24 ファンドーラ商会1
ニーシャとの共同生活が始まってから数日後。
この数日間、俺はひたすらポーションと容器を生産していた。
ファンドーラ商会に卸す2万本を確保するためだ。
ポーションづくりの方は魔力を駆使してやったので、比較的早く終わった。
【虚空庫】に入っていた収穫分を半分以上使いきって、初級回復ポーションに変えておいた。
ダイコーン草はポーション以外に使い途がないからね。
おかげで、2千本分のポーション・プールが…………数えるのがめんどくさくなるほどいっぱい出来上がった。
なにせ、家一軒分のダイコーン草があったからね。
それでもまだまだダイコーン草は残ってるんだから、我ながらやり過ぎたとちょっと反省。
時間がかかったのは容器づくりの方だ。
蓋はコルク製で、初級回復ポーション以外にも汎用性が高いから、自宅から山ほど持ってきたヤツを使用した。
コルクボードを切り抜くだけだから、わざわざ自作したいほどのものじゃないしね。
容器作りに時間がかかったのは炉の大きさのせいだ。
俺が自宅から持ってきた携帯炉では、いくら魔法を駆使してミスリルパイプを増やしても、1時間に千本が限界だった。
おかげで、3日間容器づくりにかかりきりだった。
とはいえ、作っている最中は魔法管理をするだけで、手は空いていた。
だから、俺はせっかくの時間を有効活用すべきとおもい、余っているガラスで彫像作りに勤しんだ。
全長20センチくらいのガラス製セレスさんの像だ。
モデルがセレスさんなので、正しく神像だ。
宗派によっては「神像は冒涜的」とのことで、禁じられてるところもある。
だけど、セレスさんのところは緩いから問題ない、本人がゆるゆるだからね。
教会自ら、セレスさんの像や絵画を売り出しているくらいだ。
俺は空き時間を利用して、神像作りに励んだ。
赤熱しているドロドロのガラス塊を【空圧】で大まかに変形させていく。
そして、細部まで丁寧に【空圧】と【空斬】で整えていくのだ。
仕上げは錬成魔法の【硬質化】で固くする。こうすれば、普通のガラスとは違って、ちょっとやそっとじゃあ傷つかない硬質ガラスに変容する。
こうして出来たのがセレスさん像が3体。
それと、オマケで作ったカーチャン像1体。
セレスさんは腕を胸の前で組んで、祈りを捧げているポーズ。
カーチャンは剣を構えて、これから攻撃に移ろうっていうダイナミックなポーズ。
生まれてからずっと見てきた二人だから、本人そっくりに仕上げることが出来た。
1体ずつは今度帰省した時に、本人たちに渡そうと思う。
残る1体のセレス像はどうしようか――そう思ってニーシャに尋ねてみたら、
「お金に変えるんだったら、ファンドーラ商会のオークションね。ファンドーラ商会にも恩を売れるし。それか、教会に持って行くっていうのも手ね。教会と結びついておけば良いことあるしね」
だそうだ。
うーん、どうしよう。
商会か、教会か。
まあ、焦るわけでもない。
じっくりと考えておこう。
そんなわけで時間はかかったけど、ポーションも容器も問題なく用意することができた。
そして、今日、俺とニーシャはファンドーラ商会を訪ねていた。
ちなみに二人とも普段とは違う服装だ。
大きな商談に相応しいとニーシャが認める格好に着替え済みだ。
訪問の目的はオークションに出していたタイラント・グリズリーの毛皮の売却益の受け取りと、初級回復ポーション2万本の納品だ。
ポーション2万本は調合ギルドでの鑑定済み。
コルク蓋と瓶を覆うようにシールがされている。
ギルドが品質を保証した印だ。
このシールも魔道具で、シールを剥がして貼り直すことはできない。
だから、中身を入れ替えるイカサマはできない。
瓶自体に穴を開けて――って方法で入れ替えることは可能だけど、初級回復ポーションでそこまで手間を掛けても大した儲けにならない。
高価なポーション類はそういうのも防ぐ高級な封印がなされるそうだ。
鑑定費用は1本20ゴル。
たかが20ゴルだけど、それが2万本だから、総計40万ゴル。
ギルドに売却した千本の儲けである50万ゴルの大半が飛んでいった。
2万本も鑑定を依頼したら、係のギルド員は引きつった顔をしていたが、それが彼らの仕事なのできちんと鑑定してくれた。
くれぐれも一度に市場に流さないでくれって念を押されたけどね。
ファンドーラ商会に到着した俺たちは慇懃に遇され、応接室へと案内された。
やはり、大手商会、調度品もセンスがよく熟練の職人による品々だとすぐに分かる。
ソファーに座って辺りを眺めていると、一人の女性が入ってきた。
セーラー服と長いソックスの、あの女性――スティラさんだ。
黒一色のセーラー服とニーソックス。
それと対照的な胸元の白一点なリボン。
整ったお人形さんのような顔立ち。
長く黒い艷やかな髪はツインテールにまとめられている。
今日もセーラー服とニーソックスに挟まれたその空間が輝きを放っている。
「お初にお目にかかります、ファンドーラ商会副会頭のスティラと申します」
「ニーシャ商会のニーシャと申します」
「アルです。この前会いましたよね?」
「あら、あのときの」
良かった。ちゃんと覚えてくれてた。
「どちら様でしょう?」とか言われたら、凹むところだった。
「こんなに早くお会いできるとは思ってもいませんでした」
「それは全部ニーシャのおかげだよ。彼女と出会えたから、スムーズに行ったんだ」
「そうですの。いい出会いでしたのね」
ニコリと上品な笑みを浮かべるスティラ。
都会的な洗練された笑みだった。
「まずはタイラント・グリズリーの件から片付けてしまいましょう」
スティラさんが一枚の紙と小袋を差し出してくる。
「オークションでのタイラント・グリズリーの落札額が1,250万ゴルです。そこから税と手数料を引いた金額が980万ゴルになります。ですが、我が商会が受け取る仲介料を20万ゴル減らして、キリの良い1千万ゴルに致しましょう。そちらの小袋に入っておりますので、ご確認をお願いします」
ニーシャが書類に目を通し、小袋から白金貨を取り出す。
全部で10枚。
ちょうど千万ゴルだ。
「はい、問題ありません。ですが、値引きしていただいて構わないのですか?」
「今後、当商会との繋がりを大事にしていただきたいと思いまして。そのための投資ですので、お気遣いなく」
「それでは、ありがたく頂戴しておきます」
「確認出ましたら、署名をお願いします」
ニーシャは領収書に署名をする。
「続いて、ポーションなのですが、本日はお持ちいただけたのでしょうか?」
俺たちは手ぶらでやって来たので、スティラさんが疑問に感じるのも当然だろう。
「ええ、【虚空庫】に入ってますので、問題ありません」
「あら、【虚空庫】までお持ちなのですか。羨ましいことです」
「ただ、量が量ですので、ここで出すにはちょっと」
「それもそうですね。では、場所を移しましょうか」
スティラさんに連れられ移動する。
ついたのは倉庫のような広い部屋だった。
そこには一人の男性がスタンバイしていた。
倉庫には色々な木箱が山積みになっている。
だけど、まだまだスペースは十分。
ここなら、200箱出しても問題ないだろう。
「では、こちらにお出ししていただけますか」
「はい、それでは」
ニーシャが次々とポーション箱を積み上げていく――。
「以上になります」
「確かに200ケースありますね。念の為、担当の者が確認いたします。それまで、先ほどの部屋でお話でもいかがでしょうか」




