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248 休日2日目12:ハイエク伯爵7

「それで、今後はご子息の躾をどうするおつもりですか?」


 俺はようやく本題を切り出した。


「…………」


 伯爵は考え込む。

 ここで俺の機嫌を損ねてはならぬと、必死で考えているようだ。

 そこで俺は助け舟を出す。


「こちらはご子息に自害させよとか、ご子息を放逐せよとか、そのような要求をするつもりはありません」


 自害、放逐の単語にクソガキが震え上がる。

 ようやく、事態の深刻さを理解したようだ。


「伯爵にはご子息を立派な一人前の貴族となるよう躾けていただきたいのです。お分かりいただけたでしょうか?」

「わっ、分かりました。ジョンは騎士団預かりにします。ちゃんと一人前になるまで、帰ってくるなと申し付けて送り出します。それでよろしいでしょうか?」

「えええっ!? 父上ッ、それはどうか――」

「うるさいッ。お前は黙ってろッ」

「痛ええっ」


 最後、ゲンコツが落ちる。

 いくらにぶい伯爵でも、これだけ誘導してあげれば正解にたどり着くことができるようだ。


 騎士団預かり。

 騎士団による強制人格矯正コースだ。


 大人でも逃げ出すような厳しい訓練と鉄拳制裁。

 二十四時間、年中無休で騎士団員と生活をともにし、甘ったれた人格を叩き直し、上官への絶対服従と命令厳守を骨身にしみ込ませる地獄のコースだと聞いている。

 どんな荒くれ者でも、甘やかされたボンボンでも、性根を入れ替えて真人間に生まれ変わること間違いなしとの保証付き。


 以上、フィオーナの護衛騎士から聞いた話だ。

 聞く限りでは、カーチャンの修行より遥かに楽そうだと思ったが、このクソガキにとっては騎士団預かりが限界だろう。

 カーチャンの修行を受けさせたら、間違いなく初日で死ぬからな。


 ともあれ、予想していた答えに俺は満足した。

 クソガキは魂が抜けたような顔してるけど……。


「そうですね。そこら辺が落とし所でしょう。ご子息を騎士団預かりにすることで、伯爵は父親としての務めを果たした。我々はそう判断致しましょう」

「では――」

「それでは、最後に伯爵に貴族としての責任をとってもらいましょうか」

「えっ!?」

「当たり前でしょう? ご子息は伯爵家の名前を出して、我が商会に絡んで来たのです。そうである以上、ハイエク伯爵家としてケジメを取ってもらうのは当然のことでは?」


 家名を出して、相手が従えばそれで良し。

 そうでなければ、当主は相応の責任を取らねばならない。

 貴族が家名を出すというのはそういうことだ。


 クソガキは家名を名乗った上で絡んできた。

 家名という権力を用いて、相手に要求を飲ませようとしたのだ。

 それに従う事は、ウチの商会がハイエク伯爵家に屈した事を意味する。

 ウチの商会が舐められないためには、ここできっちりとオトシマエを付ける必要があるのだ


「…………分かりました。賠償金をお払いすればよろしいでしょうか? …………チッ」

「ヒッ……」


 伯爵は舌打ちとともにクソガキを睨みつける。

 とても親が子に向ける視線ではなく、クソガキは縮み上がっている。


「いえ、それには及びません。我が商会は現在、全国展開を行っているところです。具体的に言えば、冒険者ギルドが存在する街すべてに出店中で、それは一ヶ月以内に完了するでしょう。もちろん、伯爵領にも5軒ほど出店させていただいてます。ご存知ですか?」


 伯爵は首を横に振る。

 予想通り、そんなことすら知らなかったようだ。

 伯爵が内政を部下に投げっぱなしだという情報もこちらで掴んでいる。

 どうせ、さっきの役人の報告も適当に聞き流していたのだろう。


「向こう10年間、当商会の商いに対して税を免じていただく。それで手を打ちましょうか?」

「…………その程度でよろしいのでしょうか?」


 ポーカーフェイスの出来ない伯爵は、頭の中で必死に算盤そろばんをはじいたのが丸分かり。

 伯爵が思っていたより遥かに軽い処分にひと安心している。


 だが、伯爵は大きな計算違いをしている。

 伯爵は普通の商会の商いを想定しているんだろうが、ウチの支店から上がる利益はその何十倍。


 後からそれを知って後悔するだろうが、こっちの知った話ではない。


「ええ。伯爵様の顔を立ててそれで手を打つことにしましょう」

「分かりました。免税の件、約束致しましょう」

「では、こちらにサインを」

「随分と準備がよろしいのですな…………」

「ええ、それが商人として生きるすべですので」


 10年間の免税を誓う契約書に伯爵がサインを記した。


「これで一件落着ですね。今回の件に関しては今後一切追求しないことを約束しましょう」

「…………ふぅ」

「ところで――」


 一安心と伯爵の気が緩んだところで俺が切り出すと、伯爵はあからさまに動揺した。

 あまりの小物っぷりに、むしろ、可哀想になってくる。

 だが、本題はこれから。

 ここまでは全てそのための布石だ。

 地獄への一本道はこれから始まるんだ――。

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