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64 パレトのダンジョン9

「…………ねえ、アル?」

「……………………」

「…………アルってば」

「えっ、なに?」


 ニーシャの姿に見惚れていて、しばらく呼びかけられているのに気づかなかった。


「どうしたのよ、私の顔見てぼーっとしちゃって。私の顔になにか付いてた?」

「うっ、あの、その…………」


 ニーシャの姿が綺麗で見惚れていたなんて、恥ずかしくって言えるわけがない。

 どうやって言い訳しようかと考えていた、その時――。


 部屋の隅――モンスタースポナーがあった場所が白く光る。


「あれって…………」

「ああ、リポップだ」


 リポップ――倒したモンスターが一定の時間が経過した後に復活する現象。

 先ほど倒したモンスタースポナーが再び復活する兆しだ。


 光は5秒ほど明滅した後に消え去り、その後に出現したのはモンスタースポナーだった。


「【魔弾バレット】――」


 俺は魔弾で瞬殺。

 モンスタースポナーはドロップ品を落として、消え去った。

 俺はドロップ品を拾いながら、ニーシャに尋ねかける。


「それでどう? 答え分かった?」

「相変わらず瞬殺なのね。頼りになるから安心なんだけど、なんか複雑な気持ち」


 ニーシャは少し呆れ顔だ。

 俺はテーブルのところまで戻り、椅子に腰を下ろした。


「ごめんなさい。考えてみたけど、やっぱりわからないわ」

「謝る必要はないよ。じゃあ、答え合わせといこうか」

「はい。お願いします」

「言っちゃえば簡単なんだけど。外からモンスターが入れないってことは、冒険者たちも入ってこれないんだ」

「ああっ! そうよね。言われてみたら、その通りね。でも、それになんのメリットがあるの?」

「この部屋を占領できるんだよ」

「ええ、そうね」


 相槌は打つものの、ニーシャはイマイチ納得できていないようだ。


「占拠のメリットも2つあるんだ」

「うん」

「ひとつ目はいわゆる『モンハウ狩り』っていう方法なんだけど、わざとモンスタースポナーを破壊せずに、延々と湧いてくるモンスターを倒して稼ぎ続ける方法」

「ああ、そっか。他の人たちが入ってこれないから独占できるのね」


 ニーシャがフムフムと頷く。


「その通り。敵を倒す速度と敵が湧く速度が同じくらいの場所でやれば、物凄く効率的な狩りができるんだ」

「そうね。モンスターを探す手間もないものね」

「ああ、とても効率的なんだ。でも、効率的な分だけ競争も激しいんだ。だから、ギルドはモンスターハウス独占を6時間までって制限しているんだ」

「黙ってたらバレないんじゃないの?」

「冒険者カードに倒したモンスターの履歴が日時付きで記録されるから、ギルドでクエスト受けたり、ドロップ品を売却したりする際に絶対にバレる」

「ああ、そうだったわね」

「まあ、俺みたいにギルドを使わないつもりなら、平気だけど、そんなヤツは多分俺くらいだろうからな」

「アルはギルドを使わないの?」

「ああ、俺は冒険者としてやって行くつもりはないからね。ギルドランクを上げるつもりもないし、ドロップ品は自分の物づくりのために使うつもりだし。お金稼ぎはニーシャに任せたし」

「へへっ。お任せあれ」


 頼りになる相棒だ。


「あっ、でも、だったら、よくここが空いてたわね」

「ここは不人気なモンスターハウスなんだよ」

「不人気?」

「トレントはこの階層にしては厄介な敵なんだよ。遠くから硬い木の実を飛ばしてくるし、近づこうとしたらムチみたいな枝で攻撃してきて、中々剣の間合いに入らせてくれない。しかも、一回に湧く個体数も多い。ニーシャもこの部屋に入った時に、大勢のトレントがいたのを見ただろ?」

「ええ」

「トレントはこの13階層で出現するモンスターでは一番強いんだ。それなのに、経験値もドロップ品もあまり美味しくない」

「そうなんだ」

「ああ、だから、みんなここよりも効率的な狩場を目指すんだ」

「なるほどね。ひとつ目のメリットは理解したわ。それで2つ目は?」

「こうやって、のんびりと落ち着いて食事が出来る」

「それだけ?」

「いや、これは大切なことだぞ」

「??」


 不思議そうにニーシャは首をかしげている。


「【虚空庫インベントリ】は不用意に人前で見せるべきじゃないんだ。特に、俺のは桁外れな容量だし、時間経過がほぼゼロという性質ももっている、極めてレアなものなんだ」

「そうね。商人としては喉から手が出るほどだわ」

「だから、【虚空庫インベントリ】持ちだとバレると厄介なことに巻き込まれかねないんだ」

「確かにアルの言う通りね」

「ダンジョン内のセーフティー・エリアはほぼ常に誰かがいる状態だ。そんな状況で暖かいスープを飲んだりしたら、一発で【虚空庫インベントリ】持ちだってバレてしまう」

「ええ、そうね」

「だけどここみたいなモンスターハウスでの擬似セーフティー・エリアなら、温かいスープだろうが、焼きたてのステーキだろうが、好きなものを落ち着いて食べられる。俺は保存食の干し肉を囓りながらのダンジョン探索なんて、絶対にやりたくない」

「アルの食事へのこだわりは半端ないからね」

「というわけで、今後も食事は擬似セーフティー・エリアでとるつもりだ」

「わかったわ。私も他の冒険者がいるところで食事するよりも、アルと二人っきりの方が安心だし、アルの意見に賛成よ」


 ニーシャはニッコリと微笑む。


「ちょっと長居したから、そろそろ行こうか」

「ええ、そうしましょう」


 二人とも立ち上がり、俺は食器やテーブル、椅子を【虚空庫インベントリ】にしまい込む。


「あっ、そうだ、アル」

「ん? なに?」

「モンスタースポナーが復活して有耶無耶になってたけど、さっきなんで私の顔を見てたの?」

「うっ、…………そっ、それは」


 ニーシャの顔が綺麗だったから、つい見惚れていたなんて、恥ずかしくてとてもじゃないけど言えない。


「ねえねえ、なんでなの? 教えてよ〜」


 ニーシャがニヤニヤと意地悪く追求してくる。

 さて、どうやって答えたものか……。


「ちょっと考え事をしてたんだ」

「ふ〜ん。考え事ねえ。なにを考えてたの?」

「それは…………」

「ダンジョンのこと? それとも私のこと?」

「……………………」


 俺が答えあぐねていると、「ねえねえ早く〜」と余裕を持った態度でニーシャが迫ってくる。


「ニーシャのことだよ。考え事をしているニーシャが綺麗だったから、つい見惚れていたんだよ」

「……………………、そっ、そうなんだ…………」


 思い切った俺はニーシャに本当のことを伝えた。

 すると、今まで余裕を見せていたニーシャが急にあたふたと慌てたように焦りだした。


「…………ありがと」


 消え入るような小さな声だったけど、確かに御礼の言葉を口にするニーシャ。

 その顔は真っ赤になっていた。


 二人の間になんとも言えない気まずい空気が流れる――。


「よしっ、気分を変えて行こうっ!」

「そっ、そうね」

「ダンジョン探索に復帰だ。出発するぞ」

「お〜」


 誤魔化すようにして、強引に場の流れを変えようと発言したら、いい感じでニーシャもノッてくれた。


 うーん、やっぱり難しいな。

 ダンジョン攻略は得意だけど、年頃の女の子との接し方はどうしたらいいか、皆目見当がつかない。

 俺の知り合いって、基本的にカーチャンの知り合いばかりだから、必然的に俺よりも十も二十も年上の人たちばかりなんだよな。

 何人か同じ年頃の知り合いもいるけど、みんな数回くらいしか会ってない人たちばかりだ。

 だから、どうすればいいか、今いち自信が持てない。

 これまでニーシャと上手く行ってるのは、彼女の高いコミュニケーション能力ゆえだしな。


 さっきの俺の振る舞い方は失敗してないだろうか?

 ニーシャを傷付けたり、嫌な思いをさせたりしてないだろうか。

 それが心配だ。


 そう思いながら隣を見ると、そこには機嫌の良さそうなニーシャがいた。

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