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66 パレトのダンジョン11

「いつ頃からあるんだ、この習慣?」

「そうだな。20年前からだ。勇者のリリア・クラウス様が言い出したんだ」

「カーチャ……リリア様が始めたんだ」

「ああ、当時のこのダンジョンはひどい有様でな。最大手クランが効率の良いモンスターハウスやボス部屋を独占していたんだ。だから、新人が自分たちだけで攻略するのはほぼ不可能だった。クランはそういった新人を取り込み、ますます力を強めていったんだ」

「……………………」

「しかも、クランに加入した新入りの仕事は荷物持ちやボス部屋の順番待ちに並ぶこと。成長する機会なんてほとんど与えられなかった。そうして新人を搾取することによってクランの上部層が美味しい思いするシステムが出来上がっていたんだ」

「酷いな……」

「ああ、酷かった。それを見かねたのがリリア様だったんだ」


 ――お前ら、格下と戦ってばかりで、冒険してねーじゃねえか。

 冒険者だって自称するなら、冒険しろよ。

 こんなところでグルグルと雑魚退治の周回なんかしてねえで、先に進んで格上と戦えよ。

 新人には順番を譲ってやれよ。


「とリリア様が言い出してな。大手クランのリーダーは猛反対。話し合いでは埒があかなくて、結局、リリア様が賭けを提案したんだ」

「……………………」

「賭けの内容はリリア様が一週間以内にダンジョンを踏破できるか。リリア様が勝てば、狩場の独占を止め、ボス部屋の順番待ちを新人に譲ること。それ以外でも新人を助け育てること」

「……………………」

「一方、リリア様が負けたら、その身体を一晩好きにしていいこと」

「下衆いな」

「ああ、そうだな。当時のクランリーダーは最低の人格をしていた。どうせクリアできないだろうと、嬉々として賭けを受け入れてたぜ」

「それで、賭けはどうなったんだ?」


 まあ、結果は火を見るより明らかだ。


「ダンジョン入り口の石碑は見たか?」

「ああ、もちろん」

「石碑に刻まれているように、リリア様はたったの3日でクリアしたんだぞ」

「それで、どうなったんだ?」

「ギルド立会いの賭けだったからな。ちょっかいを出したクランも従わざるを得なかったよ。それでその後いろいろとゴタゴタがあった末、結局そのクランは分裂してしまったな」

「よく知っているな」

「俺もそのクランに入ってたからな。まだ駆け出しのペーペーで今みたいに周回の順番待ちしてる身分だったけどな」

「そういう経緯があったのか」

「ああ、『鋼の盾』も分裂して出来たクランのうちのひとつでな」

「オーマンはリリア様を実際に見たのか?」

「ああ。たまたまだったけど、リリア様が賭けを叩きつける場面に遭遇してな」

「リリア様はどんな印象でした?」


 俺が生まれる前のカーチャンがどんな人だったのか、その頃のカーチャンを目撃したオーマンの意見を聞いてみたい。

 大手クランとの賭けのエピソードからも、あの頃から破天荒だったってのは伝わってくる。


「そうだなあ……」


 オーマンは当時を思い出すかのように腕を組んで考え込む。


「ひと言で言うとしたら、『同じ人間とは思えない』かな」


 あ、それ、凄い同感。

 あの人ほど人間を辞めちゃってる人はこの世界に存在しないだろう。


「当時はまだ15歳で成人したばかりだというのに、ありえないくらい強くて、度胸もハンパなくて、その上、あの美貌だもんな。俺もリリア様とは同い年だけど、どういう育ち方したら、あんなに成れるのか、さっぱり分からなかったよ」

「やっぱり、別格だったみたいですね」

「ああ。それに引き連れていた仲間たちも凄かったな。みんな十代の女の子たちなのに、B級冒険者でも太刀打ち出来ないほどだったぜ」


 B級冒険者といえば、一流冒険者とみなされる。

 だけど、カーチャンたちはそれより遥かな高みにいたのだろう。

 15歳といえば、カーチャンが勇者になってから1年も経っていない。

 たったそれだけの期間でそれだけの強者に駆け上る。

 魔王を倒す存在というのは、それくらいじゃなきゃならないんだろう。


「知ってるか? ここのダンジョンはリリア様が勇者になってから一番最初にクリアしたダンジョンなんだぜ」

「へえ〜、そうだったのか。それは知らなかった」


 クリアしたこと自体はこの前実家で聞いたけど、まさかダンジョン初トライがここだったとは……。

 まあ、カーチャンの生まれ故郷の王都から一番近いダンジョンがここパレトのダンジョンだから、妥当っていえば妥当だな。


 しかし、ダンジョン初トライで3日でクリアしちゃうとか頭おかしい。

 今のオレだったら、初見で3日クリアは可能だろう。

 その気になればの話だ。もちろん、悪目立ちしたくないので、そんなことは絶対にしないけど。


 でも、それは鬼でも逃げ出すような修行の日々を耐えて、これまでに様々なダンジョンに挑んできた経験があるからだ。


 しかし、それを勇者になる前は剣を振ったこともない只の町娘で、剣を振り始めてから数ヶ月だった人間が成し遂げるとか、はっきり言って理解不能だ。

 我が家の常套句「カーチャンだからしょうがない」としか言い表しようがない。


「それから俺はリリア様とその仲間たちを応援することにしたんだ。リリア様たちだったら、絶対に魔王を倒してくれると信じてな」

「その通りになっちゃったな」

「ああ、ホントだよ。あの日ほど嬉しかった日はないぜ。やっぱりリリア様がやってくれたんだって自分のことのように嬉しかったよ」


 嬉しそうに語っていたオーマンの表情に陰りが現れた。


「だけど、リリア様は15年前に急に姿をくらませてから消息不明だ」

「……………………」

「今も元気でやってればいいんだけどな」

「大丈夫、リリア様ほど強い人だから、無事に決まってるさ」


 一昨日に元気な顔を見てきたばかりだし。

 むしろ、元気すぎて困るくらいなので、誰かに分けて欲しいと思うほどだ。


「ああ、そうだな」


 カーチャンの話題が一段落したので、気になっていたことを尋ねることにした。

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