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29 ひらめき

 シャワーを浴びた俺は散歩に出た。

 目的地はない。

 朝の混雑する時間帯は既に終わっており、人通りが落ち着いた街中を歩いてく。

 歩きながら、アイディアを思いつくのが目的だ。

 俺はうんうん唸りながら、通りを歩いて行く。


「うーん、どうやったら毒素を取り除けるんだ?」


 魔法を使ってもダメ。

 抽出方法を変えてもダメ。

 触媒やら何やらを使ってみてもダメ。


 お手上げだ。

 なにかまったく別のアプローチが必要なんだろう。

 リフレッシュしたおかげで、脳みそはリセットされている。

 きっとなにかいいアイディアが浮かぶはず。


 そんなことを考えながら、街を歩く。

 通りを歩く人々をなんとなく眺めながら、足の赴くままに進んでいく。頭の中で思考を転がしながら。


 魔素。

 毒素。

 ダイコーン草。

 抽出。

 マナ・ウォーター。

 …………。


 頭の中をグルングルンと考えが回っていく。


 なにか、閃きそうな予感はするが、後1ピースが足りない。

 喉元まで出かかっている言葉が出てこない時と同じようなもどかしさ。

 あと1ピースがあれば、綺麗に謎が解けそうな予感。


 中央通りを進む。

 視線の先には王都名物の噴水が高々と水を噴き上げている。


 噴水。

 水。

 シャワー。

 石けん。

 …………閃いたっ!


「そうだっ! 石けんについた髪の毛だっ!」


 閃きは唐突に訪れた。

 先ほどシャワーを浴びた際に思い出した石けんと髪の毛。

 欠けていた1ピースがピタリとハマり、思考がどんどんと加速していく。

 ようやく、俺は答えにたどり着いた。


 俺は今まで毒素を取り除こうとやっきになっていた。

 石けんに例えるなら、髪の毛を撮ろうとガリガリと爪でひっかいていたんだ。

 でも、そうじゃない。

 発想を変えればいいんだ。


 毒素を取り除くのではなく、取り出そうとすればいいんだっ!

 毒素によく似た性質のものにこすりつければいいんだっ!


 それなら思い当たるものがある。

 俺はすぐさま、北の森へと【転移トランスポーズ】した――。


 北の森へ飛んできた俺はすぐに【索敵サーチ】の魔法で周囲を探る。

 200メートルほど先に、ちょうど良いターゲットを発見。

 そいつに気づかれないように、【隠密ハイド】をかけ、【高速移動ファスト・ムーブ】で駆け寄る。


 たった一匹でうろついていたファング・ウルフ。

 相手に気づかれないように、そっと近づき、【剣強化エンハンス・ソード】で刀身を伸ばしたミスリルナイフで首元を一斬。


 偵察をしていたのか、それとも、群れからハグレた個体なのか。

 どちらなのかは分からないが、不運なコイツは俺の実験のための犠牲となった。


 前回同様、ミスリルナイフで頭部と胴体で切り離されたファング・ウルフの死体。

 前回はマナ・ウォーターのシャワーで血液を流し出したけど、今回はその方法とは別の方法を試みる。

 俺は【空圧エアプレス】を使いファング・ウルフの胴体を圧縮する。力技でファング・ウルフを血液を絞り出すのだ。

 絞りだされ、溢れ出てくる血液をガラス容器に溜めていく。

 この方法だと肉はダメになってしまうが、今回の目的はファング・ウルフの血液だ。

 容器いっぱいの血液を採取すると、頭部の魔石だけを回収し、俺は森を後にする。

 【転移トランスポーズ】で王都の宿屋へと舞い戻った――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 俺は【転移トランスポーズ】で宿屋の部屋に戻ってきた。

 備え付けのテーブルの上は、俺の悪戦苦闘の結果が乱雑に散らかっている。

 片付ける間も惜しい。俺はそれらを一緒くたに【虚空庫インベントリ】に放り込む。


 テーブル上にミスリル小鍋をセットし、ファング・ウルフの血液を容器から少量流し込む。

 一応血液は10リットル以上持ってきたけど、成功するまで何回やり直すか分からない。

 だから、慎重に少しずつ使用しての実験だ。


 俺がやろうとしているのはダイコーン草の魔素の中から毒素を抽出すること。

 その抽出先がファング・ウルフの血液。

 さあ、上手くいくかどうか。実験開始だ!


 【虚空庫インベントリ】から取り出した1株のダイコーン草。

 最初は通常の手順と同じ。

 【空斬エアカッター】で根っこと茎を切り分ける。

 【空圧エアプレス】で葉や茎に溜まっている魔素を押し出す。

 茎の切り口から滴る魔素を含んだ液体。

 前回はこれをそのままマナ・ウォーターに溶かしこんだ。


 だけど、今回は別の方法を取る。

 滴る液体を別の容器に溜めていく。

 出きったら、その容器に向けて水魔法の【水球ウォーター・ボール】を唱える。


 魔素を含んだ液体が小さな球状になる。

 さしずめ、魔素ボールとでも言ったところか。

 その魔素ボールを【飛翔フライ】で浮かし、ファング・ウルフの血液で満たされた小鍋の上へ移動させる。

 そして、少しずつ、慎重に、ゆっくりと下ろしていき、鍋に張られた血液に触れるか触れないか、というところで停止させる。


 ここからが本番だ慎重にやっていこう。

 魔素ボールを対象に【魔力解析アナライズ・マナ】をかけ、状態を把握したまま、この後の作業を続けていく。

 仮に数値化するとしたら、現在魔素ボールには100の魔素があり、そのうちの5は毒素だ。

 この5の毒素を取り出していく。

 取り出し先はもちろんファング・ウルフの血液だ。

 俺の考えが正しければ、きっと上手くいくはず。


 魔素ボールをゆっくりと回転させていく。

 目では見えないけど、【魔力解析アナライズ・マナ】のおかげで、それまで均一に分布していた毒素が吸い寄せられるように外周付近に集まっているのが分かる。

 魔素ボールを転がしながら、石けんで優しく撫でるように、魔素ボールを液面を滑らせる。


 すると――。

 少しずつではあるが、魔素ボールの毒素がファング・ウルフの血液に吸い寄せられるようにして移動していく。


 ――よしっ、俺の考えは間違っていなかったッ!


 その調子で魔素ボールを転がしていく。

 少しずつ少しずつ、毒素が抜けていく。


「できた。やった」


 慎重に操作した結果、魔素ボールから完全に毒素を抜き切ることができた。


「この要領で、10本も作れば中級回復ポーションができるぞ」


 今のでコツはつかんだ。

 この調子でさっさと10個作っちゃうぞ――。


 ――十数分かかり、俺は10個の毒抜き魔素ボールを作り上げた。


 後は、これをマナ・ウォーターに溶かせばいいだけ。

 別のミスリル鍋にマナ・ウォーターを張り、魔導コンロも用いて加熱。

 適当な温度に温まったところで、10個の毒抜き魔素ボールを投入。グルグルとかき混ぜていく。

 かき混ぜるに連れ、鍋の中は綺麗な緑色に染まっていく。初級回復ポーションのときより、濃い緑色だ。

 俺は成功を確信した。


「よしっ、出来たっ!」


 正確なところは、ニーシャに鑑定してもらわないと確かなことは言えない。

 だけど、俺の【魔力解析アナライズ・マナ】はこれが中級回復ポーションだと告げている。

 間違いなく、俺の実験は成功だろう。


 浮かれた俺はさっそく、【通話テル】でニーシャに報告。

 だけど、商談中なのか、ニーシャは【通話テル】に出なかった。


「あ〜、早くこの結果を伝えたいな」


 仕方がないので、俺は実験を改良すべく、作業を再開することにした。

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