71 パレトのダンジョン16
32階層。
前層と同様、このフロアも溶岩地帯だった。
このフロアには他に2組の冒険者たちのパーティーがいたが、彼らは最短ルートから外れた奥まったところで活動しており、遭遇せずに済んだ。
出現モンスターも31層と同じで、出現数が増えただけ。
どうってことないフロアだったので、なんの問題もなく30分でクリア。
33階層と34層は前層と打って変わって、氷点下の氷雪地帯。
だが、防寒装備を身に着けている俺たちにはなんの問題もなかった。
せいぜい、吹雪のせいで視界が悪くなるくらいだが、暗闇での戦闘にも慣れている俺にとっては、これくらいの視界の悪さなんか、どうと言うことなかった。
火属性魔法の【火槍】の連打でモンスターたちはイチコロだった。
この2フロアでも冒険者たちはいたが、遭遇することはなかった。
途中、丁度いいセーフティー・エリアの洞穴があったので、そこで食事休憩をとった。
ニーシャはミノタウロスの肉を食べたがったけど、夕食まで我慢してもらった。
美味しく焼くには時間がかかるし、食べ過ぎて移動に支障が出てもこまるからだ。
その代わり【虚空庫】に仕舞ってある熱々のシルバー・ウルフの串焼きで勘弁してもらった。
【虚空庫】内で状態変化しないので、キンキンに冷えた水や熱々の料理をダンジョンに持ち込めて、非常に便利だ。
結局、この2つのフロアは休憩含め1時間ほどでクリア。
次の35層は湿度の高いジャングル地帯だった。
生い茂る樹林の間をかき分け、進んで行かなければならないフロアだ。
出現するモンスターたちは毒・麻痺・幻覚などの状態異常攻撃を仕掛けてる植物型、昆虫型モンスターだ。
事前に状態異常を無効化するポーションを飲んでおいたので、何ら脅威にはなり得なかった。
数は多いが、一匹一匹はそれほど強くないので、【魔弾】の乱れ打ちで強行突破した。
このフロアは入り組んでいて、踏破するのに1時間ほどかかった。
現在、17時。
俺たちは今日の目的地である35層の転移ゲートまで辿り着いた。
途中十分に休憩をとったとはいえ、初心者のニーシャはよく付いて来てくれた。
最悪な場合、俺がおんぶしてダッシュすることも選択肢に入れていたくらいなので、嬉しい誤算だった。
「よしっ、今日の目的地に到着だ」
「今日はここまでなの?」
「ああ、ここまでだ。予定より早かったくらいだ。ニーシャ、よく頑張ったな」
「ええ、アルのおかげよ」
強気に答えるニーシャだけど、その顔には疲労が浮かんでいる。
「結局、今日は走りっぱなしだっただけね」
「ああ、明日が本番だ」
ニーシャと二人で潜れるのは今日と明日の2日間。
明後日以降はニーシャには、開店準備にとりかかってもらう予定だ。
本格的に市場の情報収集をし、ウチの店で取り扱う商品を買い揃えるのだ。
開店まで残り3週間とちょっと、ニーシャが言うにはそれでもギリギリの時間しか残っていないらしい。
だから、是が非でも明日中にニーシャのレベリングを終わらせたいところだ。
「ねえ、私のレベリングはどこでやるつもりなの? 『あとちょっと』ばかりで、ちっともおしえてくれないじゃない」
「いや、ホントあとちょっとだよ。明日の昼前には目的地に辿り着ける予定だ」
「ねえ、もしかして、その目的地って……」
「内緒だよ。明日までの楽しみだ」
「もう、イジワル」
内心ニーシャはどこでレベリングするのか感づいているだろう。
だけど、俺はあえて教えない。
「まあ、ともかく、転移ゲートの登録を済ませて帰ろう」
「ええ、そうね。さすがに疲れたわ」
そう言うニーシャに【回復】をかけてやり、転移ゲートの登録を済ます。
転移ゲートの使用法は簡単だ。
転移したいメンバー全員の冒険者カードを壁のプレートに触れさせ、最後の一人が行き先を決定する。
もちろん、全員が登録しているフロアにしか転移できない。
ニーシャ、俺の順に冒険者カードをプレートに触れさせる。
プレートに行き先の階数が表示される。
俺は1階層と書かれた部分を人差し指で触れる。
するとプレートが発光し、地面に魔法陣が浮かび上がる。
「よし、転移するぞ」
「ええ」
俺とニーシャが魔法陣に乗ると、魔法陣はすぐに起動し、眩い光を放った――。
――俺とニーシャは1階の入口付近のゲートまで転移した。
「なんか転移ってちょっと酔うわね」
「まあ、そのうち慣れるよ。もう1回あるからしっかりな」
「うん」
俺たちはダンジョン入り口へ向かう。
ここを通り抜けて、ようやくダンジョンから帰還したと言える。
ダンジョン入り口を通り抜ける際の転移したような酔いを感じる。
俺は慣れているからどうということないが、ニーシャにはキツいようだ。
まあ、後は明日だけ。
後数回くらいは我慢してもらおう。
外に出ると、もう日は暮れかけていた。
「お疲れ様」
「お疲れ様」
最後の転移酔いがきつそうなので、もう一度【回復】をかけてやる。
「ありがとう」
多少顔色が良くなったようだ。
でも、疲れているのは確かだろう。
「早く、うちに帰ってメシにしよう。今日はミノステーキだ」
「うんっ!!」
ミノステーキと聞いて、俄然元気が出てきたようだ。
ニーシャと並んで、衛兵の横を通り抜ける。
行きの時は冒険者カードによる確認があったが、帰りはスルーだ。
俺たちはダンジョン入り口を離れ、大通りを我が家へと向かう。
朝の時間帯ほどではないけど、これからダンジョンに潜るであろう冒険者たちをちらほらと見かける。
夜の方が空いているとか、夜にしか出現しないモンスターが目当てだとか、そういう理由でダンジョンは24時間絶えず冒険者たちが探索している。
中には、セーフティー・エリアにテントを貼って、数日間潜り続けるパーティーもあるくらいだ。
彼らを横目に俺たちは歩いて行く。
「ただいま〜」
「ただいま〜」
自宅はダンジョンの目と鼻の先なので、すぐに家に帰り着いた。
「疲れたでしょ。先にお風呂入ってきなよ。その間にミノタウロスの肉を焼いておくから」
「ええ、ホント、ありがとう。でも、いいの? アルも疲れてるでしょ?」
「いや、俺は全然疲れてないよ。今日は疲れることはなにもしてないし」
「…………そうね」
呆れられた。
「まあ、15分くらいで上がってよ。それくらいのときに丁度いい焼き加減になるようにしておくから」
「わかったわ、よろしく頼むわよ」
「ああ、いってらっしゃい」
風呂場に向かうニーシャと別れ、俺はキッチンに向かう――。
――ミノタウロスの肉は極上の美味さだった。
ステーキにして食べたのだが、30キロほどあったのが、速いペースで食べていくニーシャにつられて、俺も結構いっぱい食べてしまった。
結局、二人が満足する頃には半分ほどが消えていた。
ミノ肉恐るべし。
この肉の為に周回するパーティーの気持ちもよく分かる。
残った肉はジェボンさん――王都に店を構える料理に関する兄弟子――に卸そうかと思っていたけど、また、ニーシャに振る舞うことにするか。
やはり、疲れが溜まっていたようで、ニーシャは食べ終わるとすぐに「もう寝る」と言って、自室へ篭ってしまった。
先に風呂を勧めておいて正解だったな。
俺も片付けたら、風呂に入ろう。
さあて、明日が本番だ。
ニーシャの驚く顔が楽しみだ。
まさキチです。
お読み頂きありがとうございました。
今回で第4章は終わりです。
ブクマ・評価いただきありがとうございました。
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