表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

207/268

207 スライムと箱

 有意義だった朝のミーティングが終わった。

 万物素の謎も解けたし、神水はカーサが作れることも分かった。

 ピュアエーテルは万物素を神水に溶かしたものだ。

 これで、ピュアエーテルの生産に目処がたった。

 ようやくゴールが見えてきたところだな。


 俺はリビングに残るニーシャとスライムの購入について、話を詰めていく。

 スライムとひとくくりで呼ぶが、色んな色をしたスライムがいる。


 自然界に存在する赤青黄緑黒の5色のスライムの他、人の手で作り出された紫やピンクなどの色をしたスライム、果てにはまだら模様のスライムまで存在するとニーシャから教わった。

 スライムは染色には欠かせないので、大きな街の郊外には大抵スライム牧場があり、そこでスライムが養殖されているそうだ。


「とりあえず、天然の5色のスライムを一定数。それとスライムの生態に詳しい人間を一人派遣して欲しい」

「ええ、分かったわ」

「これが上手く行ったら、スライムの買い取り量がすごい量になるぞ。スライム牧場も干し肉業者の時みたいに買収した方がいいんじゃないか?」


 特製干し肉の生産にあたって、最初のうちは原材料の肉は既存の干し肉業者たちから仕入れていた。

 だけど、特製干し肉の需要増に伴い、すぐに契約業者だけでは追いつかなくなった。


 問題なのは需要が増えたからといって、彼らはすぐに供給量を増やせないことだ。

 干し肉業者は既に、限界まで生産を増やしている。

 それ以上生産量を増やすための人も設備も足りていない。

 そして、彼らは即時に人や設備を増やすための資金があるわけでもないのだ。


 こういう場合、いくつか取れる手段がある。

 他の業者を探すこと。

 俺たちが彼らにお金を貸して、人や設備を増やしてもらうこと。


 そして――ニーシャが選んだ方法は買収と増資だった。

 取引先だった干し肉業者たちをまとめて買い上げ、お金を注ぎ込み、増産体制を整えたのだ。


 下請け業者を買収し抱え込むのはいいことばかりではない。

 もちろん、悪い面もある。

 本来、下請け業者が背負うはずのリスクを自分たちで背負わなければならないのだ。


 例えば、農作物の買い付けを考えよう。

 農家から直接農作物を買い付けている場合は、不作の場合でも、少し高い値を支払うだけですむ。

 しかし、農場ごと買い上げた場合は、農作物の不作による損害を全て背負わなければいけなくなる。


 誰もりんご1個買うために八百屋を買収したりしない。

 しかし、自分たちの事業と密接に関係しているならば、買収する価値はある。

 俺たちの場合は、特製干し肉の生産量を自分たちでコントロールしたかった。

 そういう場合には、買収は有効な手立てだ。


 それに俺たちは使い切れないほどの資金を遊ばせている状態だ。

 干し肉業者の買収なんて誤差の範囲。

 少し色をつけた条件を提示したら、どの業者も喜んで買収に応じてくれた。


「そうね。買収の方向で考えておくわ」

「ああ、よろしく頼む」


 これでスライム関連の話は片付いた。

 だけど、ニーシャにはもうひとつ話がある。


「それとニーシャに頼みたいことがある」

「なにかしら?」

「『カートリッジ』の作り方は分かった。中身のピュアエーテルの生産もなんとかなりそうだ」

「ええ、そうね」

「だから、ニーシャにはこの外箱の確保を頼みたい」


 俺は『カートリッジ』からピュアエーテルを取り除いた、空のミスリル箱を手渡す。

 『カートリッジ』を大量生産するとなると、外箱も大量に必要になる。


「ただのミスリル箱だ。なんの魔法処置もほどこされていない。ただ、物凄く薄いから、腕の立つ職人じゃないと作れないかも」

「なるほど、確かに薄いわね。これを一定数確保すればいいのよね?」

「ああ、どれくらいの規模になるか分からないけど、大量生産するつもりだ」

「分かったわ。職人を確保しておくわ。それとも、生産工場を建てる?」

「そこら辺の判断はニーシャに任せるよ」

「あっ、そうだ。今思いついたわ」

「なんだい?」

「使用済みの『カートリッジ』じゃ、ダメかしら?」


 盲点をつかれた気分だ。

 自分で作ることばっかり考えてて、すっかり見落としていた。


「いや、まったく問題ない。むしろ、そっちの方が安く大量に入手出来そうだな」


 使用済みの『カートリッジ』は濃度が0%のピュアエーテル、つまり、ただの神水が詰まっているミスリル箱だ。

 魔法障壁を解除し、蓋を開けて万物素を溶かし込めばリサイクルできる。


「ちなみに、今、使用済みの『カートリッジ』ってどういう扱いされてるんだ?」

「ただのゴミよ。一定の衝撃を与えれば、跡形もなくなるから、そうやって処分されてるわ」


 うわー、もったいない。

 でも、しょうがないかもな。

 俺は【虚空庫インベントリ】があるから気軽に全部仕舞い込んでおいたけど、普通の人にとってはなんの役にも立たない、ただのゴミだもんな。


「じゃあ、ただ同然で手に入るのか」

「ええ、そうね」

「だったら、出来るだけ多く仕入れてくれ」

「そうね。これで『カートリッジ』が作れるようになったら、ボロ儲けね」

「ああ。よろしく頼んだよ」

「任せて。使えるツテは全部使ってかき集めてみせるわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ