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217 スライム実験3

 スライムを『カートリッジ』に詰めて魔力を込める方法は失敗に終わった。

 ダメなものはしょうがないと気持ちを切り替えた俺は、色々な容器にスライムを押し込んでは魔力を流す実験を繰り返した。


 異なったサイズの木箱や、鉄板を加工して作った箱。

 陶器やガラス、それに、布や革の袋なんかも試してみた。

 しかし、結果は全部失敗。

 思いつく限りの入れ物で試してみたけど、どうやっても、スライムは染料にしかならなかった。

 午前中いっぱいを費やして実験してみたけれど、まったく上手くいかなかったのだ。


 ――これは別の方法を考えないといけないかもな。


 そんなこんなで現在は昼食の時間。

 今日はニーシャを除いた5人が揃っての昼食だ。

 ニーシャは新店舗開設のため、遠くの街に行っている。


 俺以外の4人は仲良く会話しながら食べているが、俺はスライムのことが気になって、会話に加わらず思考に没頭している。

 みんなもそんな俺の事情を酌んでくれているようで、俺に話しかけずにいてくれた。


 ルーミィ以外の3人は昔からの知り合いだし、ルーミィも今では3人の輪に入れるほどに打ち解けた。

 みんなの楽しそうな話し声を耳にしていると、ついつい俺も会話に加わりたくなるけど、今は我慢だ。

 それよりも、この問題を解決しないとな。

 みんなの会話を聞き流しながら、俺は考え続ける――。


 スライムを閉じ込めるんだ。

 何に?

 どうやって?

 閉じ込める。閉じ込める。閉じ込める……。

 うーん…………。


 考え続けた末、ふと、閃いた。


――なにも容器に入れるだけが閉じ込めることとは限らないじゃないか!


 気づいてみれば、なんてことはない。

 なんで、もっと早く思いつかなかったのか、と自分の頭を責めたくなる。


 うん。閃いた思いつきは悪くないと思う。

 現状はこれしか方法はないように思える。

 いよいよ、正解にたどり着いた気がする。


 そう思うといても立ってもおられず、俺は掻き込むように昼食を平らげた。


「師匠、どうしたんですかぁ?」


 俺のそんな姿に、皆の視線が集中する。

 今までロクに食事が進んでいなかった俺が、猛スピードで食べ物を詰め込みだしたものだから、みんな何事かと気になっているのだろう。

 俺は口の中の物をお茶で流し込んでから返事をする。


「いや、ちょっと閃いてな。というわけでお先に失礼する。ルーミィ、片付けは任せた」

「はい、ご主人様」

「師匠、頑張ってくださいね」

「アル、頑張って」

「頑張るニャ」

「おう、ありがとな。あとちょっとで終わるかもしれないから、もうひと踏ん張りしてくる」


 みんなの声を受け、俺は立ち上がる。

 そして、階段を駆けるようにして下り、急ぎ足で工房へ向かう。

 工房に着いた俺は、早速ケージから赤スライムを取り出し、テーブルに乗せる。


 俺は深呼吸を繰り返して自分を落ち着かせる。

 先ほど思いついた方法をこれから試すのだ。


 俺が思いついた方法とはなにか?


 それは容器に入れて閉じ込めるんじゃなくて、魔法障壁でスライムを閉じ込めるという方法だ。

 今のところ、これしか方法は浮かんでいない。

 でも、上手くいく気がする。

 俺は大きく息を吐き出した。


「よし、やるぞっ!」


 俺は脳内で魔法を構築し、スライムに向かって魔法を発動させる。

 その結果、目に見えない魔法障壁がスライムを覆い尽くす――。


 今回使用したのは『カートリッジ』を覆っていたのと同じ古代魔法の魔法障壁だ。

 『カートリッジ』の場合は外から中への侵入を防ぐ一方通行だったけど、俺が用いたのはそれを反転したものだ。

 これでスライムは出れないけど、外部から魔法干渉することが可能だ。

 以前、魔法障壁を解析した結果、魔法障壁の魔法的特性は完全に理解した。だから、こうやってアレンジを加えることも簡単に出来るのだ。


 テーブルの上では不可視の壁に阻まれ、スライムが身動き取れずにいる。


「さあ、これで上手く行ってくれると良いんだけどな」


 俺は一人呟く。

 今のところ、他の方法は見当もついていない。

 これが成功することを願うばかり。

 心臓はドキドキと早鐘を打つ。


 俺はスライムに手を近づける。

 そして、祈りながら、魔力を込めていく。


 今までとは違う手応えだ。

 その事実に期待が高まる。


 しばらくした後、スライムに変化が起こる。

 ひと塊だったスライムが粉末状に変化し、それ以上魔力を受け入れなくなったのだ。


 俺は魔力供給を止め、はやる気もちを抑えながら、魔法障壁を解除する。

 スライムだったそれは形を失い、崩れた砂山のようにテーブルの上に広がった。


 興奮した俺はそれをひとつまみ持ち上げ、指先で感触を確かめる。

 確かに今までとは違う、サラサラとした肌触り。

 さらに、期待が高まった。

 ゴクリと息を呑んでから、俺は【遺物アーティファクト解析】を赤い山に向けて発動させる――。


 【遺物アーティファクト解析】は他の鑑定・解析系の魔法と違い、瞬時に結果が得られるわけではない。

 解析結果が得られるまでに時間がかかるのだ。

 叡古の章の一文を解析するのに1分少々。

 『カートリッジ』の魔法障壁を解読するのに6時間。

 物によっては数日がかり。


 俺の熟練度が低いからなのか、なにを解析するにしてもやたらと時間がかかるのだ。

 さて、今回の場合はどれくらいの時間がかかるのか。


 じれったく思いながらも、俺は魔力を注ぎ続ける。

 1分、2分、そして、5分。

 まだ解析は終わらない。

 6分、7分、……、10分と少しが過ぎたところでようやく解析が終わった――。

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[気になる点] スライム、加圧して加熱or冷却したら相転移しそう 魔化した超臨界スライム?
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