斬り上げどころだ。

 当初の目的は達成しているしね。


 ボス部屋の扉が開き、俺は中央へ歩いて行く。

 ニーシャは入り口付近で待機。

 俺はボスがポップするのを待っている。

 30秒後。

 ボスであるブラッディ・ナイトが出現した瞬間――聖剣ルヴィンで一刀両断。

 直後、死にかけのブラッディ・ナイトにニーシャが放った魔弾が直撃。

 ブラッディ・ナイトは死に絶えた。


「ふ〜、狩った狩った」

「私も疲れた〜。もうダメ〜」


 ブラッディ・ナイト狩りを切り上げた途端、緊張の糸が切れたようで、ニーシャは脱力して地べたに座り込んでしまった。


 俺は魔石とミスリル・インゴットを拾うとニーシャの元へ歩いて行く。


「大丈夫か?」

「さすがに疲れたわ」


 午後の戦果は678体。

 ニーシャも狩りに十分に慣れたおかげで、これだけの成果を上げることが出来た。

 午前中の分もあわせると千体超えだ。


 俺はニーシャに水袋を手渡す。

 ニーシャはそれを受け取ると、ゴクゴクと飲み干していく。

 ついでに【中回復ミッド・ヒール】もかける。

 朝の時点なら、【回復ヒール】で十分だろうけど、急激にステータスが上昇したニーシャには、【中回復ミッド・ヒール】の方が良いだろう。


「まあ、一日でボスモンスターを千体以上倒したからな」

「そんなに!?」

「ああ、正確には1,030体だ」

「よく数えてたわね」


 ニーシャが呆れ顔を返す。


「私なんて言われたことをこなすだけで精一杯だったわ」

「まあ、慣れてるからな」


 カーチャンの命令で3日間まるまるボス刈り周回したこともあるからね。


 ともあれ、千体を超えるブラッディ・ナイトを討伐した成果。

 魔石が1,030個。そのうち12個がレア魔石だった。

 そして、インゴット。ミスリル・インゴットが923個にオリハルコン・インゴットが107個。


 レア魔石のドロップ率が1パーセント、オリハルコン・インゴットのドロップ率が10パーセントってところだろう。


「それで、ニーシャの成果はどうだったんだ?」

「バッチシよっ!」

「ほう。それはスゴいな」

「詳しくは帰ってから話すわ」

「そうだな。立てるか?」

「ええ」


 俺は座り込むニーシャに手を伸ばす。

 俺の手を掴み、立ち上がった――のだが、足元がフラついている。

 精神的な疲労と急激なレベルアップに身体が馴染んでいないのが原因だろう。


「大丈夫か? なんならおんぶするぞ」

「…………じゃあ、転移ゲートまでお願い」


 ニーシャは顔を赤らめて頼んできた。


「よしっ、しっかり捕まれよ」


 俺はニーシャを背負う。

 やはり、ニーシャの身体は軽い。

 後は帰るだけだ。


 ニーシャを背負った俺はボス部屋の出口へ向かう。

 出口を抜け、廊下をしばらく歩くとそこがセーフティー・エリアだった。


「勝手に取るぞ」

「ええ、お願い」


 俺は【虚空庫インベントリ】から自分の冒険者カードを、【共有虚空庫シェアド・インベントリ】からニーシャの冒険者カードを取り出した。


 そして、その2枚を壁のプレートに接触させ、転移ゲートの登録を済ませた。


「よしっ、じゃあ、帰るぞ」

「ええ」


 俺は1階のゲートに転移するようにプレートを操作する。


「あっ、ちょっと待って」

「ん? どうした?」

「下ろしてもらえるかな?」

「いいけど、どうして?」

「さすがに、人に見られてるところでは恥ずかしいから……」

「ああ、そうだね」


 俺はニーシャを背中から下ろした。

 やはり、子ども扱いは恥ずかしいらしい。

 プレート操作を終わらせ、二人で魔法陣の上に立つ。

 魔法陣が放つ光りに包まれて――気がついた時には1階入り口まで戻っていた。


「よし、帰ろう」

「うん」

「辛かったら、俺の肩に捕まっていいからな」

「ありがと」


 帰還者でごった返す入り口を通り抜け、俺たちは家路についた。


 こうして俺たちのダンジョン探索のひとつ目の目的――ニーシャのレベリングは予定通りに成功に終わった。

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