220 ピュアエーテル作り
万物素を神水に溶かすだけでピュアエーテルは出来るはず……そう思っていたのだが。
「なぜ溶けないんだ……」
いくら混ぜても万物素が神水に溶けることはなかった。
なんだろう?
俺には原因が皆目見当つかなかった。
混ぜ方に問題があるんだろうか?
温度が問題なのか?
特別な容器じゃなきゃマズいんだろうか?
色々と原因を推測してみるが、どれも違うような気がする。
なにか根本的なミスをしているんじゃないだろうか?
頭を悩ませながら、容器を【遺物解析】してみて、俺は自分が犯していた過ちに気がついた。
解析結果は以下の通りだ。
――――――――――――――――――
万物素 10g
マナウォーター 40cc
――――――――――――――――――
混ぜ合わさっていないどころか、神水がマナウォーターに変化しているっ!
「あっ!」
そりゃそうだよな。
なんとも初歩的なミスを犯したものだ。
なにも考えずに普通に混ぜるだけじゃあ上手くいくわけがないな。
神水というのは、マナウォーターの一種。
それも極めて不純物が少ない状態のものだ。
ミリアたちの魔術学院の教科書によると、不純物が0.001%以下のものが神水だ。
だから、神水を作る際には不純物が入らないように最大限の注意を払い、慎重にゆっくりとやらなければならない。
カーサはその方法で神水作りを実践してくれたけど、俺はどうやっても再現できず、【虚空庫】の中で作るという力技の方法で解決したのだった。
それだけの慎重な扱いを要求される神水だ。
なにも考えずにかき混ぜたら、あっという間に不純物が混ざりこんで、ただのマナウォーターに戻ってしまう。
初歩的な失敗だ。
でも、すぐに原因に気づけて良かった。
都合が良いことに、失敗の原因が明らかになったとともに、解決策も浮かんだ。
これなら、すぐに次の挑戦に取り掛かれる。
思いつく方法は2つだ。
1つ目は、先ほどと同じように混ぜ合わせるけど、細心の注意を払い、不純物が入り込まないようにする方法だ。
この方法だとそれなりに高度なテクニックが必要とされる。
カーサなら上手くやれるかもしれないけど、俺には自信がない。
上手くいくかもしれないけど、それなりの試行錯誤が必要だろう。
そして、2つ目の方法は【虚空庫】の中で混ぜる方法だ。
神水を作ったときもこの方法でやった。
俺は2つ目の方法を採用することにした。
基本的に【虚空庫】内部は時間が停止していて、中の物は変化しない。
しかし、魔力的に干渉することで、形を変えたり、状態を変化させたりすることが可能だ。
肉を熟成させたり、神水を作り出したり。
結構高度なテクニックで、出来る人は少ないし、消費する魔力もかなり大量だ。
でも、俺は小さい頃からいっぱい練習してきたし、魔力量も困らないだけある。
だから、今回も問題なく出来るはずだ。
まずは、【虚空庫】にテーブル上の万物素を2g取り込む。
次に、【虚空庫】内の神水を8gだけ取り分ける。
そして、その両者を【虚空庫】内で混ぜ合わせるようにイメージし、魔力を注ぎ込む。
「いいぞっ!」
魔力を注ぐにつれ、万物素が神水に溶け込んで行くのが分かる。
俺は興奮しながら、魔力を注ぎ続ける。
だんだんと万物素が溶けていく。
そして――。
全ての万物素が完全に溶けきった。
後は解析して確認だ。
上手くいってくれよ!
――――――――――――――――――
名前:ピュアエーテル
濃度20%、10cc。
――――――――――――――――――
「よしっ!!!」
俺は心の中でガッツポーズ。
しかし、声には出さない。
まだ、ゴールじゃないからだ。
ちゃんと喜ぶのは、『カートリッジ』が完成してからだ。
まだなにか、問題点が残っているかもしれないからな。
後はミスリルケースにピュアエーテルを満杯に入れて蓋をし、魔法障壁で覆えば、『カートリッジ』の完成だ。
念のために、蓋をするところまでは【虚空庫】の中でやってしまおう。
今ので思っていたより多くの魔力を消費したけど、まだ俺の魔力は全然余裕だ。
俺は【虚空庫】を操作し、ピュアエーテル10ccをミスリルケースに注ぎ、蓋をする。
これだけでも、魔力消費はバカにならない。
遺物だからだろうか?
普通のアイテムを【虚空庫】内で操作しても、こんなには魔力消費はしなかったはずだが……。
こんなに魔力を食うんだったら、大量生産は難しそうだ。
なにか、別の方法を考えないといけないかもな。
まあ、それは今後の課題だ。
今は、コイツを完成させちゃおう。
俺はピュアエーテルの詰まったミスリルケースを【虚空庫】から取り出す。
ミスリルケースを持った左手が少し震える。
軽いはずなのに、なぜか、ずっしりと重く感じる。
緊張なのか、興奮なのか――。
俺は深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
そして、最後のプロセスに取りかかった。




