225 フィオーナと通話
タイトルとあらすじ変更しました。
宴が終わり、片付けを済ませて、ベッドに入ったら、予想通りフィオーナから【通話】がかかってきた。
彼女は今、領主邸で休んでいるはずだ。
「おう、どうした?」
「アルの声が聞きたかっただけ〜」
「そうか。聞けてよかったな。じゃあ、おやすみ」
「ちょ、ちょっと、待ってよ〜。切ろうとしないでよ〜」
宴会で散々責められたから、ちょっと意地悪したくなる。
「アルは今、なにしてた〜?」
「ベッドに入って、寝るところ」
「私もベッドだよ。おそろいだね〜」
なにが嬉しいのか、フィオーナは上機嫌だ。
聞いてもいないのに、3泊4日のダンジョン攻略がどうだったか、詳しく説明してくる。
「――へえ、10層までクリアしたのか。順調だね」
「うん。思っていたより簡単だったよ〜」
「まあ、レベル25もあれば苦戦する方が難しいもんな」
「そだねー」
「だからといって、あんま油断すんなよ」
「うん。ライラちゃんからも何度も言われたよ」
「ダンジョンは気を抜いたらいつでも死ねる場所だからな」
「うん、分かってるよ〜」
本当に分かってるのか疑問に思える軽さだ。
まあ、ライラや護衛騎士がついてるから大丈夫だろう。
「それにしても、ライラちゃんスゴいね〜。敵の察知方法とか罠の見分け方とか教えてもらったけど、学校で教わったのとは全然レベルが違ったよ〜」
「そりゃそうだろ。ライラは未踏破層に挑むトップクラス冒険者だぞ。初心者の子ども向け授業と一緒にしたら失礼だ」
「普段は可愛い女の子なのに、ダンジョンに入ると別人みたいに雰囲気が変わるんだもん」
「冒険者ってのはそんなもんだ」
「アルもそうなの〜? この前、助けてくれたときはいつも通りだったけど〜?」
「まあ、俺の場合はあの階層くらいじゃ危険はないからな」
「そっか。アルは強いもんね〜」
「俺だって危険な場所ではちゃんと切り替えるぞ」
カーチャンの場合はむしろ危険になると楽しそうになるけど、あれは人外だから別問題。
「フィオーナもちゃんと危険に敏感になるんだぞ。まだ10層くらいなら安全だけど、潜るほど危険になるんだからな」
「うん。分かった、気をつけるよ〜」
「ちなみにジェネラル・オークはどうだった?」
「余裕だったよ。前に見たときより動きも遅かったから、向こうの攻撃も全部見えたよ〜」
ジェネラル・オークは10層のフロアボスだ。
フィオーナはこの前俺が助けた時に30層フロアボスであるミノタウロスと一度戦った。
その経験が生きているんだろう。
ミノタウロスの速さと強さを体感していれば、ジェネラル・オークなんてザコみたいなもんだ。
「いつかアルと一緒に冒険できたら良いなぁ」
「おう。エンシェントドラゴンと戦えるようになったら、一緒に狩りに行こうぜ」
「……むぅ。そんなの普通の人には無理だよう」
「俺だって普通の人だぞ。普通じゃないってのは、カーチャンみたいなのを言うんだぞ」
「……むぅ。私と一緒に冒険する気ないでしょ?」
「ああ。俺は冒険者じゃなくて、職人だからな」
「……むぅ。もうイイもん」
「ははは」
フィオーナは同年代の中ではトップクラスに強いし、才能も根性も抜群だ。
もし俺が勇者を継ぐ道を選んでいたら、フィオーナと一緒に冒険することもあったかもしれない……。
でも、俺が選んだのはニーシャとともに商会を大きくするという道だ。
残念だけど、フィオーナの願いは敵わないだろう。
まあ、遊びでフィオーナの冒険に付き合うくらいなら構わないが。
「つーか、そろそろ寝なくていいのか?」
「うん。明日もお休みだもん。ライラちゃんと食べ歩きするんだよ〜」
「そっか、友達が出来て良かったな」
「うん。あっ、そだ、良かったらアルも来る?」
「俺は明日も仕事だ」
「……むぅ。私と仕事、どっちが大事なの?」
「もちろん、仕事だ」
「……むぅ。即答した〜。ちょっとは真剣に考えてよ〜」
「お前だって、真面目に訊いてるわけじゃないだろ」
「ははは。バレた〜。大丈夫だよ、重い女になるつもりはないからね〜」
「ここまで軽い王女ってのも問題あるけどな」
「へへぇ〜。アルの前だけだよ〜」
「そこら辺は使い分け上手いもんなあ」
「やった〜、褒められた〜」
「褒めてねえよ」
「えへへへ」
よしっ、完成だ!
俺はフィオーナと通話しながら、【虚空庫】の中で『カートリッジ』を作成していたのだ。
それが今、30分ほどかけてようやく完成したのだ。
まだまだ時間と魔力はかかるけど、フィオーナとの雑談をしながら作るくらいは余裕だ。
付き合いが長いから、なにも考えなくても会話できるし、気を使う必要がないからね。
「こうやってると、アルと一緒に寝てる気がする〜」
「ああ、そうだな」
「もう! もっと嬉しそうにしてよ〜。『俺もフィオーナと一緒に寝てる気がして嬉しいよ』とか、『今度は本当に一緒に寝よう』とか、そういう気が聞いたセリフが聞きたいんだよ〜」
「そういうのがお望みなら、貴族の坊っちゃんを当たってくれ」
「……むぅ」
そんな他愛もない会話をしているうちに、だんだんとフィオーナの返答が途切れがちになり――。
「…………」
「おーい」
「…………」
「寝ちゃったか」
どうやら、会話しながら寝落ちしたようだ。
いつもの就寝時間を大分オーバーしている。
俺もそろそろ寝るとしよう。




