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214 スライム養殖家

 シドーさんとの王都デートの翌日。

 昨日はいいリフレッシュになった。


 これまで開店準備からオークション、そして、開店。

 その後も貴族巡りと陛下から呼び出し、それが済んだら、『カートリッジ』の解析に打ち込む日々。


 ここのところ休みなく働いていたから、昨日は久々に仕事のことを忘れて過ごすことが出来た。

 生まれて初めて観光を楽しむことが出来たし、カーチャンのことを知ることが出来て良かったし、シドーさんとの仲も深まった。


 本当に充実した一日だった。

 おかげで、今日からまた仕事に集中できる。

 しかも、今日はカートリッジ解析の最後のステップ――万物素の作成に挑戦する。

 ここを乗り越えれば、人類の夢とも言える遺物アーティファクトの作成が実現することになる。

 否が応でも期待が高まるものだ。


 万物素作成に必要なものはスライムだ。

 『錬金大全』の叡古の章にあった一節――。


『万物素を得るには最も古き生物を逃がさぬように一箇所に留め、魔力を注ぎこみ、飽和させればよい』


 最も古き生物とはスライムのこと。

 この記述から察するに、スライムを閉じ込めて魔力を注ぎ込めば、万物素を得ることが出来る。

 どのように閉じ込めれば良いのか。どの程度魔力を注げば良いのか。

 具体的な方法は分からないけど、方向性はすでに明らかになっている。

 後は、試行錯誤すればいいだけだ。


 今まで染料にしか使い途がないと思われていたスライムに新たな可能性が見出されたのだ。

 俺は興奮を抑えながら、待ち人の到着を待っていた――。


「アルさん、お客さんですよ」


 先日雇った売り子の女の子が痩せぎすの中年男性を連れて工房に現れた。

 待っていた相手がようやくやって来たようだ。


「どうも、始めまして。スライム牧場を営んでおりますゼルテンと申します。この度は、大口の契約を結んでいただき、ありがとうございます」


 ゼルテンと名乗る男がへこへこと挨拶をする。


「ノヴァエラ商会のアルです。よろしく」


 俺はゼルテンと握手を交わす。


「まあ、座って下さい」

「こりゃ、どうも」


 ゼルテンに椅子を勧め、俺も向かい合った椅子に腰を下ろす。


「早速なんだが、スライムについて色々と聞きたいんだ」

「ええ、ウチは3代目のスライム養殖家でして、生まれた時からスライムには慣れ親しんでおります。他のことはからっきしですが、スライムのことなら何でも聞いて下さいな」

「そうか。じゃあ、万物素って知っているか?」

「万物素……ですか?」

「ああ」

「うーん、えーと……」

「知らないなら知らないで構わないぞ。知らないことを責めたりはしないから、正直に答えてくれ」

「はあ。申し訳ございませんが、聞いたことありませんな。スライムと何か関係があるんですかい?」

「いや、知らないならそれでいい。じゃあ、最も古き生物は?」

「それも知りませんな。ただ、スライムは大分古い時代から生きているってことは知っております」


 専門家であるこの男でも、万物素や最も古き生物については知らないのか。

 やはり、知識は失われ、書物の中のみで連綿と受け継がれているんだな。


「そちらでは、どれくらいのスライムがいるんだ?」

「そうですねえ、天然の5色スライムがそれぞれ千匹ほど――」


 天然のスライムとは自然界に存在する赤青黄緑黒の5色のスライムのことだ。


「それにオレンジや紫などの合成スライムがそれぞれ百匹から数百匹。後は無色スライムなんかも数百匹おります――」


 天然のスライムを掛けあわせることによって、新たな色のスライムを生み出すことが出来るのだ。

 この技術によって、様々な色の染料が生産可能になった。

 俺は知らなかったけど、無色のスライムも存在するのか。


「ここらへんはお客様の需要に応じて増減するのでその時によって変わりますが、必要でしたら一週間ほどいただければ、それなりの数を用意できますよ」

「なるほど。ちょっと気になったんですけど、無色のスライムなんて、需要があるんですか?」

「ええ、皆さん驚かれるようですが、意外と需要があるんですよ。無色でコーティングすることによって、色を変えずに表面を保護することが出来ますし、他の染料の上から塗ることで光沢を出すことも出来るんです」

「へえ〜、なるほど。そう言う使い途があるんだね」


 ゼルテンの説明を聞いて納得した。


「スライムから塗料を作り出すにはどうするんですか?」

「鍋で煮るんですよ。大きな鍋にスライムを詰め込んで、弱火でコトコト煮込むんです。そうすると、スライムは粉末になります。それが染料になるんですよ」

「加熱するんですか……」

「ええ。そうです」

「他に処置方法はありますか? 例えば、スライムに魔力を注ぎこむとか」

「うーん。もっぱら加熱ばっかりですね。なにせ、売り物になるのは染料だけですから。ただ、スライム同士を掛けあわせて新しい色を生み出す際には、魔力を込めると時間が短縮されるらしいですね。ウチには魔術師もいないですし、余所に頼むほどでもないですから、やりませんけどね」

「分かりました。色々教えてもらって助かりました。また、分からないことがあったらお願いします」

「ええ、私でお答えできることでしたら、お教えしますので、お気軽にお尋ね下さい」

「ええ、その時は頼みます。それで、頼んでいたスライムは?」

「量が多かったので、大きめのケージに入れて来ました。店の前に置いてあります」

「じゃあ、それを取りに行きましょうか」


 俺はゼルテンとともに、表に向かった――。

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