237 休日2日目1:店番
翌日、俺は早朝から店のカウンターで、店員の女の子たちの仕事をのんびりと見守っている。
昨日、アイリーンさんとの意味不明な会食で精神をゴリゴリと削られた俺は、その後なにもする気が起きなかった。
酒でも呑まなきゃやってられん。
そう思い、『穴ぐら亭』に向かったのだ。
リンドワースさんとナナさんと3人で飲む酒は最高だった。
精神を削られることもなく、鍛冶という共通の話題で大いに盛り上がったのだ。
話が通じるって嬉しいな。アイリーンさんとは正反対だ。
ちなみに今は開店に向けて、準備しているところだ。
俺はあらためて、店舗運営の大変さを知った。
店内清掃。
不足している商品の補充。
商品の陳列を整える。
お釣り用硬貨の確認。
…………。
やることはいっぱいだ。
俺も手伝おうかと思ったんだけど、俺は店の営業についてなにも知らない。
逆にジャマになりそうなので止めておいた。
ちなみに、店長であるルーミィは今日は店番はお休みだ。
自由に過ごしていい日なのに、ニーシャに付き添って、新規出店手続きを見学している。
早くいろんな仕事を覚えたいんだそうだ。
休みを持て余している俺が言うのもなんだが、ウチでゆっくり休めばいいのにな。
テキパキと働いている店員の女の子たちは4人。
他にもう一人いるんだけど、その子は今日は休日だ。
一人ずつ順番に休みを取るローテーション。
女の子たちは「こんなに休みがあるなんて!」と感激していた。
ニーシャから聞いたが、ウチは一般的な店舗より取り扱い品目が多い上に、来客数も桁違い。
目が回るような忙しさだそうだ。
その分、待遇も破格にしている。
休みが多いことに加え、給与も相場の二倍。
だから、大変でも頑張れるのだろう。
店員の子たちは種族も年齢もバラバラ。
普人種だけでなく、獣人にハーフエルフの子も。
それに女の子と言ったけど、俺くらいの子どもがいるオバ――お姉さんもいる。
共通点はみな優秀なことだ。
だてに高倍率の審査をくぐり抜けていない。
立ち上げメンバーのように特別な才能は持っていないが、店員としての能力は一流。
そんなこんなで開店準備も終わり、リーダーの女の子が発した「開店します。今日も一日がんばりましょう」の元気な掛け声とともに、慌ただしい一日がスタートする――。
◇◆◇◆◇◆◇
「おっ、アルじゃねえか」
朝のラッシュが終わり来客が減ってきた頃、6人組の冒険者たちがやって来た。
クラン『鋼の盾』の面々だ。
声をかけてきたのは2メートルの大男。
リーダーのオーマンだ。
彼以外にも、エルフで射手の女性。
以前、杖を作った魔法使いの女の子、ミラ。
他の3人も見覚えがある。
「ちょうど良かった。アルに用事があるんだよ」
オーマンがそう言うと、ミラが前に出てきた。
「アル、ありがとう。この杖は凄すぎる。二段階くらい強くなった。本当にありがとう」
「武器は使ってもらってなんぼだ。役に立っているようで俺も嬉しい。これからも大事に使ってやってくれ」
「うん!」
ミラは嬉しそうに杖をギュッと抱く。
眩しい笑顔にちょっとドキッとした。
「それで、今日はどういう用だ? 連れ立ってお礼を言いに来たわけじゃないだろ?」
「ああ。製作依頼だ。ミラ以外の俺たちに武器を作ってくれ」
「なるほど、どれくらいの武器を作ればいいんだ?」
「30層ボスだ。アルの武器があれば、間違いなく勝てる」
オーマンは自信満々に言い切る。
無理はしていないようだ。
彼らなら大丈夫だろう。
「分かった。依頼を受けよう。予算は大丈夫か? ミラの杖を安く売りすぎたってボスに怒られたからな。ぼったくる気はないが、だいぶ高くなるぞ?」
「ああ、それなら心配ない。20層台で乱獲したからな。ミラの範囲魔法でいっぱい稼げた。アルのおかげだ」
「それは良かった。じゃあ、具体的な話に入ろうか――」
オーマンたちから受けた製作依頼は以下の通りだ。
オーマンの大剣。
エルフの弓。
斥候のダガー。
剣士の直剣と盾。
ヒーラーの杖。
俺がメインで作っている武器は20階層まで通用する武器だ。
30層ボスを倒す武器となると、ストックがないから、一から作らなきゃならない。
いわゆる、オーダーメイドだ。
ミラの杖同様、彼ら専用の武器を打つわけだ。
「なるほど分かった。詳細を詰めたいから、ちょっと裏庭に行こう」
「ああ、素振りかなんかか?」
「まあ、そんなもんだ」
オーマンはすぐに合点がいったようだ。
鍛冶師が一点物を作る時、現在依頼主が使っている武器ほど有用な情報をもたらす物はない。
だから、その武器を実際に手にとって調べるし、場合によっては素振りや試し切りをしてもらう。
そして、もうひとついい確認方法がある。
俺はそれを昨日リンドワースさんから学んだんだ。




