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33 商談

 ファング・ウルフとシルバー・ウルフの肉とモツは週に一度「ジェボンの店」に納入することとなった。

 【虚空庫インベントリ】にストックしてるだけで半年は十分に持つ。

 ジェボンさんのところとは、とりあえず半年の契約だ。


 この売上で週に100万ゴルが入ることになった。

 月に換算すると400万ゴル。

 他にもポーション代として、ギルドから50万ギル、ファンドーラ商会から千万ギル。合わせて月に1450万ギルの定期収入だ。

 ニーシャと二人で山分けしても、コレだけあれば余裕で遊んで暮らしていける。


 ただ、俺たちにとってはお金は遊ぶためのものじゃあなかった。

 俺にとっては、素材を他者から手に入れるための資金に過ぎないし、ニーシャにとっては新たなお金儲けのための元手に過ぎなかった。

 根っからの職人と商人な俺たちだった。


 「ジェボンの店」で食事をした日の翌日から3日間。

 俺はポーションづくりに精を出し、ニーシャは転売に励んでいた。

 ちなみに、ポーション容器は調合ギルドから購入することになった。

 作るのに時間がかかりすぎるし、1万本以上作ったからもう作り飽きたというのもある。

 容器作りに費やしていた時間をポーション作りに回したため、またもや膨大な量のポーションをストックすることになった。


 そういうわけで、3日後の今日。

 俺とニーシャはファンドーラ商会を再訪していた。

 入り口でスティラからもらった紹介状を見せると、スムースに応接室へと案内される。


「お待たせしました」


 俺たちが案内されて数分もしないうちに、スティラがやってくる。

 今日も素敵な絶対領域が健在だ。

 前回は黒一色のソックスだったけど、今日は青と白の縞模様。

 シックな黒もいいが、今日の縞も似合っていて素敵だ。


「今日はどういったご用件でしょう?」

「こちらをご覧ください」


 ニーシャが【共有虚空庫シェアド・インベントリ】からポーション瓶百本を取り出し、机の上に乗せる。

 10×10の百本入りのケース(俺自作)入りのポーションだ。


「こっ、これは?」

「ええ、ご依頼の品の中級回復ポーションです。ギルドで鑑定は受けてませんがね」


 前回の初級回復ポーション納入時とは異なり、今回持ち込んだ品はギルドで鑑定を受けていない。

 品薄のはずの中級回復ポーションを大量にギルドに持ち込んだら、大騒ぎになるに決まっているからだ。


 スティラの表情が驚きに染まっている。

 まさか、こんな短期間で依頼した中級回復ポーションが揃うとは思わなかったのだろう。


 しかし、さすがは大商会の副会頭。

 すぐに再起動すると、部下に言いつける。


「失礼ですが、こちらで鑑定させて頂いても?」

「ええ、もちろん、構いません」

「メンガをここへ」

「はい、承知いたしました」


 控えていた小間使いの少年はすぐに部屋を後にした。


「まさか、本当にお持ちいただくとは……」


 やはり、スティラにしても驚きが大きかったのだろう。

 いまだ興奮冷めやらぬ、といった状態だ。


 すぐに一人の男性がやってきた。


「お呼びですか、副会頭」

「ええ、こちらが当商会の鑑定士メンガです」

「お初にお目にかかります。鑑定士のメンガと申します」

「ニーシャ商会のニーシャと申します。よろしくお願いします」

「同じくアルです。よろしくお願いします」


 お互い短く挨拶を交わす。


「では、早速なのですが、こちらのポーションを鑑定して貰えますか」

「はい。承知しました」


 メンガはブツブツと呪文を唱える。

 【鑑定アプレイズ】の呪文だろう。


「百本すべて中級回復ポーションです。しかも、最高品質です」


 鑑定したメンガも驚愕の表情をしている。


「ご納得いただけましたか」

「ええ、正直あまり期待をしていなかったのですが、良い意味で期待を裏切ってもらえましたね」


 スティラはようやく調子を取り戻したのか、前回と同じような余裕を持った話し方に戻っている。


「ワルスの森でホワイト・ギーネ草を採取したのですか?」

「その前にこちらも見ていただけますか?」

「なんでしょう?」


 ニーシャが【共有虚空庫シェアド・インベントリ】から今日の目玉商品を取り出した。


 ポーションだ。

 濃緑色の中級回復ポーションとは異なり、青緑に輝くポーションだ。

 そのポーションがまたもや百本。


「こっ、これは……」

「ええ、上級回復ポーションです」


 絶句するスティラにニーシャが自信満々に言い放った。


「間違いありません。最高品質の上級回復ポーションです」


 鑑定を終えたメンガがスティラにそう告げる。


「これはアルさんが?」

「はい、俺が作りました」


 俺が発見したダイコーン草から中級回復ポーションを作る製法。

 その方法をホワイト・ギーネ草に適応して出来たのが、今目の前に並んでいる上級回復ポーションだ。

 作るために必要な魔力消費量は増えたが、同じ方法で作ることが出来たのだ。


「中級回復ポーションも上級回復ポーションも、同じ製法で作れます。作る方法は俺が発見しました」


 俺の話を真剣に聞くスティラとメンガ。


「しかも、中級回復ポーションはダイコーン草から、上級回復ポーションはホワイト・ギーネ草から作れます」


 今までで一番驚いたという顔をする二人。


「製法もお売りしますので、ポーションと合わせて買い上げてもらえますか?」


 これは昨晩ニーシャと相談して決めたことだ。

 確かに、ポーションから入る収入を最大化するためなら、製法を独占した方がいいだろう。

 だけど、俺はずっとポーション作りを続けていきたいわけじゃない。

 この一週間、ぶっ続けでポーションを作り続けてきたけど、正直、ちょっと飽きてきている。

 このまま、毎日ポーション作りを続けるのはちょっと勘弁したい。

 新製法を試行錯誤しながら探していた時が一番楽しかった。

 今は、もう単純作業の繰り返しだ。

 そろそろ、ポーション作りから離れて、別のことをやりたい気持ちが強い。


 そうニーシャに伝えたところ、「いいんじゃない」と快諾してくれた。

 せっかくのお金儲けをふいにするわけで、ニーシャとしては反対するかと思ったけど、そんなことはなかった。

 ニーシャが言うには「だって、アルがまた他の儲け話を持ってきてくれるでしょ」だと。

 「お金儲けは大事だけど、どうやって儲けるかの方がもっと大事だわ。期待してるわね」だって。

 そこまで言われたら、頑張るしかないじゃないか。


「ええ、ウチとしては構わないのですが、本当によろしいのでしょうか?」

「はい、こっちは合意してますので」


 ニーシャも俺の言葉にうなずき、俺から説明を引き継ぐ。


「ただ、できれば、時期を見計らって公開していただければと思います。そちらが十分に儲けた後で構いませんので」

「なるほど、分かりました。その件は承知いたしました。それで、製法はおいくらで売っていただけるのでしょううか?」

「実際に見てから決めてもらえますか?」


 ニーシャが【共有虚空庫シェアド・インベントリ】から1通の書類を取り出し、スティラに手渡す。

 スティラはじっくりとそれを熟読する。


「これはこれは…………」

「どうでしょう?」

「これをすべてアルさんが一人でやったのですか?」

「ええ、そうです」

「これは革命ですね。ポーション作りに革命を起こします」

「そんなにスゴいことなんですか?」


 思わず問いかけてしまった。


「ええ、これまでポーション作りというのは個人で行うものでした。ですが、ここに書かれた方法で作れる人はほとんどいないでしょう。宮廷魔術師でも連れてこなければ無理でしょう」

「…………」

「しかし、複数人で役割分担をすれば、この製法で作ることができます。しかも、必要なのは魔法の出力ではなくて、魔法の精度です。現在、魔道士はその出力の大きさで優劣が決まっているのが現状です。ですが、この製法では今まで不遇をかこっていた低出力魔道士でも活躍できます。そういう人々に活躍の場を提供することになるのです」

「…………」

「しかも、今まで割りに合わないとされていた薬草採取ですが、ワンランク上のポーションが作れるとなると話は別です。討伐が進んでいないワルスの森も、これからは上級冒険者たちが薬草を求めて大挙するでしょう」

「…………」


 そんなに大事になるとは思っていなかった。

 ニーシャは隣で「うんうん」と頷いている。

 ニーシャはちゃんと理解していたようだ。

 だったら、前もって教えてくれればいいのに。

 そう思い、彼女を軽く睨むと、ニヤニヤとした笑みを返してきた。

 くそう。分かっててやったな。


「これは我が商会で独占して良いものではありません。必ずやギルドに届けて公開しましょう。まあ、最初の利益を確保してからですが。一月以内には公開することを約束致しましょう」

「ええ、それで構いませんわ」

「それで、この製法の買値ですが、慣例通り、一月で我が商会が儲けた額の半分でいかがでしょうか?」

「もちろん、文句はありません。そんなに私たちを高く買ってもらえるんですか?」

「ええ。ニーシャさんとアルさん、お二人にはそれだけの価値はあると判断致しました。お二人は当商会にとって欠かすことのできないパートナーと呼べるでしょう。これからもよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「お願いします」


 お互い立ち上がり、握手を交わす。


「あっ、そうだ」


 別れを告げようとして、視界に飛び込んできたそれを見て、俺は大切なことを言い忘れていたことに気づいた。


「なんでしょう?」


 スティラが小首をかしげるポーズを取る。

 お人形さんのように整った美少女のスティラがやると、それだけで絵画のように様になる。


「この間の黒いソックスもお似合いでしたけど、今日の縞模様のソックスも素敵です。最高の絶対領域ですね。スティラさんの魅力が最大限に引き出していると思います」


 俺の言葉にスティラはしばし黙りこんだ後、「ありがとうございます」と返してきた。

 頬が少し赤く染まっているのは、照れているからだろうか。


 こうして、ファンドーラ商会との二度目の取引は順調に終わった。


 ちなみに、今回卸したポーションは、中級回復ポーションが5,000ギルで1万本。上級回復ポーションが5万ギルで百本。計5500万ギルの売上だ。

 これなら、文句なしの物件が買えるとニーシャが喜んでいた。

 よし、明日からは新居探しだっ!

 まさキチです。


 お読み頂きありがとうございました。

 今回で第2章は終わりです。

 1回閑話を挟んでから、新章が始まります。


 ブクマ・評価いただきありがとうございました。

 非常に励みにさせていただいております。

 まだでしたら、画面下部よりブクマ・評価して頂けますと、まさキチのやる気がブーストされますので、お手数とは思いますが、是非ともブクマ・評価よろしくお願いいたします。


 それでは、今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが物凄く楽しみです。 此れからもアルベルトとニーシャの物語を綴って下さいね。
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