231 休日1日目5:リンドワースと打ち合わせ4
「ちなみにどれくらいの量が必要なんですか?」
「そうだなあ…………『最高傑作』のときは10kgの鋼鉄インゴットを8個使ったな。16倍圧縮で刃渡り2mの大剣を作り上げたんだったな」
通常、刃渡り2mの鋼鉄の大剣は重さ5kgくらいだ。
リンドワースさんは鋼鉄を16倍に圧縮することによって、80kgの重さを与えたわけだ。
うん。考えただけでムチャクチャだ。
まず、80kgの大剣を振れるっていう条件だけで、ほとんど全ての人間が脱落する。
その上、その大剣で戦える人間となればほぼ脱落し、残るのは10人前後。
しかし、その10数人でも、他の武器を使って戦った方が強い。わざわざこの大剣を使うメリットはない。
この大剣使った方が強くなる。その例外と言ったら――カーチャンくらいしかいない。
最初からカーチャンが使うことを想定して作ったなら、なんの問題もない。
しかし、リンドワースさんは誰が使うかを考えず、ひたすら重くて強い武器を作り上げたのだ。
使い手のことをまったく考えていない武器。
エノラ師が怒るのも当然だ。
対して今回は始めからカーチャンが使うことを想定している。
カーチャン専用武器。
カーチャンが『最高傑作』を使った感想は「もっと重い方がいい」。
だったら、極限まで重くする。
カーチャンが手加減せずに振るえる剣を――。
「今回打つのは、リリア殿が使うことを前提としている。だから、この前アルにアドバイスしてもらったように形状を変えようと思う」
――刃を厚く。
――剣先がとんがっている必要もない。
――要するに分厚くて細長い板に持ち手をつければいい。
「鋼鉄を圧縮せずに打ったら8kgくらいになる大剣。それを打つ予定だった。圧縮は20倍に増やす。だから、10kgの鋼鉄インゴットを16個。そのつもりだったんだが――」
リンドワースさんの元々の計画だと160kg。
これだけでも『最高傑作』の倍の重量だ。
それが玉鋼になったら、どうなるんだろうか?
「形状は今言ったのと同じにしよう。それでも玉鋼の比重は鋼鉄の2倍。圧縮せずとも16kgだ。これを20倍圧縮で作ると――360kg。10kgのインゴットが36個必要になる。足りるか?」
「ええ、余裕です」
360kg。
『最高傑作』の4倍の重さだ。
こんな馬鹿げた物を作るとか、狂気の沙汰としか思えない。
だけど、その使い手はもっと馬鹿げているから、なんの問題もないな。
「アタマオカシイですね」
「ああ。自分でもそう思う。ホントに大丈夫なんだろうな? いくらリリア殿でも重すぎないか?」
「ええ。あの人に常識が通じたことは14年間で1回もなかったから大丈夫ですよ」
「はははっ。こんなイカれたことにつき合ってくれるのは、アルくらいだ。本当にありがとうな」
「いえいえ、カーチャンに育てられたせいで、俺も非常識らしいですから」
いいな。
一人で物づくりするのも良い。
だけど、誰かと一緒に作るのも、また良い。
「ところで、アルは玉鋼で武器は作らないのか? どうせ山ほど持っているんだろう?」
「最初は俺も作ろうと思ってました。良い素材を使って、性能の良い武器を作る。それが良いことだと持ってたんです」
「ほう」
「でも、考えが変わりました。リンドワースさんと出会って、それじゃいけないって教わったんです。今は20層まで通用する武器メインで作ってます。『リンドワースを卒業したらはノヴァエラ』、そう言われるのを目指してるところです」
リンドワースさんは満面の笑みを浮かべる。
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。やっぱ、アルは最高だ。最初に出会ったときから、普通とは違っていると思っていたが、それ以上だったな。やはり、エノラ師の弟子なだけはあるな。姉弟子として鼻が高いよ」
「ええ、師の名を汚さぬよう精進していきます」
「そうだな。私も精進しないとな」
「頑張って最高の剣を打ちましょう」
「ああ、打とう。アルと私で『最高傑作』を超えるヤツをな」
予感がする。
俺とリンドワースさんが協力すれば、必ずそれが実現すると――。
「そうだ。これ、渡しておきますね。本番前の練習に使ってください」
10kgの玉鋼インゴットを渡す。
「いいのかい? 師匠に貰ったやつを私もひとつ持っているぞ」
「ああ、そうでしたね。でも、重たいですし、持って帰るのも面倒臭いので、受け取ってもらえたらうれしいです」
「重たくって、面倒くさいって……。玉鋼だぞ?」
「大丈夫です。いっぱいあるんで。リンドワースさんが持っているので足りなかったら使ってください」
「そ、そうか……。では、ありがたく受け取っておこう。3日後までに腕を磨いておくよ」
「ええ、楽しみにしてます」
「それじゃあ、私は仕事に戻るが、アルは帰るのか?」




