234 休日1日目8:アイリーンと昼食
強引に腕を組まれ、半ば連行されるように連れて行かれたアイリーンさんとの昼食、もとい、デートだったけど――。
色々とおかしかった…………。
連れて行かれたのはパレトでも一、ニを争う格式高い高級店だった。
お値段はそれに見合ったものなんだろうけど、ファンドーラ武具店の店長である彼女にとっては、なんてことはないのだろう。
ちなみに支払いはアイリーンさん。
俺は割り勘で良いと言ったのに、どうしてもアイリーンさんが奢ると言って聞かなかったのだ。
「デートで年上が奢るのは当たり前のことよ」と言っていたが、それはまあ良い。考え方は人それぞれだ。
それを恩に着せるような人じゃないのは分かったし。
アイリーンさんが予約を取ったという席は狭い個室の席だった。
この店は人気店で一ヶ月前から予約が埋まっているって誰かから聞いたことがある。
今日のデートが決まったのは今朝の話だ。
それでよく席が取れたものだ。
なんかしらのコネを使ったんだろう。
アイリーンさんは「凄いでしょ?」と得意顔だったけど……。
まあ、そんな人気店で当日予約で個室が取れたところまでは良しとしよう。
ただ――そっから先が問題だった。
案内されて、個室に入り俺はビビった。
――狭い。
狭いのだ。
高級店の個室にしてはありえないくらい狭いのだ。
テーブル、椅子、座席、以上。
というくらい、ありえない狭さだった。
調度品は高級な物なのに、肩を寄せあって飲む場末の酒場みたいにギュウギュウに押し込まれ、調度品が「俺の居場所はここじゃない」と文句を垂れそうな狭さだった。
座席は一人がけの椅子ではなく、シートタイプ。
一人で座るにはゆとりがあるけど、二人がけには狭すぎる――中途半端な幅だった。
なんでこんな設計にしたんだ?
余ったスペースを無理やり利用したのか?
高級店がそんなことするか?
嫌な予感がする……。
この部屋の設計意図が分からず立ち尽くしていた俺に、アイリーンさんが促してきた。
「さあ、早く座りましょう」
「え、ええ。お先にどうぞ」
カーチャンに叩きこまれたおかげでレディーファーストは知っている。
俺がアイリーンさんに譲ると――。
「ありがとう。若いのに紳士なのね」
「ええ、骨身にしみるまで教育されたので」
「フフッ」
この場合、「骨身にしみる」というのは、文字通りの意味だ。
俺が上手くできないと、カーチャンは骨と身に物理で叩き込んでくれた。
おかげでしっかりと覚えられたことを恨ん――もとい、感謝している。
これも百歩譲って良しとしよう。
狭い個室にもなんらか理由があるのだろう。
狭いけど座れないほどではないし……。
いきなり、アイリーンさんは俺の腕をガッシリと掴んだ。
もの凄い力で。
熟練の冒険者が獲物を捕らえて離さないかのごとく。
アイリーンさんって商人だったよな?
俺が混乱していると――。
「気遣いはありがたいわ。でも、アルくんの席はこっちなの〜」
強い力でシートの奥に押し込められる。
女性相手に抵抗するのもなんだな、と考えているうちに、気がつけば俺はシートに座らされていた。
「お隣、失礼しま〜す」
「えっ?」
アイリーンさんが躊躇いなく俺の隣に腰を下ろした。
「えっ、ちょっ」
「いいからいいから。ちょっと奥に詰めてね〜」
「はっ、はい……」
狭いシートに並んで座る俺とアイリーンさん。
ただでさえ狭いのに、アイリーンさんはこれでもかと言わんばかりにその身体を押し付けてくる。
間に生卵を挟んだら潰れてしまうほどの圧だった。
なにかがおかしい……。
この時点で俺は異常に気が付いていたが、逃げ出すにはもう遅かった。
シートの奥に押し込まれ、唯一の逃げ道はアイリーンさんに塞がれている。
――これからどうなってしまうんだ?
不吉な予感に襲われながら、俺は向かいの空のシート席をぼんやりと眺めることしか出来なかった――。
席についたら、すぐに飲み物が運ばれてきた。
高級ワインボトルだ。
「じゃあ、乾杯しましょう」
「ええ」
ワインが満たされたグラスを掲げる。
不安に感じていた俺は空いている反対の手を机の下に。
念の為に、【虚空庫】からこっそりと取り出した鑑定球を2つ起動させる。
――うん。ワインもグラスも異常なし。
次いで【魔力探知】で調べても、魔力的な仕掛けは施されていない。
以前、店の誰かから、「女性の飲み物に一服盛る不埒な輩がいる」と聞いたことがある。
だから、「トイレなどで席を立つ際にはグラスを空にしてから」とも。
そのときは俺には関係ない話だと思っていた。
だけど、その話が頭のすみっこに残っていたから、一応チェックしてみたのだ。
安全が確認されたので、少しホッとする。
毒にしろ魔法罠にしろ、大抵のものには耐性がある。
なにかされても大事にはならないだろう。
違和感を覚えたら警戒は最大限に。
それが生き残る術。
数多の死線をくぐり抜け学んだことだ。
疑い過ぎな気もする。
だけど、なぜだが分からないが、さっきから俺の危機センサーが警鐘を鳴らしまくっているのだ――。




