263 リンドワースと里帰り
実家を巣立ってから、二度目の里帰りだ。
前回はニーシャと一緒だった。
早いもので、あの時から2ヶ月くらい経過した。
俺の方は毎日が新しいことの連続――いろんな発見があり、多くの人との出会いが会った。
死ぬほど忙しくて、正直、実家のことを思い出す暇もなかった。
だけど、カーチャンはそうじゃないんだろうなあ……。
絶対、機嫌悪くしてるよなあ…………。
「おおっ、これがアルの転移魔法か……。凄いな、これは」
今回の里帰り、同行者はもちろん、リンドワースさんだ。
共同で作り上げた極剣『リンダール』をカーチャンにプレゼントするのが目的だ。
彼女なしでは始まらない。
「ここがアルの育った場所、そして、リリア殿の住まいか……」
当の本人は転移魔法とこの場所に感動しきっているみたいだ。
俺の実家は秘境中の秘境。
カーチャンのペットのエンシェント・ドラゴンを恐れて並のドラゴン程度じゃ近寄れず、幻獣クラスが散歩がてらに空を飛び回っている場所だ。
その幻獣ですら、カーチャンの期限が悪い日には一切近寄らないっつーんだから、イロイロと察してくれ。
「リンドワースさん、ちょっと離れて。そろそろ来る頃だから」
「ん?」
リンドワースさんはわけも分からずといった調子できょとんとしている。
このままじゃ巻き込んでしまうかもしれないので、俺はジャンプで20メートルほど離れる。
これだけ空いていれば大丈夫だろう。
こうなることを予想してたから、自宅から少し離れた場所に転移したのだ。
――と思った瞬間、予想通りにソレは翔んで来た。
「アルく〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
両腕を胸の前でクロスさせ、カーチャンの拳を受け止める。
「も〜、なんで、帰ってこないのよ〜〜〜〜!!!」
思っていたように、俺が中々帰省しなかったから、カーチャンはご機嫌ナナメだ。
次から次へとカーチャン流の連続攻撃が畳み込まれる。
と呑気に考え事できるのはここまでだ。
後は俺が気絶から覚めたときにまた話そう――。
◇◆◇◆◇◆◇
「おおーい、アルく〜〜〜ん。おきろ〜〜〜〜〜」
「うっ、いてててて」
「あっ、アルくんが起きた〜」
カーチャンが横たわる俺を抱きかかえ、ぎゅうっと強く抱きしめる。
第三者が見たら、虐待、DVといった単語が頭に浮かぶだろうが、これが我が家流のスキンシップだ。
「アル、大丈夫なのか?」
とリンドワースさんが心配そうに尋ねてくる。
「ええ、平気ですよ。いつものことなんで」
「これがいつも…………さっ、さすがだな……」
ほら、やっぱり引かれてるよ。
「あ〜、この前と違う女の子だあ〜〜〜」
「ああ」
「アルくんのスケコマシ〜〜〜〜〜〜。浮気者ぉ〜〜〜〜」
「そういうのじゃないから」
いきなり始まった親子漫才に、リンドワースさんは完全に引ききっている。
「この人はリンドワースさん。二人でカーチャンへのプレゼントを作ったから、それを届けに来たんだよ」
「えええええ。アルくんからのプレゼント〜〜〜〜!!!! やったあああああ!!!!」
「いや、だから、二人からのプレゼントだって、話聞けよっ!」
「ねえ、それってこの前のよりスゴいヤツ???」
前回の帰省時にはカーチャンをモデルにしたガラス像をプレゼントして、いたく喜ばれた。
「ああ、スゴイヤツだ。バッカス様からも『これならカーチャンが喜ぶ』ってお墨付きだよ」
「あああ、だからか〜〜」
「ん???」
なんか納得した様子のカーチャンだが、俺にはどうしてだか分からない。
「まあ、それはいいって、いいって」
と誤魔化すカーチャン。
「それより、新しい彼女の紹介してよ〜」
「だから、違うって」
「え〜、やっぱこの前のニーシャちゃんが本命?」
「それも、違うッ!!!」
「えええ???」
「ここは私から挨拶致します――」
俺たちの埒が明かないやり取りに堪えかねたのか、リンドワースさんが割って入ってくる。
「お初にお目にかかります、リリア殿。私はエノラ師の弟子の鍛冶師でリンドワースと申します」




