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215 スライム実験1

 ゼルテンと会話をしながら、店の外に出る。

 会話の内容はもちろん、スライムについてだ。

 ゼルテンはスライムの性質について色々と教えてくれた。


 店の入り口から少し離れたところに荷車が置かれ、そこには一辺が2メートルほどの立方体の金属製ケージが乗せられていた。

 ケージは鉄板で覆われており、蓋を開けないと内部が見えないようになっていた。


「店先で確認するのもアレなんで、中に移動しましょう」

「大丈夫ですか?」


 ゼルテンが心配そうに尋ねてくる。

 確かに、この大きいケージだと、持ち運びも大変だし、狭い店内を通り抜けるのも困難だ。


「大丈夫ですよ。【虚空庫インベントリ】があるんで」


 俺はケージを【虚空庫インベントリ】に仕舞い込む。

 ゼルテンが「羨ましいですなあ」と漏らす。

 俺は気にせず、ゼルテンを連れて工房に戻った。


 開いているスペースにケージを取り出して置き、ゼルテンに任せる。

 ゼルテンはケージの錠を外し、横の一面を開いた。

 ケージの中は小さく区分けされ、色ごとに分けられたスライムたちが詰め込まれていた。


「中の錠もこの鍵で開けれるようになっております。スライムはどうしましょうか? 出しちゃいますか? それともケージごとお預けしましょうか?」

「じゃあ、ケージごと預かるよ」

「承知いたしました」


 ゼルテンが俺に鍵を手渡す。


「数の確認は致しますか?」

「ああ、大丈夫だ」


 ウチはこれから大口取引先になる。

 そのことはゼルテンも聞いているはずだ。

 そんな相手に数を誤魔化したりはしないだろう。


「確かに受け取りました。支払いについては店の者に聞いて下さい。話は通っています」

「へへえ。それじゃ、あっしはこれで失礼させていただきます。今後ともご贔屓に」


 来た時と同じく、へこへことした頭を下げながらゼルテンは帰って行った。


「よし、やるか」


 早速、俺は実験に取りかかる。

 ケージ内の鍵を開け、1匹のスライムを取り出し、手に乗せる。

 俺が選んだのは赤色のスライムだった。

 特に理由はない。最初に目についたからだ。


 俺はスライムには詳しくない。

 色が違うとどういう性質の違いがあるのかもよく分かっていない。

 だから、これから色々と実験してみるのだ。


 手に乗せた赤スライムはフルフルと小刻みに動いている。

 平べったい形状で厚さは1センチほど、大きさは直径10センチほどだ。


 スライムは不定形生物で、決まった形をとらない。

 砂粒ほどの小さなスライムもいれば、数メートルの大きさのスライムも存在する。

 切れば2つのスライムに分裂するし、スライム同士がくっついて1つのスライムにもなる。

 全体が均一な構成をしており、特別な器官はもっていない。

 大気中の魔素を取り込んでエネルギーとし、食事も排泄も行わない。


 以上がゼルテンから教わったスライムのあらましだ。

 俺たち人間とも、魔物たちとも、まったく異なった生態だ。

 『最も古き生物』と呼ばれるのも納得できる。


 さて、これからコイツで実験をするわけだが、俺の目的はスライムから万物素を作ることだ。

 スライムをイジるのは初めてでどこから手を付けるか悩みどころだ。

 だけど、俺にはひとつの指針がある。

 そう。『錬金大全』の叡古の章にあった一節だ。


『万物素を得るには最も古き生物を逃がさぬように一箇所に留め、魔力を注ぎこみ、飽和させればよい』


 要するに、スライムを閉じ込めて、魔力を注げばいいのだ。

 問題はたったの2つ。


 どうやって閉じ込めるか?

 どうやって魔力を注ぐか?


 たったこれだけだ。


 具体的にどうすればいいかは試行錯誤するしかない。

 だけど、ここまで来たらもうゴールは見えたも同然。

 実験あるのみだ!


 そう意気込んだところで、俺はふと気になった。


 ――スライムを閉じ込めないで魔力を注いだらどうなるんだろ?


 思いついたら、試さずにはいられない。

 俺は好奇心の赴くがまま、ケージから取り出した赤スライムをテーブルに乗せる。

 俺の手から離れた赤スライムはテーブルの上にぺた〜と広がる。

 スライムは赤い色をしているが、薄く伸びているからか、テーブルの天板が透けて見える。

 そのスライムに向かって俺は手を伸ばし、魔力を注ごう――として、気がついた。


「一応、障壁を張っておくか」


 初めての実験だ。なにが起こるか分からない。

 俺は念の為に、魔法障壁を発動させる。

 『カートリッジ』を覆っていた古代魔法の魔法障壁ではなく、小さい頃から馴染みのある普通の魔法障壁だ。


 古代魔法の魔法障壁について実験した結果、普通の魔法障壁よりも格段上の耐久性を持っていることが分かった。その分、魔力の消費量も大きいが。

 今回はそこまでの耐久性は必要ないと判断し、普通の魔法障壁を選んだのだ。


「よし、オッケー」


 テーブルの上のスライムを覆うよう魔法障壁を張る。一辺20センチほどの立方体だ。

 今回の魔法障壁は一方通行型。

 外から中へは通すが、逆は通さない。

 こうしないと、障壁の中のスライムに触ることが出来ないからだ。


 俺は障壁の中に両手を差し入れ、スライムに触れる。

 ぷるんとした感触。

 ひんやりとした肌触りが気持ち良いけど、いつまでも触っているわけにはいかない。

 俺は両手のひらでスライムに触れ、魔力を流し込んでいく――。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、障壁で囲うのは閉じ込めた事にならないの?これが閉じ込められてないって、じゃあ何をやったら閉じ込めた事になるんだ・・・
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