22 プレゼント
「それで、出掛ける前に言っていたプレゼントってコレのこと?」
ニーシャはタイラント・グリズリーの毛皮を指差してそう言った。
「いや、コレはたまたまゲット出来たお土産だよ。プレゼントは他にあるんだ」
「なになに」
興味津々な様子を見せるニーシャ。
俺は【虚空庫】から2つのアクセサリーを取り出す。
「まずはこのペンダント型のアミュレットだ」
七色の魔石が輝くペンダントをニーシャに手渡す。
「護身のアミュレットだ。これを身に着けていれば、大概のダメージは無効化される。それにもしこのアミュレットが作動した際には、俺に通知が来ることになっている。ニーシャのことが心配だから是非身につけてもらいたいんだけど、受け取ってもらえるかな?」
「ええ……ありがとう。本当にもらっていいのね?」
「もちろんだ。ニーシャ専用に作ったからな」
「私専用?」
「ああ、昼間ニーシャの魔力を解析したから、ニーシャ以外の人には効力が発揮されないようになっている。だから、それはニーシャが身につけないと意味がないんだ。他人にとってはただの綺麗なネックレスに過ぎない」
「それでも価値は十分あるわよ。この魔石は極石でしょ?」
「ああ」
「観賞用だけでも、物凄い価値よ。そんなもの頂いて本当にいいの?」
「ああ。ニーシャになにかあって一番困るのは俺だからな」
「ありがとう。じゃあ、受け取らせてもらうわ」
ニーシャは俺の手からペンダントを受け取ってくれた。
「折角だし、アルにつけてもらいたいんだけど。いいかな?」
「ああ、もちろん」
俺はニーシャのからペンダントを受け取り、彼女の背後に回る。
邪魔にならないように、ニーシャは髪を持ち上げる。
剥き出しになった白いうなじにドキッとする。
俺は動揺を隠すように、ひとつ咳払い。
彼女の首元に手を近づける。
ニーシャから甘いようないい匂いが伝わってくる。
よく考えたら、カーチャンやセレスさんを除いて、異性にこんなに接近したのは初めてだ。
そう思うと胸の高鳴りがより一層強くなる。
俺はドキドキしたまま、なんとかペンダントを装着できた。
「どうかしら」
「似合ってるよ」
ニーシャがこちらに見せつけてくる。
ペンダントはニーシャの胸の谷間でキラキラと輝き、とても彼女によく似合っていた。
「ありがとう」とニーシャがフフフと笑う。
「でも、これは仕舞っておかないといけないのが残念ね」
ニーシャはペンダントを服の内側にしまい込む。
「なんで?」
「こんなお宝を首から下げてたら、攫って下さいって言ってるもんよ」
「ああ、そうか」
なるほど、そういう不埒な輩がいるんだよな。
残念なことに。
「それにしても、スゴい魔道具ね」
「そうか?」
「これだけの腕があるんだったら、勤め先はよりどりみどりね」
「まあ、誰かに雇われようとは思わないけどね」
「そうだったわね。だったら早く私たちの店を持たないとね」
「俺たちの店か……」
俺が作り、ニーシャが売る。
「この腕前を埋もれさせておくのは、社会の損失よ」
「そうだな。早く店が持てるように頑張っていこうな」
「ええ」
ニーシャと二人だったら、すぐに店も持てそうだ。
俺一人だったら、こんなにスムースに行かなかっただろう。
ニーシャと出会えて本当に良かった。
「そうだ。お礼を言ってなかったわね」
「あっ、お礼ならちょっと待ってくれ。もうひとつあるんだ」
「まだあるの?」
ドキドキワクワクした様子のニーシャがこちらに詰め寄る。
「ああ、見てくれよ」
俺は【虚空庫】から指輪を取り出して、ニーシャに手渡す。
「指輪? それにしても凄そうね。なんらかの付与がなされているのは分かるんだけど、どんな付与なのかまでは私の観察眼でも分からないわ」
「まあな。擬態用の術式も組み込んであるからな。普通の人には単なる飾り模様にしか見えないだろうな。かなり高度な【魔力解析】を使わないとその正体には気づかない」
「…………。それに、この魔石もスゴいわね」
「ああ、それが魔力タンクになってるんだ」
「そうなの。こんな濃密な魔力、どれだけチャージされてるのよ」
「満タンまで入れておいた。ほら、ニーシャは魔力があまりないだろ?」
「ええ、人並みしかないわ」
「そんなニーシャでも使えるように魔力タンクをつけておいたんだ」
「やっぱり魔道具なのね」
「ああ、便利だと思う機能を3つつけておいた」
「3つも!?」
「ああ」
「…………。アルがなにしてもおどろかない。アルがなにしてもおどろかない。アルがなにしてもおどろかない」
ニーシャがブツブツとつぶやいている。
「説明してもいいか?」
「えっ、ええ」
「この指輪には3つの機能を付与してある。もちろん、ニーシャの魔力以外には使用不可なロックをかけてある」
「うん」
「ひとつ目は【位置捕捉】だ。これはニーシャがどこにいるか常に俺が知ることができる。
オンオフができるから、俺に知られたくない時はオフにしてくれて構わないが、できる限りオンにしておいてくれ」
「ええ、わかったわ」
「続いて2つ目は【通話】だ。これでどんなに離れていても俺と会話ができる機能だ。使い方は後で教える」
「…………」
ニーシャは無言でコクリコクリと頷いている。
「そして、最後が【共有虚空庫】だ。これは俺とニーシャで共有できる【虚空庫】だ。大きさはこの部屋くらい。今後アイテムの受け渡しが多くなるだろうから、あったら便利だよね」
「でも、【虚空庫】って使うのに魔力を消費するんでしょ。私なんかに使えるのかしら?」
「大丈夫。そのための魔力タンクだよ。その魔石に魔力がチャージされてるから平気だよ。さっき言った【位置補足】と【通話】も魔石の魔力で使えるようにしてるよ。もちろん、使えば減るけど、月イチくらいでチャージすれば問題ないよ」
「そう。安心したわ。でも、こんなスゴい魔法を3つも付与するなんて」
「みんな同じ時空魔法だから、比較的簡単だよ。異なる属性を付与するならもっと大変だからね」
「アルが規格外だってことを改めて認識したわ……。でも、ありがとう。こんな凄い物をもらっちゃって、ちょっと後ろめたいわ」
「だったら、貸しってことで。ニーシャの知識と商人の能力で返してよ」
「うん、そうさせてもらうわ」
貸しという形を取ることでニーシャも納得したようだ。
「それじゃあ、この指輪も付けてもらえる」
「ああ、じゃあ左手出して」
「はい」
ニーシャが差し出した左手。
ほっそりとして瑞々しい綺麗な手だ。
その手を取り、指輪を近づける。
女性に指輪を嵌めるのなんて初めてのことだから、緊張してしまう。
ニーシャの顔を見ると、彼女も少し照れているようで顔が赤くなっている。
ドキドキと鳴る鼓動を抑えながら、俺は指輪をはめようとする。
「なんでその指なのよっ!」
「えっ?」
なんでだろうか?
指輪を嵌めると考えた時に、無意識に左手薬指が思い浮かんだんだ。
だから、深く考えずに左手薬指の太さを図ったんだ。
なんで俺はそうしたんだろうか?
「あっ――」
「どうしたの?」
過去のことを思い出す。
たしか、6歳くらいのことだ。
俺がまだカーチャンの恐怖に気づいていない頃の話だ。
俺は初めて自分で作った指輪をカーチャンにプレゼントしたんだ。
その時カーチャンは喜んだ顔でこう言った。
「大切な人からの指輪は左手の薬指につけるのよ」と。
以来、カーチャンは俺があげた指輪を後生大事にその指にはめている。
だから、俺は指輪といえば、左手薬指と思い込んでいたんだ。
「いや、ちょっと昔のことを思い出して」
「どうやら、知らないみたいだから教えてあげるわ。左手の薬指は生涯を共にする相手からの指輪を嵌める指よ」
「そうだったのか。すまなかった。べつにそういう意味じゃなかったんだ」
「分かってるわよ。気にしなくていいわ」
「それじゃあ、改めて右の手で」
「ええ、お願い」
ニーシャが右手を差し出す。
俺はその薬指に指輪を嵌める。
ニーシャの指に触れたとき、俺のドキドキが彼女に伝わらないか心配だった。
「丁度ぴったりね」
リングはニーシャの薬指にぴったりとフィットする。
「ああ、昼間【魔力解析】しただろ。その際に指の太さも測っておいたんだ」
「そう…………。他のサイズは測っていないわよね?」
「他の?」
「その反応なら大丈夫そうね。あらためて言うわ、アル、ありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして」
ペンダントも指輪もとっても良く似合っている。
2つのアクセサリーはニーシャの魅力を引き出している。
満足した様子でアクセサリーを見入っているニーシャ。
その姿を俺はドキドキしながら眺めていた。




