268 リンドワースと里帰り6
「そろそろ帰りましょうか?」
「えっ、リリア殿は?」
「ああなったら、カーチャンはしばらく帰ってきませんから」
「そっ、そうか」
俺はすっかり忘れていた重要なことを思い出した。
「セレスさん、魔王ってカーチャンが倒したんじゃ? まだ生きてるの?」
「ええ、生きてるわ。でも、心配いらないの」
「そうなんだ」
「あなたもそのうち、会う機会があるでしょう」
世間一般では魔王はカーチャンに倒されたことになっている。
だが、セレスさんがそういうなら、危険はないのだろう。
カーチャンも敵を倒しに行くというよりかは、喧嘩相手のところに遊びに行くって感じだったしな。
ちなみに、リンドワースさんは俺たちの会話のスケールの大きさに呆れていた。
「じゃあ、セレスさん、俺たちはそろそろ帰るよ」
「この度はお邪魔いたしました」
リンドワースさんがぺこりと頭を下げる。
「あら、ご丁寧に。また、いつでも遊びに来ていいですよ。それと、アルベルト、これを」
「ん? なんですか? 本?」
本よりは薄く冊子よりは厚い紙束。
表紙には『パレトのダンジョン攻略ログ』と書かれている。
「この前来た時に話に出たでしょう。フェイダが残したリリアたちの記録です」
無音殺戮機械フェイダ。
カーチャンが勇者をしていたときのパーティーメンバーの一人で職業は暗殺者。
俺の師匠の一人だ。
「あのときは攻略前だったけど、今ならもう見てもいいでしょう」
「ああ、そうだったね」
あのときはパレトのダンジョン攻略前だったから、ズルするようで見たくないって断った。
だけど、完全攻略した今だったら、もういいだろう。
俺もカーチャンがどんなだったか興味あるし、ニーシャも読みたがっていた。
「ありがとう、セレスさん。いいお土産ができたよ」
「あの子にもよろしく伝えておいて」
「ああ、また今度連れてくるよ」
「待ってるわ」
セレスさんに別れを告げようとした所、リンドワースさんが尋ねてきた。
「なあ、アル。今の話だと、アルはパレトのダンジョンをクリアしたということになるが?」
「あっ……………………」
まあ、リンドワースさんなら話してもいいか。
「ええ、その通りです。全60階層踏破しました」
「なッ……」
「まあ、ラスボスの阿修羅は倒したんですけど、ダンジョン・コアは壊さなかったので、石碑に名前は残ってませんけどね」
すべてのダンジョンは最奥にあるダンジョン・コアを破壊して、初めて完全クリアしたことになる。
そうすると、入り口そばにある石碑に名前が刻まれるのだ。
ダンジョンクリアは歴史的な偉業であり、冒険者であれば、誰でもそれを夢見るのであるが――。
「俺は冒険者じゃなくて、職人ですから。冒険者として名を上げるつもりはないんです。俺にとってはダンジョンクリアよりも、今回のリンドワースさんとの共同作成の方が、よっぽど価値があるんですよ」
「……………………職人の鑑だな」
「そう言ってもらえて、なによりです」
「しかし、アルがそんなに強かったとは……。さすがはリリア殿の息子というべきか……。しかし、パレトの住人としては、もったいないというか、なんというか……」
ダンジョン・コアが破壊されるとダンジョンは一定期間活動を停止する。
そして、一週間から一ヶ月程度の休眠状態に入るのだが、復活後のダンジョンは活力が最大の状態になる。
すなわち、モンスターやアイテムが大量に出現するのだ。
再始動後のダンジョンは大人気であり、外部から多くの冒険者が集まり、お祭り状態になるのだ。
パレトの街で商売をするものとしては、両手を挙げて歓迎するイベントだ。
それを放棄したことを残念がるリンドワースさんの気持ちはよくわかるが――。
「大丈夫ですよ。1年以内にパレトのダンジョンはクリアされます」
「1年以内だとっ?」
「ええ、1年以内に『紅の暁』にダンジョンクリアをさせる。俺の目標のひとつです」
我がノヴァエラ紹介の大得意先であり、ダンジョン攻略の最先端を走る冒険者パーティー『紅の暁』。
彼らの武器を作り、アイテムを供給し、攻略をサポートする。
そうして、一刻も早くダンジョンをクリアさせるのだ。
「また、凄いこと考えているな……」
「ええ、目標は高い方がいいですから」
「はははっ。見習わないとな」
「お互い、研鑽して行きましょう」
「そうだな」
お互い見つめ合い、笑顔を交わす。
「じゃあ、そろそろ行きましょう。セレスさん、また、来ます」
「お世話になりました」
「うふふ。いつでもいらっしゃい」
こうして、俺はニーシャへのお土産を持って実家から帰ったのだった――。
まさキチです。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
残念なお知らせで恐縮なのですが、モチベーション維持が困難になったため、本作は一度ここで完結とさせていただきます。
今までお付き合いありがとうございました。
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代わりにはならないかもしれませんが、そちらをお楽しみいただければ幸いです。
今後とも、お付き合いのほどよろしくお願いします。