78 パレトのダンジョン2日目7
所要時間約1分。
部屋に入ってブラッディ・ナイトが湧くまで30秒。
出現してから俺が一刀両断し、ニーシャが撃ち射止めるのに15秒。
ドロップ品を拾って部屋から出るまで5秒。
扉が締まり、再度開くまで10秒。
以上で1周。
魔銃は一度に12発の魔弾しか装填できないので、12周に一度魔弾をチャージしなければならない。その時間が1分ほど。
周回を8時半から初めて、約1時間半。
淡々とブラッディ・ナイトを狩り続け、この間に100体くらいのブラッディ・ナイトを倒してきた。
俺は平気だけど、ニーシャは慣れない狩りのせいで疲労が溜まっているだろうと思い、小休止を挟むことにした。
ニーシャに【回復】をかけ、水分補給をする。
ミノ肉の串焼きもかじって、栄養補給もしておく。
この1時間半、ラストアタックによる膨大な経験値を獲得したニーシャは物凄いスピードでレベルアップし続けた。
そのおかげで、彼女の【魔眼】も成長を遂げた。
今まで出来なかった【人物鑑定】が出来るようになったのだ。
【人物鑑定】はランクCになり、対象人物の名前、年齢、種族、レベル、スキルレベルを鑑定出来るようになった。
その結果――。
「ねえ、アル」
「なに?」
「どうして、あなたのレベルが私より低いのよっ! それにロクなスキルを持っていないじゃないの。どういうことなの?」
ニーシャは自分と俺を鑑定したみたいだ。
その結果、ニーシャはレベル35、俺はレベル32と表示されたそうだ。
「ああ、それは【偽装】をかけてるからだな」
俺は右手の小指を指し示す。
青い魔石が乗った指輪だ。
この指輪が『偽装の指輪』。
装着していると、常時【偽装】が発動する。
【偽装】を使用していると、鑑定しても偽のデータしか表示されない。
俺の正体がバレないように、一般冒険者として妥当なレベルとスキル構成が表示されるように偽装しているのだ。
俺の場合は、本名を知られるのも嫌なので、名前も「アル」にしている。
「そうだったのね。ビックリしたわ。でも、私がレベル30代だなんて……。今朝はまだひと桁だったのに……」
「安心しろ。35なんてまだまだ通過点だ。今日中にレベル60は超える予定だ」
「レベル60ってAランク冒険者並みじゃないの…………」
「ああ、それだけあれば素のステータスだけで大概の危険は回避できるし、きっと【遺物鑑定】には、それくらい必要だろうからな」
「…………相変わらず、考え方がおかしいわよ」
「そうか?」
「それに、アルがそう言うなら本当に出来ちゃいそうだって思ってる自分にビックリよ。アルのせいで私まで非常識になりそうだわ。どうしてくれるの? 責任取ってよね」
「ああ、ニーシャが大商人になるまで、ちゃんと責任持って付き合うつもりだぞ」
「…………約束だからね」
「ああ、約束だ」
俺とニーシャは握りこぶしを軽くぶつけ合う。
俺たちの約束の証だ。
「じゃあ、そろそろ狩りに戻ろうか」
「ええ。レベルアップのおかげで、身体がかなり軽くなったわ。次はさっきより長い時間でも平気だわ」
「じゃあ、次は正午に休憩の予定で。でも、辛くなったら言ってくれ」
「ええ」
こうして、俺たちはブラッディ・ナイト狩りを再開した――。
◇◆◇◆◇◆◇
正午。
午前中の討伐数は352体。
ニーシャが大量のレベルアップをしたおかげで、疲れにくくなり、ルーチンをこなす速さも上昇し、休憩時間を減らすことが出来た。
そして、なにより大きいのがニーシャの【銃士】スキルを取得したので、入口付近からでもブラッディ・ナイトの急所に魔弾を命中させられるようになったことだ。
これにより、ニーシャが移動するのに必要な時間がほとんどゼロになったのだ。
当初は午前中で300体を目安にしていたのだが、そのおかげで予定よりも多い討伐数を達成できた。
ニーシャは昨日からこれまで、なにひとつ泣き言をこぼしていない。
通常では考えられない速度で未踏破層まで連れてこられ、その上ボスモンスターとの連戦。
いくらトリガーを引くだけの仕事とはいえ、普通だったら、弱音を吐いてもおかしくないはず。
なにせ、ニーシャはほとんどダンジョンに潜ったことがなかったのだ。
ニーシャの精神的なタフさに俺は感心した。
――という感じで、午前中は予想以上の成果を上げることが出来た。
俺たちは今テーブルを挟んで昼食だ。
メニューは昨日の残り物ミノタウロス肉のステーキだ。
間食のミノサンドに引き続いてのミノ肉だ。
昨晩からミノ肉のばかり食べているけど、ニーシャのリクエストだからしょうがない。
今回の功労者はニーシャだ。
できうる限りは彼女のリクエストに応えてあげたい。
ミノ肉は続けて食べても飽きが来ないから、俺としても不満があるわけじゃないしね。
午前中の成果としては、ニーシャが【遺物鑑定】を取得したことだ。
まだランクFなので、対象の名前とレア度が分かるだけだ。
それでも、大きな収穫だった。
【魔眼】の能力は人それぞれだ。
対物鑑定、人物鑑定、遺物鑑定。
この3つのうち、すべてを鑑定出来るものもいれば、1つしか出来ない者もいる。
ニーシャは見事3つとも鑑定出来る素質を持っていたのだ。
素質さえあるならば、後は経験値を貯めて伸ばしていけば良いだけだ。
ますます、ブラッディ・ナイト刈りのモチベーションが高まってきた。
「おかげでこの魔銃の名前が分かったわ」
「ほう」
「名前は『魔銃パラベラム(改)』、等級は良級よ」
ちなみに名前に(改)が付いてるのは、この魔銃が改造品だからだ。
本来なら、『カートリッジ』という遺物をエネルギー源として弾を発射する遺物だったのだが、【魔弾】でチャージできるように改良したのだ。
遺物やアイテムは等級によって分類される。
下から、劣等級、普通級、良級、特級、国宝級、伝説級、神話級、神級だ。
参考に、ニーシャが今着ている『旅人の服』が国宝級。
俺の作ったミスリル・ナイフが特級だ。
「パラベラムか…………」
実は、この魔銃には小さい頃に世話になったのだ。
まだ【魔弾】を覚える前に、遠距離攻撃手段として活躍してくれた。
そして、俺が改造した遺物。
思い入れのある武器のひとつだ。
その名前が数年がかりでようやく判明した。
なにか少し感慨深いものがある。
「これだけ便利なものでも上級なのね。さすが遺物は普通じゃないわね」
「まあ、【魔弾】を使える人には無用だし、装填数にも限りがあるからね。改造してあるし、今回みたいな場合は大活躍だけどね」
「そうね。これのおかげで狩りが成立しているんだものね」
パラベラムがなかったら、もっと時間と手間のかかる手法を考えなければならなかった。
パラベラムなしでは、この成果は上げられなかっただろう。
「ちなみに隠し部屋で手に入れた遺物は?」
「残念だけど、私のレベルじゃあ、鑑定できなかったわ」
「ほう。それは期待できるね」
「ええ」
遺物やアイテムの鑑定は、等級が高いものほど、高度な鑑定能力を必要とする。
そういう意味では嬉しい知らせだった。
これでニーシャのモチベーションも上がったことだろう。




