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37 新居

「では、これで手続きは全て完了になります。こちらが物件の鍵です」


 翌日、俺とニーシャは朝からファンドーラ商会を訪ねていた。

 物件購入の手続きのためだ。

 書類を書いたり、税金の説明を受けたり、なんやかやと手続きが必要だったのだ。

 もちろん、それはすべてニーシャ任せ。

 俺は隣で座っていただけだ。


 ケインズから差し出された鍵をニーシャが受け取った。

 これで手続きが終わり、晴れてあの家が俺たちのものになったわけだ。


 俺とニーシャは早速新居へ向かう。

 街の中心にあるファンドーラ商会から歩いて3分も離れていない、こちらも一等地と言える目抜き通りに面した場所にある。ダンジョンと冒険者ギルドから目と鼻の先で、冒険者向けの商売をするには最適な場所だった。


 その分税金も高く、年に100万ゴル以上も支払わなければならない。よほど上手い商売をやらないと、前の持ち主と同じくここを手放さなきゃならないハメになる。

 まあ、ニーシャがいるから、俺はその点なんの心配もしていない。一週間かそこらで8千万ゴルも稼ぎだしてくれたからね。


 ニーシャが鍵を差し込む。


「じゃあ、開けるわよ」

「ああ」


 中に入ると、違和感に気づく。

 昨日来た時には、うっすらと埃が積もっていたのだが、それが綺麗サッパリなくなっている。

 どうやら、ファンドーラ商会の人が掃除してくれたようだ。たった一晩のうちに。


「さすがはファンドーラ商会。サービス満点ね」


 それだけじゃない。電灯などの魔石もフルチャージされている。


 俺たちは二階に上がり、部屋を見分する。

 一階が店舗兼工房で、二階が生活空間だ。

 二階には広さの異なる部屋が8つある。

 一番広い部屋をリビングにすることにし、各自居室を選ぶ。


「ニーシャから、好きな部屋を選んでいいよ。俺はその隣にするから」

「そう、ありがとうね」


 ニーシャは南に面した日当たりの良い部屋を選び、その右隣の角部屋が俺の部屋になった。


「仲間が増えても安心ね」

「増える予定あるの?」

「ええ、アルのやることに合わせていたら、すぐに人手が必要になるわ」


 そうなのかな?


 部屋が決まり、本来ならこれから部屋の整理をするんだろうけど、俺もニーシャも【虚空庫インベントリ】があるから、その作業も大したことがない。

 実家にいた時も、部屋はベッドで寝るくらいでなにも置いてなかったな。

 必要なものはすべて【虚空庫インベントリ】の中だ。

 ニーシャも最初は戸惑っていたけど、今はもう慣れたものだ。


 二階のチェックが終わり、俺はひとり一階へ。ニーシャはまだ二階で荷物整理をしているようだ。

 俺が向かったのは工房だ。もともとは店舗のバックヤードとして使われていた広々とした空間。

 今はなにも置かれておらずガランとしている。

 ここも掃除してくれたみたいで、石造りの床がピカピカになっている。


 今日からここが俺の仕事場だ。

 どういうレイアウトにするかは昨日のうちに考えておいた。

 それに従って、機材を順に並べていく。


 大きく分けて鍛冶コーナーと錬金・調合コーナーだ。


 まずは、鍛冶コーナー。大型の炉に金床。素材や燃料となる火魔石を置く場所に、ミスリルハンマーややっとこなどの道具を並べておくスペースも確保する。


 続いて、錬金・調合コーナー。

 2メートルかける3メートルの大きな作業台。

 その上に、設置型の大きな魔導コンロをメインに、隣に簡易式の魔導コンロを並べる。

 設置型のコンロには巨大な錬金釜を、簡易式の方にはミスリル鍋を設置する。


 壁際には木棚を置いて、そこにいろいろ試料などを並べれば、それっぽい雰囲気になる。実際は直接【虚空庫インベントリ】から使用するから、あくまで雰囲気作りだ。


 そして、仕上げに壁やら床やらに吸気石や吸熱石、吸水石など環境保全のための魔石をセットしていく。

 よし、これで完成だ!


「おお、なかなかいい雰囲気だ」


 いかにも工房といったイメージ通りの配置。

 我ながらいい塩梅だ、と俺は満足した。


 大型の機材も並べたけど、それでもまだ3分の1ほどのスペースが空いている。

 むろん、ここを遊ばせておくつもりはない。


 俺はその空いたスペースに【虚空庫インベントリ】から取り出した魔造大理石(大理石を砕いて魔力で固めたもの)のブロックを並べていく。

 もう何十回もやったことがある作業なので、手慣れたものだ。


 そう。俺が作ろうとしているのはお風呂だ。

 この物件は2階にシャワーがあっただけで、お風呂は付いていなかった。

 なんでも浴槽付きのお風呂があるのは貴族向けの物件くらいなのだと。

 カーチャンほどではないけど、できれば俺も湯船に浸かりたいお風呂派なので、せっかくスペースがあるから作っちゃえってわけだ。


 ちなみに、【虚空庫インベントリ】に入っていたのは、どこでも大理石風呂を設置できるセット一式だ。

 魔造大理石は天然のものと違い、保温効果を高める付与がしてあるので、お風呂には最適だ。


 お風呂大好きなカーチャンがどこに行っても風呂に入りたがるから、以前俺が作って【虚空庫インベントリ】に入れてあったものだ。


 これを機に、我が家でも毎日お風呂に入れるようにしよう。

 実家を出てからはずっとタオルで拭いたり、シャワーで済ませたりだったから、俺としても楽しみだ。


 魔造大理石を並べ、積み上げていく。

 給湯のために火と水の魔石をセットし、排水のために吸水石もセットする。

 魔造大理石は保温だけでなく、浄化の機能もあるので、お湯は週に一度くらいの頻度で交換すればオーケーだ。


 魔造大理石が組み上がったら、最後に遮断カーテンを入り口にセットすれば完成だ。

 このカーテンは音や水気、温度を遮ってくれる便利な一品だ。

 このカーテンで仕事場とお風呂を仕切る。

 後は脱衣スペースを適当な木材を組み立てて作り、お風呂の完成だ!


 と丁度いいところにニーシャが二階から降りてきた。


「なにか物音がすると思ったら……一体なにやってんのよ?」

「お風呂作ってた」

「お風呂?」


 遮断カーテンを開けて、ニーシャに風呂場を見せる。


「すごいじゃない」

「ああ、これで毎日風呂に入れるな」

「私も入っていいの?」

「ああ、もちろん」

「じゃあ、後で入れさせてもらうわね。お風呂なんていつ以来かしら」

「いや、良かったら先に入っていいよ」


 いろいろとお世話になっているお礼だ。

 新居での一番風呂くらい譲っても構わない。


「ええ、いいわよ。アルが作ったんだから、アルが最初に入りなさいよ」

「いいからいいから、こんな立派な店を持てたのはニーシャのおかげなんだし、最初にどうぞ」

「それじゃあ、一緒に入ろっか?」

「えっ!?」


 ニーシャが蠱惑的に微笑む。

 ドキリとした俺は思わず黙りこんでしまった。


「冗談よ、冗談」

「……………………」

「それじゃあ、お言葉に甘えて、最初に入らせてもらうわね」


 どうやら、からかわれただけのようだ。

 それから、ニーシャにお風呂の使い方を説明。

 その後、ニーシャ、俺の順にお風呂に入ることになった。

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