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28 試行錯誤

 翌日。

 俺は挑戦を始めていた。


 ダイコーン草から中級回復ポーションを作りだす。

 俺が7歳くらいのころ挑戦して失敗した課題だ。


 だが、あれから俺は成長した。

 知識も増えたし、魔力操作も向上した。

 それに、あの頃にはなかった『錬金大全』という心強い味方もある。

 きっと、上手くいくはずだ。


 まずは『錬金大全』の関連箇所を読み込んで見る。

 試しに「中級回復ポーション・レシピ」を読んでみる。

 作り方は初級回復ポーションと同じ。

 煮出し式と薬研式が記載されている。

 どちらも薬草から魔素を抽出してマナ・ウォーターに溶かしこむ方法だ。


 そして、素材として載っているのはホワイト・ギーネ草かブッコロリ草だ。

 ダイコーン草やニジーン草といった初級回復ポーションの素材については一切触れられていない。


 索引でダイコーン草について調べる。

 ヒットしたのは「初級回復ポーション・レシピ」と「薬草の取り扱い方」そして、「食用としての薬草」の3記事だけだった。


 「初級回復ポーション・レシピ」はつい先日読んだばかりだ。

 普通に初級回復ポーションの作り方が書かれているだけ。

 今の俺にとって特に有用な情報は載ってない。


 次に、気になったので「食用としての薬草」を読んで見る。

 なんと、ポーション作りに使用した後の薬草は、適切な処置をすれば食べられるらしい。

 知らなかった。

 今まではただ捨てていただけの物に使い途があっただなんて。

 ただし、栄養価は低く、ちゃんとした味にするには手の込んだ処理が必要。食べ物に困った時の最後の手段だと書いてあった。

 その一文を読んで、膨らんでいた好奇心が一気に萎んでしまった。

 俺の料理の師匠くらい料理の腕があったら、もしかすると美味しく食べれるようにしてくれるかもしれない。

 今度、会ったら伝えてみよう。


 最後の頼みの綱は「薬草の取り扱い方」だ。

 この記事には、採取の仕方、保存方法、抽出のやり方など、ポーションを作る為にどう薬草を取り扱うかが丁寧に説明されている。

 しかし、やはりというか、残念なことに、この記事には薬草は毒素を含んでいることは記述されているが、それを取り除く方法については、なにも書かれていなかった。


「うーん、困った」


 いつもは頼りになる『錬金大全』だけど、今回ばかりは頼りにならなかった。

 こうなったら、自分でその方法を探しだすしかない。

 暗中模索ではあるが、試行錯誤していくしかない。

 こうして、俺の中級回復ポーション作りの挑戦が始まった――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ポーションとは素材となる薬草の魔素をマナ・ウォーターに溶かしこんだものだ。

 薬草は毒素を含んでおり、その毒素は魔素と分離することが出来ない。

 それゆえに、ポーションは毒素を含んでおり、短期間に大量に摂取すると身体に悪影響だ。

 いわゆるポーション酔いで頭痛、腹痛、めまい、吐き気などの症状が出る。


 それと同じ理由で、ポーションづくりの際、1本当たりの薬草使用量を増やすことはできない。

 薬草を増やせば、効能は増すけど、その分毒も強くなる。

 度を超えれば、出来上がるのはポーションじゃなくて毒薬になってしまう。


 この3日間、俺はありとあらゆる方法でダイコーン草から中級回復ポーションを作れないか試してみた。


 手始めに試してみたのは、調合中に魔法を使ってなんとかしようというアプローチだ。

 ダイコーン草から魔素を抽出する際に【空圧エアプレス】の他に魔法を使ってみたのだ。

 試したのは、聖魔法の【浄化ピュリファイ】と【解毒アンチ・ポイズン】の2つ。

 両方とも、毒に対する魔法であるが、用途が違う魔法だ。簡単に言うと、【浄化ピュリファイ】が毒の感染を防ぐ魔法で、【解毒アンチ・ポイズン】は感染した毒を取り除く魔法だ。

 しかし、どちらの魔法も上手く行かなかった。

 【浄化ピュリファイ】ではダイコーン草から毒素を抜くことが出来なかったし、【解毒アンチ・ポイズン】では毒素と同時に回復に必要な魔素まで取り去ってしまう結果に終わった。


 魔法でのアプローチがダメだったので、次はポーションの製法をいろいろと試してみた。

 マナ・ウォーターの温度や濃度を変えてみたり、抽出の仕方を変えてみたり。

 そんなこんなで1日目はなんの成果もなく終わってしまった。


 2日目はダイコーン草そのものを変えてみることを試した。

 北の森以外のいくつかの場所を【転移トランスポーズ】で飛び回ってダイコーン草を採取してみた。

 やはり、北の森のダイコーン草は良質で、他の地域で採取したやつは毒素もすくないけど、魔素自体も少なかった。

 例えるなら、北の森で採れたヤツが魔素100のうち毒素が5だとして、他の場所で採れたヤツは魔素60のうち毒素が3って感じ。

 毒素と魔素の比率は替わっていない。

 単に有効成分の含有量が少ないだけだ。

 これだと、結局魔素・毒素比率は変わらないので、他の場所で採れたヤツでも、上手くいかない。

 【転移トランスポーズ】で数カ所回ってみたけど、結局は徒労に終わった。


 そして、今日で3日目だ。


 朝からあーだこーだと試行錯誤しているが、ちっとも解決の兆しがない。

 完全に手詰まり、お手上げ状態だ。


「うーん、ダメだなあ」


 俺は行き詰まってきた。

 思いつくアイディアはすべて試してみたけど、全部ダメだった。

 他に思いつく方法もナシ。


「気分転換にシャワーでも浴びるか」


 昨日、一昨日と寝食も忘れて実験に没頭し、ニーシャの「もう寝なさい」の言葉で、ようやく実験を終わらす有様だった。

 食事も部屋に持ってきてもらったものを、実験しながら摘む程度だったし、入浴もおろそかにしていた。


 気分転換も兼ねて、今、入浴を済ませちゃおう。

 それで、スッキリしたら散歩でもしよう。

 そうやってリフレッシュすると、いいアイディアが浮かんだりするしね。


 俺は【虚空庫インベントリ】から簡易シャワールームを取り出し部屋の隅に設置する。

 1メートル四方の床面積で、高さが2メートルのコンクリート・ボックス。

 小型の一人用ながら、温水・冷水のどちらもオーケー。

 流れた水は吸水石が吸い込んでくれるから、場所を選ばずに使える便利な魔道具だ。

 

 ニーシャは外出中でいないので、気兼ねなく服を【虚空庫インベントリ】に脱ぎ捨てていく。


 シャワールームの中に入り、火魔石と水魔石に魔力を流し、お湯を出す。

 使い慣れているので、感覚でどれくらいの魔力を流せばいいのかはわかっている。

 今日はリフレッシュしたいので、少し火魔石に多めに魔力を流し、熱めのお湯が出るようにする。

 上部から流れ出てくる少し熱いお湯が気持ちいい。

 少し温まり、石けんで頭をガシガシと洗っていく。

 カーチャンやセレスさんは洗髪時には、特別のシャンプーやらなんやらを使っていたけど、俺は面倒くさいので石けん派だ。

 石けんひとつで頭からつま先までゴシゴシゴシだ。

 石けんで泡立った頭をお湯で流していく。

 これだけでもリフレッシュになる。


 続いて身体を洗っていくんだけど、石けんに何本か髪の毛がこびりついている。

 こういう時どうすれば髪の毛が取れるのか――。


 小さい頃のことを思い出す。

 まだ5歳くらいだったろうか。

 その日はセレスさんと一緒に入浴してた。

 俺は今みたいに石けんにこびりついた髪の毛を剥がそうと爪で石けんを引っ掻いていた。


「あら、アルくん。それじゃダメよ」

「そうなの?」


 セレスさんがアドバイスをくれる。


「石けんを身体にこすりつけてご覧なさい」

「うん、わかった。やってみる」


 幼少期の俺は、素直にセレスさんのアドバイスにしたがう。

 髪の毛のついた石けんで腕を軽くこすると、あら不思議。

 石けんについていた髪の毛は腕の方にくっついた。


「えええ、こんなかんたんなの?」

「そうですよ」

「セレスさん、ありがと」

「どういたしまして」


 と簡単に石けんにこびりついた髪の毛を剥がすことができたのだ。


 その理屈はなんでも、「ものは自分に似たものにひっつこうとする」性質があるんだって。

 たしか、セレスさんは『親和性』って言っていた。

 髪の毛は石けんより人の皮膚に近い。

 だから、こすると石けんから皮膚へ移るんだ。


 ――髪の毛のついた石けんを見ながら、俺はそんなことを回想した。


 俺はその石けんで身体を洗っていく、付いていた髪の毛はすべて身体にくっついた。

 身体の泡を流すように、シャワーを浴びる。

 泡は流れ落ちていき、ついでに身体にくっついていた髪の毛も流れ落ちる。


 シャワーを浴びてすっきりした俺は、【虚空庫インベントリ】からタオルを取り出し、身体を拭く。

 新しい下着も【虚空庫インベントリ】から取り出し着用。

 さっきまで来ていた布の服(国宝級)を着たら、リフレッシュ完了だ。

 この布の服は自動的に汚れを落とすので、洗濯の必要がない優れものだ。

 よし、リフレッシュしたし、散歩に行くか。

 いいアイディアが浮かぶといいんだけどな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 薬草のネーミングが・・・www。
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