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246 休日2日目10:ハイエク伯爵5


「話は出来るようだな。俺からの仕返しはこれで終わりだ。分かったか?」

「はっ、はいっ」


 伯爵の伯爵の顔に安堵の色が浮かぶ。

 これで終わったと安心しているようだが、安心するのはまだ早い。

 これから、第2ラウンドの始まりだッ――。


「じゃあ、本題に入ろうか?」

「えっ!?」

「えっ、じゃねえよ」


 予想通り伯爵が驚いているが、俺は気にせず話を続ける。


「そこに伸びているクソガキのことだ。アンタの息子だろ?」

「ジャン!?」


 ようやく、隣で息子が失神していることを思い出したようだ。

 父親と同じく、クソガキも【雷撃ライトニング】で叩き起こす。


「ぎゃあああ」


 意識を取り戻したクソガキは、慌てたように辺りを見回し、伯爵の存在に気づいた。


「父上ッ!?」

「貴様ッ、一体なにをやらかしたんだッ!」

「ぐわっ」


 伯爵はクソガキを力いっぱい殴りつける。

 息子の心配よりも、自分の身が可愛いか……サイテーな親だな。

 クソガキがこんな風に育ったのも納得だ。


 いきなり殴られたクソガキは状況が飲み込めずに唖然としている。

 だが、俺の存在に気づくと――。


「あっ、さっきの店員。貴様ッ、どういうことだッ」

「オマエは黙ってろ――【魔力拘束マナ・バインド】、【沈黙サイレンス】」


 クソガキの身動きを封じ、しゃべれないようにする。


「まあ、ご察しの通り、アンタのクソガキが色々とやらかしてくれたんだ」


 クソガキを無視して、伯爵に語りかける。


「最初は俺の仲間に因縁をつけ、二度目はウチの店で行列を無視して割り込もうとした。どちらも、貴族であることを笠に着た横暴な振る舞いだった。それでも、二回目までは穏便に済ませた。まだ子どもだし、更生の余地はあると思ったからな。お付きの騎士のフレデリカにちゃんと躾ける様に伝え、それで見逃した。なあ、クソガキ、思い当たる節はあるだろう?」


 クソガキの顔を見る。

 図星を指されたって顔だ。

 フレデリカはちゃんと説教したのだと分かる。

 だが、クソガキはそれを聞き入れなかったのだ。


「そして、今日、三度目だ。ウチの店に乱入して、我が物顔で振るまい、それだけでなく、部下に命じて神聖なるセレス像を盗み出そうとした。これは立派な窃盗だ。衛兵に突き出しても良いんだぞ」


 まあ、そんなことするつもりないけどな。

 衛兵に突き出したところで大した金にならん。

 それだったら、この伯爵からたんまりとせしめた方が得だ。


「済まなかった」


 伯爵が頭を下げて謝罪する。

 だが、その顔から感じられるのは謝意ではなく、屈辱だ。

 握りしめた両手がプルプルと震えてる。


 伯爵は俺の力を恐れ、この場をやり過ごすためにイヤイヤながら頭を下げているだけだ。

 貴族至上主義に染まった伯爵にとって、平民相手に頭を下げるのは耐え難いほどの屈辱だろう。

 本心はちっとも反省していない。

 そんな形だけの謝罪で許すわけがない。

 伯爵には自分の立場というものを、しっかりと理解してもらう必要がある。


 暴力で脅すのはお終いだ。

 伯爵に心から謝罪してもらうために、俺は態度を切り替える。

 ここからはノヴァエラ商会副会頭としての俺の出番だ。


「頭を上げて下さい、伯爵」


 頭を上げた伯爵は笑顔を浮かべる俺を見て、ホッと安心している。

 これからが本当のオトシマエだとも知らずに。


「遅くなりましたが、自己紹介がまだでしたね。私は迷宮都市パレトに店を構えるノヴァエラ商会副会頭のアルと申します。伯爵は当商会をご存知でしょうか?」

「いや……」


 俺のいきなりの変貌に伯爵は戸惑っているようだ。

 伯爵がウチのことを知らないだろうことはニーシャの調査で把握済み。


 ニーシャの話によると、貴族には2つのタイプがいる。

 ひとつ目は中央に出て権謀術数の中に飛び込み、自分の権力基盤を強めようと奔走する上昇志向の貴族。


 もうひとつは、自分の領地に篭り、領内で権力を振りかざす貴族。

 自分の領内では最高権力者として振る舞えるから、臆病で自己顕示欲の強い者はこちらのタイプだ。


 もちろん、ハイエク伯爵は後者。

 領地に篭もりきり、中央の情報には疎いし、貴族が集まるパレトのオークションにも参加しなかった。


 それに、もしウチのことを知っていたら、パレトでダンジョンに潜っているクソガキに、ちゃんと釘を刺しているはずだ。

 その事からも、伯爵がノヴァエラ商会のことも知らないと推測できる。


 だが、俺はそんな思いは顔に出さず、一旦謙遜してみる。


「まだ立ち上げたばかりの弱小商会ですからね。伯爵がご存じないのも当然でしょう」

「あっ、ああ、最近は領内の事で手一杯でな。世情に疎くてスマンな」

「ええ、お気になさらず。ところで――」


 俺は一枚目の切り札を切る――。

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