259 リンドワースと共同制作10
「あっはっは。こりゃええで。アル坊はおもろい事言うなあ。こりゃ、完全にプロポーズやで。ニーシャとかいう嬢ちゃんに聞かせてやりたいなあ」
大盃を傾けながら、バッカス様は上機嫌だ。
というか、シリアスな場面に乱入して来て、空気を撹拌して、ムードをぶち壊すのやめてもらえませんか?
「リンドの嬢ちゃん、せっかくの告白もバッサリとフラレてもうたなあ」
「……はい、残念です」
「でもあんま落ち込まんでええで」
「なんでですか?」
「アル坊は今はまだ小生意気な坊主じゃが、そのうち大きな男になるで。世界を股にかける大きな男にな」
「大きな男……」
「ああ、女の一人や二人、十人や二十人、それくらいでガタガタ抜かしたりせん、大きな男にな」
たしかに「英雄色を好む」とは言うけど、俺のことどんな女ったらしだと思ってんだ?
「十人や二十人……それだったら、私もその中の一人に……」
リンドワースさんは顔を赤くしたままブツブツとつぶやいている。
「私の枠は空いてますか?」
「おお、まだ空いておるわ。なんだったら、ワイがねじ込んでやるけえ、安心せいや」
「本当ですか? ありがとうございます」
「ええでええで。ワイは可愛い女の子の味方やからな」
ナナさんとバッカス様も小声でヒソヒソと話し合っている。
「なあ、アル坊。アル坊はセレスちんの信徒やろ?」
「ええ、先日なりました」
この世界には十二柱の神々が存在する。
一柱は今、目の前で呑みながら喋っている、見た目幼女のバッカス様。火と酒の神様だ。
もう一柱、俺が会ったことがある、というか育ててもらった姉のような存在で、俺の初恋相手である神様――それがセレスさん。愛の女神だ。
それぞれの神様を信仰する者を信者と呼ぶが、その中の一部、より強い信仰心を持つ者に信徒と使徒と呼ばれる存在がある。
信徒とはその神への信仰が厚く、信仰の象徴たる証を神に捧げた者のことだ。
そして、使徒は信徒の中で際立った貢献をなした者のことだ。
身近な例で言うと、俺がセレスさんの信徒で、ビスケとリンドワースさんがバッカス様の信徒。
カーチャンがセレスさんの使徒で、俺とリンドワースさんの鍛冶の師匠エノラ師がバッカス様の使徒だ。
俺は先日の里帰りの際に、セレスさんに今までの感謝の気持を込めてセレスさんをモデルにしたガラス像をプレゼントした。
特に意図はない気軽な気持ちだったのだが、それが信仰の証を捧げたことと見なされ、信徒と認められたのだ。
「もちろん、セレスちんの教義は知っとるな?」
「ええ。もちろんです『すべてを愛せよ』。汎愛――それこそがセレスさんの教えです」
「だったら、女の十人や二十人、大きな気持ちで受け入れてやらんかい。器量を見せえや」
「器量って……」
いくらなんでも限度があるだろう。
それに、俺はまだ恋愛というものすら分かっていない。
そんな俺にハーレムを作れっていう神様って……。
「まあ、ええわい。ちゃっちゃっと続きやって、早よ仕上げんかい」
「あっ、ああ、そうだった。アル、再開するぞ」
「ええ、そうしましょう」
散々に引っかき回さしたバッカス様がそれを言うかと思ったけど、本人の気持ちが変わらないうちに、さっさと再開しよう。
まだまだ、完成まではいくつもの工程が残っているからな。
圧縮と合接の繰り返しで、ひと塊の玉鋼球が出来上がった。
ひと抱えほどの大きさであるが、その重さは360kg。
これを大剣の形に打ち出していくのだが、その前にもう一つやらなければならない工程がある。
――魔ならしだ。
「じゃあ、魔ならしはアルにやってもらおうか」
「えっ、俺ですか? 良いんですか?」
「魔ならしはアルの専売だろう。さすがの私も魔ならし一万回などという狂気の沙汰はやったことがない。ここはアルに譲るのが懸命な選択だろう」
「そうですか。譲って下さってありがとうございます。それでは、俺がやりますね」
「ああ、任せたぞ。心配はしていないが、最高の魔ならしを期待しているぞ」
「ええ、任せて下さい」




