218 スライム牧場
6分、7分、……、10分と少しが過ぎたところでようやく解析が終わった。
解析結果は――『赤魔力素』。
赤魔力素?
なにそれ?
万物素じゃないのか……。
期待が高かっただけに、落胆も大きかった。
赤魔力素を握りしめたまま、俺は大きく息を吐く。
呆然としたまましばらく固まっていたけど、やがて気を取り直す。
まあ、ダメなものは仕方がない。
これはこれで新しい発見だ。
ニーシャに鑑定してもらえば、有益な情報が得られるかもしれないし、これだって遺物作りの素材になるかもしれない。
他の色のスライムもまだあるし、実験を続けるか。
気を取り直した俺はケージに向かった――。
それから俺は5色のスライム全てで試してみた。
まあ、結果は悪い意味で予想していた通りだった。
得られたのは魔力素だけだ。
青スライムからは青魔力素というふうに、出来上がったのはそれぞれの色に応じた全て魔力素だった。
5色の魔力素は得られたけど、肝心の万物素は作れていない。
「他のスライムで試してみるか……」
現在手元にある5色のスライムで他の方法を試すという選択肢もあるけど、それよりも他の色のスライムで試してみる方が良い気がする。
他の方法というのをすぐに思いつかないからってのもあるが……。
となると、スライム養殖家のゼルテンを訪ねるしかない。
「おーい、ビスケ」
「なんですか、師匠」
「今、手は空いてる?」
「はい、空いてるですぅ」
「さっき来たスライム養殖家のゼルテンの牧場って場所分かる?」
「ごめんなさいですぅ。私は知らないですぅ。ニーシャが知ってると思いますぅ」
「そっか、ありがとな」
「いえいえ、お力になれず、申し訳ないですぅ」
「気にすんな。ビスケも仕事頑張れよ」
「はいですぅ! 師匠も頑張って下さいですぅ」
ということで、ニーシャに【通話】だ。
『ニーシャ、ゼルテンの牧場の場所を教えてくれ』
タイミングが良かったようで、メッセージを送ってから数分でニーシャから返事が来た。
どうやら、スライム牧場は街の南側、穀倉地帯の一角にあるらしい。
大体の場所を聞いた俺は早速近くまで転移する。
「【転移】――」
街を出てしばらくの場所、南側の街道沿いに俺は転移した。
街道を挟むように広がる穀倉地帯。
その中に数件の大きな建物が立ち並ぶ場所があった。
あの中のどれかがゼルテンのスライム牧場だろう。
俺がそちらに向かうと、一人の少年が建物の入口付近で荷物の整理をしていた。
俺はその少年に声をかける。
「すまないが、ゼルテンの牧場はどこだろうか?」
「ゼルテンさんのところなら、あの赤い尖塔の建物ですよ」
「そうか。ありがとう」
俺は少年に言われた建物に向かう。
少年に言われた赤い尖塔の建物。
ウチの商会の建物より数倍の広さで、牛馬の厩舎に似た作り。一面は壁がなく開放されていた。
開かれた一面から建物を覗き込むと、十人ほどの々
が作業をしていた。
建物内部にはびっしりとケージが並べられており、その中にはスライムがつめ込まれている。
俺は中に向かって声をかける。
「ごめんください。ノヴァエラ商会のアルです。ゼルテンさんはいますか?」
「あらあら、これはわざわざご足労いただき、申し訳ございません。すぐに主人を呼んでまいります」
三十路過ぎの恰幅の良い女性が出て来た。
ゼルテンの妻なのだろう。
俺にひと言告げると、奥に引っ込んでいった。
待つこと数分。
ゼルテンが夫人とともに慌てた様子で駆け寄ってきた。
「これはこれは、アル様。なにか、至らぬ点がございましたか?」
不安そうな表情でゼルテンが伺ってくる。
今朝配達したばかりの相手が乗り込んできたから、なにかクレームでもあったのではないかと心配しているのだろう。
「いや、今朝届けてもらった分はなんの問題もない」
俺の言葉にゼルテン夫妻はあからさまに安堵の表情をみせる。
「では一体?」
「追加注文だ。数体ずつでいいから、5色以外でここにいる全部の色のスライムが欲しい。用意にどれくらい時間かかる?」
「ご注文ありがとうございます。でしたら、2時間……いや、大急ぎで1時間でご用意させていただきます」
「1時間か……。だったら、まずは無色のヤツだけすぐに用意してくれ。残りはまた後で取りに来る」
「はっ。すぐに用意させていただきます」
ゼルテンは言葉どおりに、数分もかからずに無色のスライムを用意してくれた。
「ありがとう。じゃあ、また後ほど」
「はい。準備してお待ちしております」
俺はちょうど抱えられるほどの大きさのケージを抱え、ゼルテンの牧場を後にした。
無色のスライムだけ先に受け取ったのは、このスライムが万物素になる確率が一番高いと思ったからだ。
今までの実験で上手くいかなかったのは、スライムが色付きだったからでは?
という仮説を立てることが出来る。
だとすれば、無色スライムなら上手くいくかもしれない。
上手く行ったら、準備してもらった他の色のスライムは無駄になるけど、大した出費じゃないし、今後なにかしら使い途が出て来るかもしれない。
ダメだったら、他の色を試すまでだけど、色々試してきて、そろそろ当たりを引きたい。
上手く行ってくれると良いんだけどな……。
そう思いながら、俺は工房に転移した――。




