219 スライム実験4
スライム牧場から工房に戻って来た俺は、すぐさまケージから無色スライムを取り出し、テーブルの上に乗せる。
「これで上手く行ってくれよ」
願いながら、何度も繰り返して慣れた手つきで魔法障壁を発動し、スライムを包み込む。
目に見えない魔法障壁でギッチリと閉じ込められたスライムは身動きも取れない。
そのスライムに向かって、俺は魔力を注ぎ込んでいく――。
「おっ!」
十分に魔力を注ぎ込むと、スライムは粉末状に変化する。
見た目だけで言えば、今までと同じ結果だ。
成功か、失敗か。見た目では判断がつかない。
俺はドキドキしながら、粉末に【遺物解析】を発動する。
こちらを焦らすように、ゆっくりと進んでいく【遺物解析】。
頼む。
頼む。
頼む。
頼む。
頼む。
正直、これで上手くいかなかったら、かなり厳しい。
まだ他の色が残っているが、無色がダメで他の色で上手くいく可能性は低いんじゃないかなと思う。
その場合は、まったく別の方法を考えなければならないが、今のところノーアイディアだ。
ダメだったら、かなりの時間と画期的なアイディアが必要だろう。
だから、上手くいってくれ。
俺は祈り続ける。
頼む。
頼む。
頼む。
頼む。
頼む。
そうして、ようやく解析が完了した。
解析結果は――『万物素』。
……。
…………。
………………。
……………………。
「やったああああああああ!!!!!!!!」
思わず快哉の叫びをあげる。
ついに、万物素を作り出せた。
これで、必要なものは全て揃った。
ここまで長かったけど、ついに『カートリッジ』を作り出せる!!!
「師匠、もしかして……」
俺の叫び声を聞いて、ビスケが話しかけて来た。
「ああ、ついに最後のピースが揃った。これで『カートリッジ』が作れるはずだ」
「おおおっ。おめでとうございますぅ」
パチパチパチと拍手をして、ビスケが祝ってくれる。
それを聞きつけたのか、同じく工房内で作業をしていたミリアとカーサも近寄ってきた。
「アル、やったかニャ?」
「アル、出来たの?」
「ああ、これが万物素だ」
俺はテーブル上の粉末をつかみとり、3人に見せる。
「おお、凄いニャ」
「これが万物素……」
「さすが師匠ですぅ」
3人とも感嘆の表情で見つめている。
「まあ、まだ『カートリッジ』を作るという最後の段階が残っているんだけどね」
「それでも、凄いですぅ」
「もう出来たも同然ニャ」
「ええ、そうね」
「ははは。まだ気が早いよ。初めての物作りはなにが起こるか分からないから、最後まで気が抜けないよ。上手くいったら、その時に改めて打ち上げしよう」
「そうだニャ」
「そうしましょう」
「はいですぅ」
3人が持ち場に戻ったのを確認して、大きく深呼吸。
俺は最後のプロセスに取りかかることにした。
もう一度確認しておくが、『カートリッジ』はミスリルケースの中に濃度20%のピュアエーテル10ccを詰め込んだものだ。
そして、ピュアエーテルは万物素を神水に溶かしたもの。
万物素は今作り上げたばかりだし、神水も容器のミスリルケースも【虚空庫】の中にたっぷりと用意してある。
「よし、やるか」
これからやることは、今までやって来たことに比べれば、大した困難はないだろう。
3人には念の為、「なにが起こるかわからない」と言ったが、その可能性はほとんどないと思っている。
やらなきゃいけないことは、濃度20%のピュアエーテルを作るだけだ。
指定された濃度の液体を定量作るというのは、錬金術で言えば初歩の初歩だ。
気になるのは『濃度』が『体積濃度』を指しているのか、『重量濃度』を指しているのか、どちらなのか分からないことだ。
これは俺の【遺物解析】でも、ニーシャの【遺物鑑定】でも分からなかった。
でも、問題はない。俺の【遺物解析】で濃度を測れることが確認済みだからだ。
まず、試しに重量濃度で20%になるように万物素と神水を混ぜてみよう。
これで解析してズレがあったら、どちらかの量を調整すればいいだけだ。
俺は上皿型の魔導バネばかりをテーブルの上に置き、重量比が4:1になるように神水と万物素を計量する。
そして、容器に両者を入れ、金属製の混ぜ棒で混ぜ合わせる。
俺がクルクルと混ぜ棒を回転させると、粉末状の万物素は神水の中に溶けて――いかない。
「えっ!? あれ???」
俺が混ぜ棒を回すと、万物素は容器の中でふわりと浮かび上がり回転するが、手を止めるとまた元のように容器の底に沈殿してしまう。
必死になって手を動かすが、何度やっても結果は同じだった。
「う〜ん…………」
俺の中では、かき混ぜたら万物素は神水に溶け込んで、ピュアエーテルの完成! って予定だったんだが……。
「さて、どうしたものか……」
最後に現れた思わぬ難関。
どうしたものか、俺は思案に暮れた……。




